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三十一話

今回から一人称視点から三人称視点に試験的に変えております。特に反響がなければこのまま三人称視点でいかせてもらいます。



 鴉羽守孝とインは王都を駆けていた。人通りが多い通りを極力避け、一目散に目的地まで向かっている。だが、この時点でまだ誘拐犯達の拠点は分かってない。


 マルクスから借りたローブを二人は身に纏い。腰にはPALSテープ対応のタクティカルベルト。予備マガジンが二つ、フラッシュバンは二つ、スモークグレネードを一つがタクティカルベルトに付けられたポーチに納められている。


 グロックはホルスターから抜き、手に持っている。引き金に指は掛かってないが薬室には弾丸が既に込められており、今か今かと己が敵に放たれるのを持っていた。


「本当にこっちの方向で有ってるんですか?」


 横を走るインが主人である守孝に問いかける。


「確証は無いあくまで推測だ。だがその推測が正解の可能性が高い。それだけだ」


 守孝の答えにインは頷く。彼女も守孝の推測が当たってると思うからこそ。主人である彼と共に駆けているのだ。


「了解しましたマスター。絶対にミシェルちゃんは"北地区"にいますよ!」


 そう、守孝とインは北地区に向け駆けていた。何故、そうなったか。それを知るには先ず、守孝が話す推測を聞かなければならない。




 時間は少し戻り、[マルクス商会]執務室。マルクス、インの両者は守孝が話す。内容に耳を傾けていた。


「……いいか?俺は今回の誘拐事件と王都に来る前日に起きた襲撃……事前に阻止したらか未遂だが、この二つの事件は同じ奴が背後にいると考えている」


その言葉にマルクスは頷く。


「それは俺も同意見だ。連続して起きた二つの事件、偶然連続して起きる訳がないからな……それで?」


マルクスは守孝に続きを促す様な顔を向け、守孝は分かったと言う様に頷く。


「先ず、背後にいる奴を仮に"A"とする。本来"A"はあの襲撃でマルクス。お前を亡き者にしお前の店を、方法は知らんが……[マルクス商会]を手中に収めるつもりだった。だが……」


「襲撃は私とマスターが直前に察知し事なきを得た。だから今度は、マルクスさんの娘であるミシェルちゃんを誘拐し、交換条件として店の権利手形を要求した。ですよねマスター?」


守孝が続きを言う前にインに先に言われてしまう。そしてそれは彼が言いたいこと全く同じである。


「そうだ。だから"A"にとって重要なのは店の権利手形だ。恐らく身代金は……誘拐犯達に支払わせる賃金にでもするんだろ。ここまでで何か質問は?」


 守孝は、一度言葉を切り二人を見る。インは特に無し。マルクスも納得言った様だった。


 更に、これに付け加えると店の権利手形なんて物を要求している時点で"A"の正体がある程度絞れてくる。だがそれを態々、言わなくてもマルクス、インは分かっているようだ。


「確かに今回の誘拐動機は分かった。それで、誘拐犯達は何処に潜んでいるんだ?今、一番重要なのはミシェルが監禁されている場所だ!」


 マルクスは一刻も早く知りたくてしょうがない様だ。早く娘を助けたい。彼の心に在るのはそれだけだった。そんな彼を守孝は宥める様に話す。


「ああ、マルクス悪かった。そうだな、一番重要なのは何処にミシェルちゃんが囚われているかだ。説明を抜きに答えを先に言うと俺は此所じゃないかと思ってる」


 そう言って守孝は机に広がっている王都の簡易地図のある地点を指でなぞった。その場所は…………


「北地区……!」


マルクスは机に身を乗り出し地図の北地区を凝視する。


「ああ、俺は北地区の何処かに、ミシェルちゃんと誘拐犯がいると睨んでる」


「その理由はなんだ。確かに北地区は娘がいる可能性がある候補地の一つだが、何故そう言いきれる?」


マルクスの言葉に守孝は頷く。


「それは今回の誘拐犯達の行動からの推測だ。先ず、誘拐犯達はミシェルちゃんが王立学校に通学する際に、お付きだったサリーを背後から襲い。ミシェルちゃんを拐った。此所までは良く有る、まあ、一種のテンプレート。誘拐に於ける常套手段だ」


 そう良い放つ守孝。彼は誘拐犯になったことは無い。だが、傭兵をやっていた彼はある意味、誘拐に近い事はやったことはあった。依頼人から依頼された標的や敵有力者の拉致……金を要求しないだけで近い事は幾らでもやったのだ。そして彼は話を続ける。


