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三十五話



 馬車から離れた二人は今、誘拐犯達の隠れ家に程近い道角に息を潜めていた。その場は所々、家から漏れる光と月明かり以外は録な光源は無く。月影に隠れればバレる心配は無かった。


 守孝は隠れ家にMP7を向け警戒し。インはVSSをとある方向に向ける


「イン。排除しろ」


「了解ですマスター」


 インの了承の合図と同時に引き金が引かれ、VSSの機関部が動作する音と空薬莢が地面に落ちる音が響く。


 だが、それすらも何処からか聞こえる環境音によって掻き消えてしまった。


 別にインは闇雲に弾丸を放った訳では無い。彼女のセンサーと目にはくっきりとこの場に隠れる敵対者が写っている。


「……マスター命中しました」


 亜音速で放たれた9×39mm弾は……物陰に隠れていた監視者を撃ち抜いた。


 彼等は直ぐ様、影に隠れながら監視者の元に向かう。監視者は喉を撃ち抜かれており、喉を押さえながらうずくまる。


「ヒューッ……ヒュー……ヒュッ……!!」


守孝達には好都合にも監視者は声帯を傷付けた様で声は出ず、悲鳴の上げようにも首に新たな出来た穴から、空気が漏れるのみだった。この男は後数分の命だ。


 不幸にも死神は、今まさに首を取ろうと鎌を振り下ろそうとされている監視者は、こう思っている事だろう。


『なんで、俺がこんな目に!?』


「別にお前は悪くない。恨むなら……雇い主でも恨むんだな」


 守孝はサプレッサーを装着したM45A1で、この哀れな監視者に慈悲の一撃を眉間に放った。


 膨らましたビニール袋を割れ損なった音と共に放たれた45口径弾は監視者の眉間に新たな穴を作り後頭部の三分の一を吹き飛ばした。


 監視者は数回痙攣した後、脱力し動かなくなった。守孝達はその監視者の死体を物陰に隠し、そこら辺に落ちていたぼろ切れで頭を覆ってやる。


「何でまたそんな事を?」


「じゃあ聞くが。死んだ人間に味方も敵もあるのか?」


 死んだら皆仏と彼も思ってる訳では無い。だが、殺し殺させるこの外道な世界で、死んだらせめて"人間"として扱う。それぐらいしか彼にやれる事は無かった。


「イン。他に監視者らしきモノはいないな?」


インは数秒の沈黙後、頷いた。


「大丈夫です。敵影は感じられま……せん……あ、あの。ま、マスター?」


 守孝を見たインは恐怖を覚えた。月明かりに照らさせる黒ずく目の己の主人が何時もとは違う存在に見えたのだ。


 何と言ったら良いか自動人形の彼女には分からない。見た目でも、体温でも、口調でも無い。それらは彼女の機能で一発で変化が分かる。


 己の機能では計り知れない己の主人の変化。それに名称付けるなら……"マスターの纏う雰囲気が、心が変わった"。


「良し。これより隠れ家の制圧に移るぞ……なんだ、どうしたイン?」


「い、いえ!何でもありませんマスター!」


 インに話し掛ける守孝は何時も変わらない口調、雰囲気であった。彼女も(私の勘違いですよね……)と考えるのを止め、間もなく訪れる戦闘に備えるのだった。



…………今宵、この時から羽を休めていた戦場を渡る鴉は、もう一度空を翔び始めた。













……暗い……暗い……真っ暗……怖い……怖い怖い怖い……!


 そんな考えがぐるぐると頭を駆け巡る。どれ程時間が建ったか自分では判断出来ない。猿轡と目隠しをされている。


助けてほしい……助けて!だが、助けは来ない。


 彼女……ミシェルはとある一室に、両手、目隠し、猿轡の状況で放置されていた。外からは男達の下卑た笑い声が聞こえてくる。


(何でこんな事になったの……?)


 彼女はもう、何回かも覚えてない今朝の事を思い出す。


(今朝は、お父様の言い付けで、何時もは見られない王都が見られて楽しかったわ……だけど、途中でサリーが襲われて……私も浚われた……サリーは大丈夫かしら……)


 彼女の脳裏に浮かぶのは。棒で殴られて倒れる、雀斑の彼女の女中の姿だ。


(……多分、大丈夫よ……!サリーは死んでないわ!確か……倒れている時に呻き声が聞こえたわ……!だから……大丈夫……よね?)


