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二十三話



 走る馬車の荷台で警戒する。俺が双眼鏡で見張り、インがセンサーで見張る。磐石な警戒網、しかし敵は現れなかった。マルクスが言うには王都まで残りの道は直線だ。太陽が昇った開けた草原で奇襲などあり得ない。敵も諦めた様だった。


とは言っても警戒は怠らない……一瞬の油断が命取りになるからだ。だが敵もそこまで馬鹿ではない。待ち伏せなどが通じるのは一回迄で、失敗したらそうそう同じ手は喰わないのが常である。


 インに見張りを任せ俺は昨夜仕留めた敵を物色する。敵の素性が分からない以上こいつから何か情報を取らなければ。


 深々と顔を隠しているフードを剥がすとそこには何処にでも居そうな三十代位の男性の顔だった。ローブを脱がし何か所属が分かる様な物がないか探すが無い。有るのはナイフ、腰に着けていたポーチに入っていた少しの貨幣や薬草、黒っぽい液体が入っている小ビン。そしてポーチの隣に括り付けていた袋に入っていた弓に使うにはあまりにも短い矢……クロスボウの矢、所謂ボルトが複数本入っていた。


昨夜此方に狙いを定めていたのはこれか……こいつもボルトを持っていると言うことは少なくとも複数人クロスボウ射手が存在する、もしかしたら全員が射手の可能性が有るな。


「なあ、マルクス。クロスボウを全員所持してる盗賊なんてここら辺で聞いたことあるか?」


マルクスは馬車を運転しながら答えた。


「クロスボウなんてもんは単価は高いし矢も専用品だ。だが扱いは簡単だからな軍には多く有るが一盗賊達がその構成員全員に行き渡らせるなんてのは無理だ。まあ、脱走兵が盗賊になったとかならあり得るが、少なくともここら辺じゃ脱走兵の話もクロスボウを多数所持する盗賊の話も聞いた事が無かったな。それにそんなものが存在したなら国が騎士団でも派遣してるだろうよ」


 マルクスの話により盗賊の線は消える。じゃあ王国の軍の方かこれは無いと思う。それをする意味が無いからだ。態々人が多く夜営するポイントに陣取り来たら殺していく。それを軍がするか?否だ。敵国なら未だしもここは自国、自ら信頼、国力を下げる馬鹿な国家はいない。


ではその敵国の仕業?微妙なラインだがそれはあり得る。


「マルクス、この王国の敵対している国家は有るのか?」


「うーんどうだろうな。隣接する三つの国、クーロズ公国、セブンスアイ都市連合国家、ミレンス王国とはどれも関係性で言ったら普通。逆にこの三ヶ国がそれぞれ友好とは言えなくてな、この国は良く言えばバランサー、悪く言うと八方美人だな」


 隣国との仲は普通だが、その隣国同士の仲は良くない。だが、態々バランサーとして機能している国で最悪自らの首を絞めかねん事をするか?……いやない。


「後敵となりうると言ったら魔族領か教皇国だな」


「魔族領はあれだろ、この国から北の方向に行くと有る魔族が治めている所だったか」


魔族……確か角が生えていたり血を吸ったりとか凄い力を持つ奴等だったか。会えることならあってみたいが、人間とは敵対してると聞くし、会ったら直ぐに殺し合いが始まるだろうしそれは御免被る。


「あ、今魔族は危険な奴等~って顔していたな」


マルクスは此方を向きニヤッとした。


「ん?顔に出てたか。ってかそうじゃないのか?」


「俺は昔、魔族領の鉱物や木材は高級品でなそれで何とか一儲けしようと考えてな一回行ったことがある。俺もその時は魔族を恐ろしい存在と思っていたがな。実際会ってみると話は通じるし、飯は旨かった。肌の色とかが少し違うだけのただの人間だったさ。まあ、品物は結局帰ってくる時にモンスターに襲われて棄てたんだけどな……おっとこれは秘密にしとけよ」


 商会の主が魔族贔屓までは行かなくとも、魔族に悪くない気持ちを持っているのは色々と外面が困るのだろう。しかし魔族と言うのはそこまで悪い奴等ではない様だ。良く有る偏見ではダメだな。まあ、それも一度会ってみたら分かるだろう。そして今回の犯人でも無い。幾らなんでもこの男を魔族と言い切るには無理があるし、仮に魔族ならマルクスが気付く筈だ。魔族領の仕業ではない……次だ。


「この事が秘密なのは分かってるよ、それでその教皇国ってのは?」


「あー……あの国はな、良く分かってないんだ。ここ数十年前、確か約三十年前に出来た国でな、建国してから一回も外交的な交流をしてないんだ」


外交的交流をしない……昔の日本で言えば鎖国政策でもしているのか。


「そんな内に籠っているような国が何故敵の可能性があると言ったんだ?」


「あーそれはな……アイツらは少なくねぇ人数を他国に出しているんだ。伝道師と言う名でな。」


伝道師……確かキリスト教の考えで言えばキリスト教外世界に教えを広める職業だったか筈だ。


「俺も又聞きなんだがアイツ等の国は文字通り宗教国家でな。自分等の教えを他国に広めているんだ。此処までは普通なんだが……アイツ等は他国の子供を自国に誘拐して洗脳、大人に成ったら誘拐した国に潜り込ましてそこで勧誘をしてるんだ、他にも自らの教えの為に人を簡単に殺すし……ハッキリ言ってあの国はイカれてるよ」


 なんと言うか、カルト宗教がそのまま大きくなったような国だな。その国とは関わらない様にしよう。そしてこの教皇国が俺達を襲った奴等である可能性は……微妙だな。


 それほどの狂信的な思想の持ち主なら襲ってもおかしく無い。だが、それなら何かしらの宗教的意味合いを持つ首輪や腕輪、指輪を着けていてもおかしく無い。しかしそう言う物は一切無い。ソイツ等であると言い切れないが、ソイツ等では無いとも言い切れない。まあ、候補の一つだな。


 さて、考えられる敵はこれが最後なんだが、俺としたらこれが最有力の候補だ。それはマルクス、又は俺とインに怨みを持つ。若しくは利益が損なう事態に陥った為の報復である。


 俺とインはまだ成り立てのCランク冒険者、ハッキリ言って特に何もやってない。強いて言うならあの竜を倒した位か。それぐらいで一々目くじらを立てる輩も居ないだろう。そう考えると行き着く答えは……マルクスに対しての報復だ。


 マルクスは商人、それだけで商売仇がいて。相手に大損を食らわした事など幾らでも居るだろうし、相手の店を潰した事も有るだろう。報復される理由など幾らでもある。


「……なあ、マルクスお前、怨まれる事やったこと有るか?」


「怨まれる事ねぇ……まあ、俺も商人だ十の指じゃ足りないな……なんでまたそんな話を?」


「お前に対する暗殺ないし報復じゃないかと思ってな」


「はははっ…………あり得るな」


俺の中でマルクスへの報復が一番の候補になった瞬間だった。そんなことを喋り警戒をしながらも馬車は進む、そして……


「……マスターあれがそうですよね!」


「マルクス。そうなのか?」


「ああ、そうだ。あれがこのサンマリア王国、王都であるミッシエだ!」


……俺達は王都に到着した。



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