「だが、誘拐犯達は普通ならしないことをした。それはお付きであったサリーの所持金を奪っていった事だ。これである程度、誘拐犯達の人物像が分かってくる」


「そうなのですか?」


 インが首を傾げる。マルクスは既に気付いたのか、何か考えるてる様に手を口に当てていた。守孝はインが本当に高性能自動人形(自称)なのかと苦笑いするしなかった。


「……はあ、良いかイン。癖と言うのはな、意識しない時に出るものだ。サリーを襲った後にやった誘拐犯達の行動と言動はなんだ?」


「サリーさんの所持金や髪飾り等を奪っていきました。言動は『こっちの女は置いておけ!』『これで俺達は大金持ちだ!』『そんな端金は置いてけ!』がサリーさんが覚えていた言動ですね……ああ、なるほどマスターそう言う事ですか」


 彼の問いにインは直ぐ様答えた。記憶力は流石、自動人形を自称するだけ優秀であり、少しヒントを教えたら答えに行き着いた。


「分かったか。じゃあ言ってみろ」


彼の言葉にインは頷く。


「了解です……誘拐犯達の行動が素人であると言うこと……ですよねマスター?」


インが導きだした答えは彼の推測と同じだった。


「その通りだ。普通、誘拐を生業にする奴等ならサリーを襲った後、直ぐにミシェルちゃんを連れ去る。だが、今回の誘拐犯達はその場に留まり、サリーの所持品を物色したり、会話をしている。幾ら、襲った所が人が居なかったとしても、危機感が足りなすぎる」


「で、誘拐犯達は金で雇われた北地区の貧民窟の住民か素行不良な奴等だとしても、既に雇い主に引き渡してるんじゃないか?」


マルクスの問いに彼は首を振った。


「確かに、その可能性は有るが、今回の誘拐犯達の頭目は少しは頭が切れる様だ……サリーに要求文を持たせてメッセンジャーとして使い。自分達の存在を隠している。素人で金の無い奴等ならサリーも一緒に連れ去って……まあ、好き勝手に遊ぶだろうからな」


金の無い貧民……特に男が考えているのなんて何時の時代も、金、暴力、S〇X!位だ。勿論、例外は存在するが、例外と言う言葉の意味道理、少数派である……





 そして、時は戻り、北地区の路地裏を駆け抜ける守孝とイン。探索は守孝は周辺警戒、インがセンサーで怪しい箇所を見つけ、そこを偵察すると言う地道な作業だった。それを北地区の端から端まで行うのである。


「それにしても従業員さん達に手伝って貰わなくて良かったんですか?」


 インが横を駆けながら彼に話しかける。そう、守孝達が北地区に赴く際、報告に戻ってくる[マルクス商会]従業員を北地区探索には出さない様にマルクスに頼んだのだ。


「素人が多く居ても迷惑だ。それに大人数が何かを探してるなんて直ぐに噂になる。こう言う貧民窟は噂が直ぐに広まる物さ」


 基本的に貧民窟と言うのは娯楽に飢えている。ちょっと面白そうな事が有れば直ぐに広まる。そして恐らく北地区に居るであろう誘拐犯達に届くだろう。そして多少頭が切れる頭目は、それが目標が自分達と悟り逃げ出す。そうなったら見つけるのは困難……いや、無理だろう。


 だからそこの守孝とインの二人の小数偵察だ。顔がバレておらず、荒事に発展しても切り抜ける事ができる。


 警戒しながら進むと、北地区の大きめの通りに差し掛かった。守孝が記憶の中にある簡易地図を呼び起こす。多分この通りは北地区最大の通りの筈である。


 彼がインを見ると、インは小さく頷く。彼女の中には既に簡易地図とこれ迄の道筋が頭の中に入っている。流石は自動人形を自称するだけの事はある。


 そして彼らはこれ以上、路地裏に隠れながら進むのは無理だろうと判断した。


「此処からは歩いて向かう。インはちゃんと深くまでフードを被れよ」


 フードを被りながら彼はインに忠告する。彼女の様な美しい年頃の女の子など格好の標的だ。


「心配しなくて大丈夫ですよマスター。私はマスターのモノですから。それに変なことをした人にはミニガンがお灸を据えてくれますよ!」


確かにM134 ミニガンを運用する彼女には心配無用な事である。だが守孝が危惧しているのは別にあった。


「そんなもんブッ放したら下手しないでも大問題だ!例え俺達の存在がバレなくても衛兵が集まっちまう」


 そうなったら誘拐犯達が隠れ家を変える可能性が高くなり、そもそも守孝達が動き難くなる。それを彼は危惧していた。


「今回は隠れ家を見つける迄だ。見つけたら一度、戻ってマルクス達と相談だ。それを忘れるなよ」


「はぁい。分かりました……はあ、ミニガン撃ちたかったなぁ」


 守孝の言葉にインはしょんぼりとした顔で物騒な事を小声で言いつつ了承した。確かにインは赤竜、討伐以降一度もミニガンを撃ってない。彼女もフラストレーションが溜まっているのと彼は思った。もっともミニガンを盛大に撃ちまくりたいと言われても困るものだが。


