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二十七話



 売却契約も終わり。さて、外に出ようかと思っていた時、ドアがノックされた。


「店主、奥さまとご息女様がお見えになりました」


その言葉を聞いた瞬間、マルクスの顔に笑みが見えた。


「おお!そうか!俺の部屋に入る様に言ってくれ。モリタカ、インちゃん。俺の家内と娘を紹介するよ」


「良いのか?久しぶりの再会だろ」


「良いんだよ。一家団欒はモリタカ達が帰ってからするさ」


 まあ、これから用が有るわけでも無いし、マルクスの家族も見てみたいと思っていた。マルクスが良いと言うなら会うとしよう。


「じゃあ紹介されるとするよ」


 そう言う事なので少し待っているとドアがノックされ二人の女性が入ってくる。一人は美しい三十代位の婦人。もう一人は六~七歳の少女だ。


 少女には婦人とマルクス。両方の面影があった。婦人がマルクスの妻で、少女がマルクスと婦人の娘なのだろう。


「あなた、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様です。メリルも学校が終わったので連れてきましたよ……そちらの方々は?」


「お前、ただいま。今回は中々、スリリングが有る旅だったよ。ああ、そうだ紹介するよ。モリタカとインちゃんだ。売却契約と護衛依頼を受けてもらったんだ。それと命の恩人二人とも、妻のミリィだ」


「どうも主人がお世話になっております。私はマルクスの妻でミリィと申します。」


 ミリィは朗らかな笑顔で俺達に挨拶をする。


「どうも鴉羽森孝です。旦那さんには色々とお世話になっています」


「モリタカ様の従僕であるインでございます。以後お見知りおきを」


「ご丁寧にありがとうございます。お二人は物腰が柔らかいですね。その……冒険者の方々は我の強いですから、少し驚きです」


 確かに多くの冒険者になる奴は、食い詰めたか職がないかで粗暴な輩が多い。勿論例外は存在するが、少数派だ。


「はははっ、自分達は冒険者になった経緯が少し複雑ですからね……そうえばそちらの可愛いお嬢さんは娘さんですかね?」


 そう言って先程からドアに隠れ顔だけ出している少女を見る。すると少女はビックリしたのかミリィの後ろに隠れてしまった。


「あらあら、ごめんなさいねこの子ったら、初めての人で緊張しているのかしら?……ほらミシェル挨拶なさい」


 そう言ってミリィは後ろに隠れている少女……ミシェルを前に出そうとするが……ミシェルはミリィにしがみついて離れない。


俺はソファから立ち上がりミシェルと同じ目線の高さまで腰を落とす。


「やあ、こんにちは。ええと……ミシェルちゃんだね。俺は鴉羽守孝って言うんだ。よろしくね」


「ミシェルちゃんこんにちは。私はイン。よろしくねお願いしますね」


 そうするとミシェルはミリィの後ろから顔だけ出した。


「……ミシェルです。よろしくお願いします」


そう言うとまた隠れてしまった。


「ああもう、この子ったら……ごめんなさいねモリタカさん、インちゃん」


「はははっ、大丈夫ですよ。ミシェルちゃん位の年頃なら人見知りも良く有る事です。後はまあ、この傷で強面に見えるのも有るかも知れませんね」


 そう言って顔や腕に有る傷を触る。戦場を渡り歩いた際に出来た傷。特に右頬から右目下にかけて有る傷で明らかに堅気では無い。


「はははっ、モリタカは確かに堅気には見えないな……そうだモリタカ、お前また話をしてくれよ。戦場の話じゃ無くて女性が好きそうな話とか有るか?」


「マスターの話……!私も聞きたいです!」


女性が好きそうな話か……無難に旅行の話で良いかな。


「はぁ、分かったよ……あれは、まだ俺がとある軍に所属していた時の話でな。部隊の友人達とある観光地に行ったんだが…………」






 楽しい時間は直ぐに過ぎ、夕方となった。これ以上の長居はマルクス一家に悪いだろうと店を出ることにした。宿はマルクスがお薦めの宿にするつもりだ。


安く清潔で飯も旨いそうで。 マルクスにまだ、店が無く行商人として諸国を渡り歩いた時、王都に来たら良くそこに止まってそうだ。


「まだ、居ても良いんだぞモリタカ。折角だ夕食も一緒にとらないか?」


「折角のお誘いだが今日は遠慮しておくよ。行きなり夕食をとる人数が増えても困るだろう。」


「んーそうか……じゃあ明日ならどうだ?俺はモリタカが気に入った。是非とも王都料理を振る舞いたいだ」


 ここまで言われて断るのもマルクスに失礼だな。


「分かった。じゃあ明日の夕食に招待されてもらうよ」


「よし!約束だぞ。そうだな……昼過ぎ位に店に来てくれ。俺の店を軽く案内してやるからさ」


「了解だ。じゃあまた明日」


そう言ってマルクス一家に見送られて俺達は薦められた宿屋へと向かう。


「良いご家族でしたねマスター」


隣を歩くインが笑いながら言った。


「そうだな。たとえ異世界でも家族の在り方は変わらない」


「家族の……在り方ですか」


俺は空を見た。空には対をなす月、そして星が瞬き始めていた。


「ああ、父親、母親がいて、子供が産まれる。 だが喜怒哀楽が有って初めて親と子は"親子"になるんだ。マルクス達は良い家族になると思うぞ」


 そんなことなでマルクスに薦められた宿屋に着き、宿を取り併設された酒場で夕食をとった。確かにマルクスの言った通り、料理は安く旨い。これで宿代も程々なのだからマルクスも薦める筈だ。


その日は前日の疲れも有ってか俺達はベットに潜り込むと直ぐに眠ってしまった。


そうして夜は更けまた日が上っていく。だが次の日、俺達はあんな状況になっているとはこの時思いもしなかったのだった。



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