三十四話
闇夜を北地区貧民窟、誘拐犯達の隠れ家に向かって馬車を走らす。
捜索の段階では隠れ家を特定するのに時間が掛かったが、今は場所は特定済みなので、そこまで時間は掛からない。インは御者に道を教え、守孝は移動中の馬車の中でマルクスの部下達に今回の作戦を端的に説明する。
「さっき言った通り君達に戦ってもらうつもりは無い。やって欲しい事は二つ。一つ目は俺とインを目的地まで馬車で連れていく事。理由は……まあ、分かるな?」
守孝がそう言うと暗い馬車の荷台にいる面々は苦笑いが漏れた。彼等から見ると守孝の体には、全身黒の服に良く分からないポーチが縫い付けられており、何に使うかも理解出来ない道具を持っている。
こんなのが王都を歩くのは怪しさ満載だ。それを理解する面々は苦笑いしながらも了承した。
「それで二つ目。救出を終えた際にミシェルちゃんと処理した誘拐犯達を馬車に乗せて欲しい……簡単だがこの二つだ。何か質問は?」
[マルクス商会]の手代達は何も質問は無かったが。一人、マルクスに雇われている子飼いの冒険者、カールが質問をした。
「質問は三つ。一つ目は俺達は戦闘に参加しないなら隠れているが、そっちの処理が終わるのをどうやって確認すれば良い?」
「それはこの光が三回細かく点滅したら此方に来てくれ」
守孝はポーチから取り出したペンライトを三回点滅させた。
「おぉ!?なんだその明るい光は!?」
その光景をみた[マルクス商会]側の面々は驚きを隠せなかった。この世界、未だに光と言うモノは火や太陽、月明かりに星の煌めきと言った原始的なモノしか無い。
それ故に電気を使った人工的な光は彼等は見たことは無かったのだ。
彼は江戸時代にタイムスリップした人間になったような気分になったが、それを面には出さずに話を続ける。
「先ず一つ目は解決だ次は?」
「あ、ああ。二つ目は俺達がする仕事の理由だ。ミシェルさんを助けて此方に歩いて来るだけて良いのでは?」
「それは今、誘拐犯達の隠れ家には誘拐犯を金で雇った奴……これは仮に"A"としているが。その"A"が誘拐犯達を見張るために監視者を放っていた。監視をしている場所は掴んでいて、そっちも処理するが他に居る可能性がある。だからミシェルちゃんを助けた後に俺達は周辺の警戒をし、君達が馬車を隠れ家に寄せて素早くその場から立ち去りたいんだ」
その言葉に納得が言った様で冒険者の男は了承の返事をするとその後は、質問も無く。守孝は話を止めた。
その後は馬車の中に沈黙だけが残った。
馬車が出発した当初は手代達も雑談等をしていたが、馬車が北地区、貧民窟に近付くにつれ口数が減り、北地区に入った時には誰一人として喋る手代はいなかった。
守孝は手代達に気楽にいられるより、少し緊張感を持たせておく方が良いと判断して手代達に喋りかけるのは止めていた。
だが、その中で荷台の後部で外を見ながらのんびりしている男が一人、それはマルクス子飼いの冒険者のカールだ。
流石は冒険者と言った所だろうか、この状況は慣れた様子でのんびりとしている。そんな彼に守孝は話し掛けた。
「カールさんだったな。どうだ調子は?」
「カールで良いさ。あんたは確か……モリタカだったな。調子は万全、何時でも行けるさ」
そう言って笑うカールは口元は笑っていたが目は笑っていなかった。
「……そうえば、カールは何でまたマルクスの所で護衛をやっているだ?見たところ怪我も無さそうだし、未々冒険者としてやれただろ?」
守孝が質問をするとカールは苦笑いをしながら答えた。
「……あー。俺は元々四人組の徒党を組んでいたんだが……依頼中にヘマしてな。幸い俺は肋骨を二三本折れただけで済んだが……他の仲間はダメだった。それでまあ、ちょっと色々有って店主……マルクスさんに拾って貰ったんだ」
「……それは辛い事だな。俺も昔、戦友を無くした事が有る。そんな事を喋らせて済まなかった謝罪するよ」
その話を聞いて守孝は素直に謝罪する。戦友、仲間を失う辛さは彼も知っていた。その謝罪をカールは笑いながら受け入れた。
「ああ、大丈夫さ。あれは俺達がヘマしただけの事。もう、気にしてないさ……それよりも今はお嬢……ミシェルさんを助ける事が先決だ」
そう言うカールは拳を強く握った。
「ミシェルちゃんを助けたいんだな」
「当たり前だ!……済まない大声を出してしまった。俺はマルクスさんに拾って貰った恩が有る。それに報いなければならない。それに……ミシェルさんは俺の様な冒険者崩れのごろつきにも優しく接してくれた。そんな優しい彼女を助けたいんだ……!」
カールから滲み出る言葉の端々には悔しさ、怒りが籠っていた。それだけミシェルが彼等に大事にされていたのが分かる。
「安心しろカール。俺達が絶対ミシェルちゃんを助け出してやる」
その言葉にカールは力強く頷いた。
そうしていると間もなく馬車が止まり、御者に道案内をしていたインから声が掛かった。
「マスター。それと皆さん到着しました!」
インのその言葉に荷台の緊張は一気に競り上がった。生唾を呑み込む者、足が震える者。様々だ。
彼等自信も"自分が戦う"とは思ってない。だが……今現在、自分達が居る所が敵地なので有ると言う認識がそうさせている。
そんな彼等を尻目に守孝は装備の最終チェックを行う。と言っても月明かりに位しか光源無く、ちゃんとポーチ等が着いてるかどうか位だが。
彼はチェックを終えると馬車から降りた。そして緊張しか無い荷台に話し掛けた。
「安心しろ。大丈夫だ。俺達が直ぐに終わらせてくる」
彼はそう言うとバラクバを被り、インと合流する。
「では、参りましょうかマスター」
「ああ、行くぞイン」
MP7の槓杆が引かれ4.6×30mm弾が薬室に叩き込まれる音が響く。
そうして全身黒ずくめの男とメイド服を来た少女は貧民窟の闇に消えていった。