(一応、インには世話になってるしコイツの我が儘も聞いてやらなかんな)


彼は己を外道と言い張るがそれでも相手の事を考える位はするらしい。


「はぁ、分かったよ。この依頼が思ったら狩猟区の依頼でも行くぞ」


「約束ですからね!……あ、それとデートもお願いしますよ!」


即答であった。


 インはニコニコの笑顔でローブを直しフードを深く被る。


 守孝は(こいつに思考でも見られてるじゃないのか!?)と思ったが彼が基本的に甘々なだけである。インはそれが分かっているのだ。


「……準備は終わったな。じゃあ行くぞ」


彼等が路地裏から大通りに出る。一応、北地区の最大の通りと言った所だろうか。人通りは多く、活気がある。安酒屋から風に乗って酒精の匂いが届き、怪しげな露天から客を呼ぶ声が聞こえる。ここら辺はまだ王都の低所得者達の街と言った所だろうか。貧民窟が在るのはもうちょっと先の様だった。


 二人は露天等を見ながら人混みに紛れ先へと進む。端からみれば露天を冷やかす旅人に見えるだろう。そうして歩いていると反対方向から来た人とぶつかってしまった。


「ごめんよ!それじゃあ!」


ベレー帽の様な帽子を被った少年?は軽く謝るとその場を離れる瞬間……


「おっとストップだ此方に来てもらうぞ」


守孝はその腕を掴んだ。


「な、なに!?や、やめてよ!」


 少年?の抗議を無視し近くのそのまま歩き路地裏に入る。通りから見えない位置まできたら少年?を壁際に立たせる。


「いきなり何をするんだよ!」


「お前が悪い。お前がスッた俺の財布を返してもらうか」


 吠える様な威嚇をしていた少年?は、その言葉を耳にすると一転、目を泳がせバレたかと言う風な表情をする。


 彼はインに財布を探すように指示した。

 

「マスターが探せば良いじゃないですか」


「こいつが女じゃなければな……下手に悲鳴を上げられても困る」


「な!?なんでばれた!?」


彼の言葉に少年……男装した少女は驚きの声を上げる。その隙にインは彼女をボディチェックする。


「腕が男より細すぎるのと、声が高い。隠そうとしているが分かる奴が聞けば分かる」


「マスター財布が有りましたよ~」


インが少女の懐から彼の財布を取り出す。


「それとマスターその彼女……」


インが口籠りそして少女の帽子を取る。


「あ!や、やめて……!」


 彼女の帽子は取られ、中から可愛らしい栗色の毛が生えた猫耳が露になった……そう、彼女は獣人だった。


「獣人……か」


 守孝は一人言の様に呟く。獣人達が差別され、奴隷以外は大半が貧民窟に住んでると知っていたから。スリ等は警戒していたが、こんな小さい……まだ、歳が十に成るか成らないか位の少女がしてるとは……そこまで獣人差別は酷い様だ。


彼がそんなことを考えていると。少女は彼を睨んだ。


「獣人だからってなんだ!運で人間に生まれた癖に!」


「……確かに種族や人種は選べない。だか、それがスリをして良い理由にはならないぞ。イン、帽子を返してやれ」


 帽子を返された彼女は怪訝な顔をした。彼女は知っている。獣人のしかも女性が捕まったら、殴られ犯されオモチャにされて殺されるのが殆どだ。だがその変な人間の男は注意するだけで何もしない。だから尋ねた。


「僕を殴ったり、その……犯したりしないの?」


守孝はその言葉を聞くと呆れた様に言った。


「お前はして欲しいのか?」


「そんな訳ない!誰が好きで酷い事をされたいんだよ!」


彼女の問いに笑いながら答えた


「だったらそんな事を言うもんじゃない」


彼は膝を曲げ彼女と同じ目線にし、ジッと彼女を見る。彼女はそれを見返す。


「なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんはこの辺りの地理と噂は詳しいかい?」


その問いに彼女は頷く。


「噂は良く耳にするし、ここら辺は僕の庭みたいなものだよ」


 彼は立ち上り何か考える仕草をすると、先程仕舞った財布を懐から取り出した。


「……良し、決めた。嬢ちゃん金貨一……いや金貨二枚で手伝って欲しい事があるんだ。手伝ってくれるか?」


今回の話にある推理はちょっと無理矢理かなぁと思う方も居ると思いますが、大丈夫です作者も思ってます。


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