二話
この白い空間に行きなり現れた女性に俺は問う。
「神だって、じゃあ俺は死んだのか?」
彼女の発言に俺は妙な納得を感じていた。神ならばこの白い空間に納得がいくし、そして何より彼女の纏う雰囲気はそうとしか表現の仕方がなかったのだ。
【言葉で説明するよりも先ずは、これを見せた方が良いですね】
彼女……いや女神はパチンと一つ指を鳴らすと、俺の目の前に映像が写し出される。その映像には、日頃見慣れた我が家が写し出されていた。だが一つ何時もの光景とは明らかに違っていた、それは────
俺が、鴉羽守孝が先ほどまでいた部屋に、倒れているのだ。外傷などは見当たらないが一目でそれが事切れているのが分かる。
【貴方は間もなく死にます。原因は貴方が昔、戦闘中に頭に受けた傷が原因です。身に覚えはあるでしょう?】
正直、何回も頭に傷を受けているので覚えは有り過ぎる。RPGの破片が頭に刺さった事も有ったし、近くに落ちた砲弾の爆風に吹き飛ばされて、壁に頭を強くぶつけた事も有った……良く死ななかったな俺。
「まあな………って、間もなく死ぬってことは俺はまだ死んでないのか?」
【その映像は来るべき数秒先の未来を写し出したものですから、確かに貴方はまだ死んでません。……まあ、この空間から出て元の世界に戻ったら死にますよ】
「……それなら、あんたは俺に何かをやって欲しいってことか?」
間もなく死ぬ相手を呼び出す。そして元の世界に戻ったら死ぬ。つまり死んでも問題ない奴に強制的に何かをやらせるってことだ。
俺が女神に皮肉っぽく質問をすると、彼女は微笑みながら答えた。
【お察しが良いですね。貴方には異世界に行って欲しいのです】
異世界、此所とは違う世界。小説とかだと科学が無く魔法が盛んだったり、逆に現代地球より遥かに優れた科学技術が有ったりと色々とある。
「………って言う、あの異世界か?」
【はい。その異世界です。その世界は私が管理している世界で、インターネットの中に溢れている異世界ファンタジーみたいな世界ですよ】
私が管理しているって事は神は複数……人?神の数え方は知らんが、いると言うことだ。そっちはそっちで気になるがそれよりも……
「あんたインターネットやるのかよ」
【私は時々ですけどね、以外と我々の間でも人気でしてね。某匿名掲示板とか、某巨大動画投稿サイトも人気ですよ。私も動物の動画は見るんですけどとても可愛らしいですね!あの一つ一つの動作が可愛すぎます!それに………!】
どうやら神々の間でも電子化の波は結構深いところ間まで来ているようだった。あの女神、時々と言ってたが絶対違うぞ。なんと言うか最初の雰囲気が俺の中から消えつつ有る。こうして見ると普通の年頃の女の子の様だった。
それにしても朗らかに微笑みながら次から次へと動物動画の話を続ける女神。このままだとずっと話をしそうだから、ここら辺で止めておこう。
「……動物が可愛いのは同意するが、出来れば話を続けてくれないか」
俺がそう言うと、女神も気付いたのか一つ咳払いをして話を戻した。
【コ、コホン!確かに話を続けましょう……それでは、貴方に与える祝福を教えましょう】
「祝福……それはあれか?良く有る凄い魔力が有ったりとか、凄い剣が貰えたりする奴か?」
【ええ、そうです。貴方の祝福はこれです】
そう言うと女神は、何処からともなく取り出したスマホの様な物を俺に渡した。
「これは?」
【それは、あらゆる軍事品を取り出す事が出来る端末です。名を[ピース・メイカー]と呼びます。】
「軍事品を取り出す………小銃、装甲車とかをか?」
【その通りです。ですが無条件と言う訳では有りません。最初は火器、装備には制限が有ります。私から見て功績、功徳を立てたと判断したら順々に使える武器などが増えていきます。と、言っても最初から小銃位は有るので安心して良いですよ】
小銃位と言うが侮ってはいけない。一発で人を殺す事が出来るし。大型動物の動きを止めることも出来る。
しかし、平和の製造者か……なんとまあ、俺には不釣り合いな言葉だな。
【私からはもう話す事は有りませんが、何か聞きたいことは有りませんか?】
聞きたい事、それだったら一つしかない。
「何で俺をこの場合は転移、転生か分からないが……選んだんだ。俺の様な両手が血で染まっている人間よりも、もっと他の奴がいるんじゃないのか?」
質問をした瞬間、先程までの何処でもいる普通の女の子から、雰囲気が一変した。それは最初に会ったときの雰囲気だった。
【確かに貴方は罪を犯しています。ですが同時に貴方はそれなりに功徳を、積んでいるのを知っています。貴方は仕事で得たお金を貧しい人達に寄付したり、危ない目に有っている、子供や女性を助けたりしてますよね?】
確かに俺は仕事の報酬の何割かを寄付したり、犯罪者や事故に遭いそうになった女子供を助けたりはした。だが……
「それは、唯の独り善がりの自己満足。俺が人を殺したと言う罪から逃げる為にやったことだ」
【その自己満足で助かった人がいるのは事実です。世の中、人は自己満足で生きているです。貴方は貴方の功徳を私が評価したそう思ってくれれば良いですよ……さて、もう話す事はないですね?異世界に送りますよ】
女神が俺の方に手をかざすと、俺は光に包まれていく。
「ああ、納得は出来ないがな」
【自分で良く考えてみてください。考えるのは、知性が有る者の特権であり力です。自問自答するのも良い事ですよ。では、よき旅を】
そして光が完全に俺を包み、俺は異世界に旅だったのであった。