 厳しくも優しく接してくれる姉の様な存在であった彼女が、死んでる訳が無い。彼女はそう言い聞かせていた。


 だが、脳裏に浮かぶのは、倒れてそのまま動かない。サリーの姿だ。一度悪い想像をすると、それをエサに更に悪い想像が生まれてくる。


(違う……違う違う……!サリーは死んでない!)


 彼女は必死に脳裏から流れる嫌な想像を振り払う。次に出てきたのは……父と母、そして遠くに居る兄の姿だった。


 何時も厳しく勉強や礼儀作法の事を言うが、他の事は優しく、甘えさてくれる優しい母親。


 何時も忙しく仕事で夜遅くまでお仕事をし、遠くの地までお仕事の話をしに行く一方。休日の日は遊びに付き合ってくれる偉大な父親。


 父や母には反抗的だったが、時々、家を抜け出しては、王都で色々と買ってくれた優しい年の離れた兄。


 そんな彼女にとって大切な人達の事を思い出す……だが、助けは来ない。


(お父様……お母様……お兄様……どうして助けてくれないの?……ミシェルは要らない子なの……?)


 自分は捨てられたのではないか?そんな感情が表にでてくる……だが、涙は既に枯れて流れず、声を張り上げようとするも本能的に彼女は口を押さえた。


 猿轡で阻害されるだろうが、声が煩いと殴られるのは嫌だった。彼女が泣いたり、叫ぶと殴られる、棒で叩かれた。


 彼女の体はその跡がくっきりと残されていた。


(もう……ダメなのかな?)


彼女の心はボロボロと崩れ落ち、もう、人押しで崩れる寸前であった。だが……


(まだよ……まだ……!絶対に諦めてはダメよ!)


 彼女は諦めてなかった。絶対に助けは来る。その為に出来るだけ大人しくする。それが彼女に出来る事だった。


 そうして来ると薄い壁に隔たれて聞こえてきた。自分を誘拐した男達の話し声に耳を傾ける。



「これで俺達は大金持ちだ……!」


「お前どれだけそれを言うんだよ……まあ、嬉しいのは同感だがな」


「それよりも……あの餓鬼どうする?」


「どうするって……親に受け渡すんだろ?」


「……確か、雇い主からは好きにして良いって言ったんですよね、お頭」


「確かに言ってたな……何処ぞの奴隷商人に売っちまっうか。そしたら方が金も手にはいるし、手も汚さなくて済む」


「それじゃあお頭、その前に……あの餓鬼で楽しんでも良いですかい?」


「楽しむって……お前なんな餓鬼が良いのかよ……」


「あれぐらいでもイケるって話ですよ、グヘヘッ……泣き叫びながらヤるのはもう最高ですよ……!」


「……はぁ。ヤるのは構わんが今はヤるなよ。餓鬼の叫び声で酒と飯が不味くなる。それと壊すな、値が下がるからな……」


 ……彼女の耳には恐ろしい話が入ってきた。


 "ヤる"って言う単語は理解できなかったが、売られると言うのは彼女にも理解できた。


 (売られてしまったら……もう、お父様達には会えない……!)


 そんな感情が頭の中に渦巻まく。その時思い出したのは、昨日初めて会ったあの二人だった。


 傷だらけで黒髪の男と、お人形の様に美しい銀髪の少女。最初は怖かったがどちらも優しく接してくれた。


(……あ)


その時あの人達が帰ってから、父は彼女に話していた事があった。


『ミシェル。あの人達……特にモリタカ、傷があるおじさんはね怖そうだし、多分、お父さんが考える事よりも数倍、ツラい目や苦労していると思う。だけどね怖い人じゃない。優しい人だ。だから……お父さんは彼を信用する。もしミシェルに困ったことにあったら、彼に相談すると良い。きっと助けてくれるよ』


自らの父が言っていた言葉。本当なら……!


(助けて……傷のおじさん!インのおねいちゃん!)



「もう、大丈夫ですよミシェルちゃん」



 暗闇の外から声が聞こえてきた。……昨日はじめて会ったあのお人形の様な少女の声が。


「ちょっと待ってて下さいね……直ぐに終わりますから」


彼女の耳がソッと塞がれた。


 そしてその瞬間だった。耳を押さえられ聞こえにくい暗闇の世界でも分かるくらいの、光と爆音に支配された。



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