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二十八話



 その日は何時もなら朝には起きる筈が、珍しく昼頃に目覚めてしまった。インは既に起きていて宿の方から貰ったのか、桶に入っているお湯で髪や体を拭いている。


「あ!おはようございますマスター。今日は珍しくお寝坊さんですね」


「あーおはようイン。王都に着いたから気が抜けたか?俺も年だな前は二徹、三徹はざらに有ったんだがな」


俺はベットから抜け出すと[ピースメイカー]からタオルを取り出し、桶に浸ししてから絞り、顔を拭う。お湯は、まだ盛ってきたばかりなのか暖かく気持ちが良い。


「……マスター。私、一応半裸なんですけど」


「……だからどうしたんだ?」


俺は服を脱ぎ体を拭く。力を入れて拭くと皮膚に溜まっていたがアカがぼろぼろと取れて案外楽しい。そうえばこっち来てから風呂に入れて無いな。まだ、我慢は出来るが近いうちに風呂に入りたいな。温泉とかないのだろうか。


「そこはマスター、女性が半裸なんですよ。もっと焦るとか顔を赤めるとか無いんですか?」


「女性の半裸ぐらい見慣れてるわ。それとその言葉は普通、俺が言うセリフだと思うんだが」


 そんな事を話ながら身を清め終わると装備を整える。今日は依頼を受ける事も無いから軽装備で良いだろう。


そう言う訳で今日はグロック19をレッグホルスターに差し込み、カラテルを取り付けて装備を身に付けるのは終わる。


身支度も終わり部屋から出て下に降りる。そして宿屋併設の酒場で朝食……もう昼食なのだが食べた。内容はパンとスープ、それとチーズ、ピーグルと言う猪に似たモンスターを燻製させたもの所謂ベーコンをカリカリに焼いたもの、後は林檎っぽい果物を注文した。


「マスター、どうやったらマスターを口説き落とす事が出来るでしょうか」


「真っ昼間に話す内容じゃないぞ。それと、さっきも言ったが普通そう言うセリフは男の俺が言うセリフなんだが」


「それはマスターが私を口説かないからですよ!」


インの言葉をスルーしながら食事を済ませる。


「はいはい。分かった、分かった。まあ、今度にでも口説いてやる。それよりも今はマルクスの店に行くぞ。まだ時間は有るが遅れるのは失礼だからな」


「む~約束ですからね!今度、絶対に口説いてくださいよ!」


 口説く相手に口説く約束をすると言う、端から見れば意味の分からない約束をしつつ、宿屋の外に出る。ここから[マルクス商会]までは歩いて四十分程で着く。それまでは王都の町並みを楽しむ。改めて見ると王都の家々は、レンガや石を多く使用しており、それが建ち並ぶ町並みは、元の世界だとドイツの町並みに似ていた。


 (昔、傭兵時代に仲間達とドイツを巡る旅をしたっけな……)


 確かあの時はフランクフルトからベルリンまでを鉄道で旅したんだったな。ターニャ、ヴェラ、ウィルソン、シモーネ……ビール飲んで旨いもん食って観光して……楽しかったなぁ……



『…………ねぇ、モリタカ。私は貴方との時間がずっと続けば良いと思っていたわ……』


『……ターニャ。続くさ、これからずっと……だから…………その銃を下ろしてくれ……!』



 ふと、頭に懐かしい……忘れようとしていた記憶が蘇った。なんで今頃、この記憶が……ああ、俺が昔を思い出しているからだ。くそ、安易に過去を思い出すのも考え物だな。


「マスターどうしました?……恐い顔をしてますよ」


「……ん?ああ、すまん少し考え事をしていた」


「本当に大丈夫なんですか?もしかして、まだお疲れではないのでしょうか?」


「大丈夫だから安心しろイン。それよりも、もうすぐマルクスの店に着くぞ」


 インに心配されてしまったか、いかんな。これからマルクス一家と会うんだし、マルクス達の気を害してしまう。


 そんなことを考えていると昨日と変わらないな[マルクス商会]の建物が見えてきた。いや一つ変わっている箇所が有った。それは……


「あれ?マスター。マルクスさんのお店屋、閉まってませんか?」


 そう、[マルクス商会]の中へと続く扉は閉じられ、看板も"close"となっていたのだ。だが、道に隣接している窓から中をチラッと覗くと、中では丁稚や手代が慌ただしく動き回っていた……何か有ったか?


「マスター。マルクスさん達に何か有ったのでしょうか?」


「……ここからじゃ分からん。何が有ったか分からんが、それを知るためにも店に入るしか無いな」


 そう言う事で堂々と、[マルクス商会]の扉を叩く。すると直ぐ様、扉が開き、中から一人の二十代前半位の手代が出てきた。


 手代は此方をジロジロと見る。この感じは怪しんでる?


「本日、マルクス商会は休業となっております。何か御用でしょうか」


「今日、この店の店主、マルクスさんと会う予定が有る、鴉羽守孝だ。こっちは相棒のイン。出来れば案内を頼みたいんだが」


 手代は少し考える仕草をすると、何か思い出したのか顔を上げた。


「……ああ!昨日、店主と一緒に店に来た人達ですね!思い出しましたよ。店主から、来たらお通ししろと言われてます……あーでも、すいません。ちょっと問題が発生してまして。今、店主にどうするか一人、聞きに行かせますで少々お待ちください」


「問題って何か有ったか?」


「……ええ、はい。ですがそれを手前の口から話す内容ではないのでご容赦を……おっと、聞きに行かせた者が帰って来たので少し失礼します」


 手代はそう言うと、後ろに来ていた同僚と少し話した後戻ってくる。


「お二方。店主が、状況説明をするから直ぐに来てほしいそうです。どうぞ此方にご案内します」


 手代に案内され、店の中に入る。そして案内をされたのは昨日も来た、マルクスの部屋、店主の執務室に案内された。


「店主、お客様をお連れしました」


その言葉に返事をするかのようにドアは開かれ中から、女中長であるアンネが顔を出した。その顔には憂いが少し見えている。


「モリタカ様にイン様。良くおいでくださいました……手代さん、後は私が店主様の所に案内しますので、下をお願いしますね」


アンネがそう言うと。手代は一度、軽く頭を下げると、下に戻って行った。


「では、お入り下さい」


 アンネの後に続き、部屋の中に入る。部屋の中は一言で言えば空気が重かった。マルクスは執務机に座り机に肘を机に置き瞑目し、妻のミリィはソファに座り込み項垂れていた。


「旦那様、モリタカ様とイン様をお連れしました」


「……おお、モリタカ達、来たか。すまないな今日の夕食会は無しにしてくれないか?問題が発生したんだ」


顔を上げたマルクスには焦燥の色がついていた。


「それはまあ、良いんだが。何か有ったのか?話せる内容なら話してくれると嬉しいのだが」


マルクスは少し考える仕草をすると、決心がついたのか言った。


「娘の……娘のミシェルが 誘 拐 されたんだ……」



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