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二十四話



馬車は進み王都が近付いてくる。


 数十メートルの高さはあるだろう城壁、その周りには堀が張り巡らされている。双眼鏡を覗くと城壁の上には兵士が立っていた。兵士達は油断無く辺りを見張っている。兵士の身に付けている装具はキチンと整備されていた……簡単にはここは落ちないな。


馬車はそのまま進み王都の正面、これまた巨大な城門にたどり着いた。流石、国の首都の玄関口である。多くの馬車、人が王都に入るのを待っていた。


 少しずつ列は流れついに俺達の馬車の番となる。門の前には番兵が立っており、そこで簡単の身元確認をするのだが、普通なら問題など無いのだが……今俺達の他にもう一人新たな同行者、森で殺ってきた死体がある。


 こんなものが有れば拘束されてしまう。しかしここは堂々と番兵に死体の話をする。逆にここで隠すような態度をするのは悪手。そんな事をすると怪しんでくれと言っているようなものだ。


「この死体は俺達を殺そうとしていた一味の一人だ。襲われそうになったから仕方なく殺った」


 番兵に誘導された詰所で事の顛末を話し死体を受け渡す。調書やら現場の状況説明とかで時間を食い詰所を出たのは丁度太陽が真上に昇った時だった。


「うぅーん、やっと終わりましたねマスター」


インは体を解すかのように手を上げ体を伸ばしていた。


「まあな。だが、これも怪しまれない為には必要な事だ。それでマルクス。これからどうするんだ?」


「そうだなぁ、昼だし飯を食うのも良いがその前に馬車を置きに俺の店に行くか」


俺とインはマルクスの提案に頷く。王都の土地勘が分からない以上、マルクスに付いて行く方が良い。それにマルクスの身の危険も有るしな。


 馬車は王都の中央通りを進む。マルクスの店は流石に中央通りには無く、中央通りから少し離れた所に有るそうだ。それでも中々良い立地との事だ。


それにしても中央通りの賑わいは前の街パックルに比べ物にならないほど賑わっている。道の両端には店が構えられ商品を売る掛け声、それを買う消費者の声が聞こえてきた。


そして道を多種多様な人種が歩いている。肌の色は多種多様で、その中、道の端、影になり薄汚れている様な所にフードを被った人達がいた。


 やはりこの世界にもこう言う貧困者は居るようだ。だが、俺にそれをどうする事も出来ない。その人々が視界から消える時、フードがから覗く頭から生える獣の様な耳が見えた。


「なあ、マルクス。今隅っこに獣の様な耳を生やした奴がいたんだが」


「ん?……ああ、ソイツ等は獣人だな。知らないのか?」


獣人……たしか獣の耳に尻尾を生やしている人種だったか、ファンタジーとかでは結構ポピュラーではあるな。


「まあ、獣人達もこの国、と言うか人間が支配している領域じゃ生きにくいだろうなぁ」


「そうなのか?」


「ああ、獣人達に獣の耳や尻尾が生えてるの見えたろ。他にも身体能力は人間よりも高い。だが、人から見れば明らかに違う容姿を持っている。だから差別されているのさ。他にもドワーフやエルフと言った亜人もいるが各地にも自治区が有るし、人と以外は殆ど変わらない。俺も聞いた話なんだが西方に獣人達が自治する地があるそうだが、本当かどうかは知らないがな」


 この世界では獣人と言うのは差別対象になっているのか。元の世界にいた時に漫画やゲーム等でお馴染みだった獣人達が差別されているのは少し悲しい。


「何だがマルクスさんは獣人の方達に対して差別的では無いですね」


先程のマルクスの声色を聞いてインが疑問に思ったのかそう言った。確かにマルクスの発言と声のトーンはどちらかと言うと獣人を哀れむ様だ。


「俺ぁは商売人だからな。物を買ってくたらそれで良いんだよ。それに貧困層が少くなれば消費者が増え、商品を買ってくれる奴等が増える。俺としたら万々歳さ」


「はははっ、マルクスらしいな」


「それに俺は獣人の奴隷を従業員として使っているが、アイツ等は良く働くからな……俺も獣人達を物として扱っている側の人間だが、もう少し獣人達が住みやすい所が在っても良いんじゃねぇかとも思う」


 マルクスは遠い未来を見ている様な顔をして言った。獣人を物と言ったが彼はそんな事はしていないだろう。一週間でも一緒に旅をした仲だ。その人の人となり位は分かる。


そして奴隷か……この国と言うよりもこの世界と言うべきか、この世界には前にも少し聞いたと思うが奴隷制が存在している。


 だが、奴隷にも二種類ある。一つは借金等で首が回らなったり戦争捕虜で奴隷に落ちたり、戦奴として戦争に出向くもの。これは借金に応じた任期が有り、その任期を全うすればまた民として生きていける。上手くいけばそこで新たな職を得る可能性も持っている。


 もう一つは犯罪者、奴隷商に捕まったり売られた者達だ。彼、彼女等には任期などは存在しない。死ぬまで働かさせる。どんなに酷い怪我でも病気でもだ。犯罪者の場合は軽犯罪者はある程度の強制労働で済むが他の重犯罪者は鉱山でも落盤の危険が高い場所や厳冬地域での労働等をさせられる。大抵が直ぐに死ぬ。


つまり古代ローマの様な奴隷制と十九世紀の黒人奴隷の様な奴隷制の二種類が存在しているのだ。


 俺の様な人を殺して金を稼いでいたクズが言うのも何だが奴隷と言うのは胸クソ悪い。まだ、古代ローマ時代のは許せる。あれは一種の奴隷と言う職業に近かった。だが人を本来の意味で物として扱うのは許せない。





 あれはとある麻薬カルテル……と言っても小さい物だがそこを現地民からの依頼で潰した時の事だ。


俺達は何人かに別れてカルテルのボス邸宅を襲撃した。俺は相棒だったターニャと邸宅に入り、ヤクを売りヤクを使うクズ野郎共に最後の一発をお見舞いしていた。


そしてボスの部屋に入るとそこは……


地獄の一丁目が地上に出てきたのかと思うほどの凄惨な有り様だった。


まだ来ていないだろう少女だったものは明らかに性的暴行が見られ、それを釘で四肢を打ち彫刻のように飾っていた。


十代後半の少女だったものが手足を文字道理引き千切られ達磨の様な状態で転がされ。


やっと五歳になろうとしていた男の子は目をくり抜かれ臓物は引きずり出され中に綿を詰められ、さながら人間で人形でも作ろうとしていたかの様だった。


 そしてその非道を待っているかの様に端の方に檻に入れられた少年、少女がいた。いや、彼、彼女もされていた。だが死ぬほどの事はされていない。


俺達は一瞬目を疑い、そして激しい怒りと恐怖を感じた。人はこれ程迄の非道が出来るのかと。だが、一番恐ろしかったのは俺とターニャは彼等を助けようと檻を壊し、俺の中の少女一人を出した時の事だ。


俺はその少女と目があった。


漆黒だった。目の色と言う意味では無い。決して彼女が失明している訳ではない。彼女の目から見えるだろう景色そして彼女の心の中が……だ。



彼女はもう何も考えていない。



彼女はもう何も感じない。



彼女はもう何も見ていない。



彼女はもう何一つ出来ないだろう。心が死んでいた。故に漆黒。も彼女はもう何も考えず感じず見ず、ただ時が経つのを待ち。そして死ぬ。



俺は彼女の……その漆黒を除いた時、初めて人間の恐……ろしさを知り恐怖したのだった。



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