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二十一話

二章 王都編です。



「いい天気だなぁイン」


「いい天気ですねぇマスター」


 マルクスの馬車に揺られながら青空を見て、続いて草原を見る。この、牛とかいたら正に牧歌的な風景に欠伸が出るのを噛み締める。


「おいおい、ちゃんと見張っておいてくれよ。一応お前らの仕事だぞ……まあ、この天気なら分からんでもないがな」


馬車を走らすマルクスが俺達に笑いながら俺達に言う。


「はははっ、すまんな。でもマルクス安心しろちゃんと見張っている。現在、目視距離に敵対勢力及び生物は無しだ」


 怠けている様に見えるがちゃんと見張ってる。手には必ず銃を握り、俺とインの目視監視。さらにインのセンサーによって半径300mをカバーしている為に磐石な体制である。


「しっかり頼むぜ……と言っても王都に出発してから一度もトラブルに有ってない。まあ、明日には王都に着くだろうし、ここまで近いなら何も起こらないだろうな」


 既に前回の街、パックルを出てから六日たった。その間、道沿いにある小さいな集落に宿を取る為に二回ほど寄ったがそれ以外は全て野宿で過ごした。盗賊が出ると言う話だったがそんなものは影も形も無く、時折見えるのは空を行く鳥や飛行モンスターとホルンラビットなどの地上に住む小さいモンスター位だ。


「まあ、あと少し進んだらいい夜営ポイントが有るんだ。森沿いの所でな小川が有って馬に水をやれるし、そこで休んだら、丁度王都に着くのが明日の昼頃になるん。そろそろ日も傾き始める時刻だしそこで良いと思うのだがどうただ?」


 マルクスの提案。俺達からしたらここら辺の地理など分かりはしない。だが、長年商人として国中、いや大陸中を商売をしに渡り歩いたマルクスの提案だ。そこを何回も使ってるに違いない。


「俺達からは何も無いな。そこら辺はマルクスに任せているだろ」


「じゃあそこで決まりだな。もう少し荷台で勘弁してくれよな」


 そう言ってマルクスが操る馬車にを揺られること、二時間と数十分。その夜営ポイントに着いた。場所は街道筋の草原と森の境目になっている所だった。馬車を何台も停めるスペースは十分に有り、馬を休ませる為の水と草がある。薪を集めるには後ろの森から枯れ木を取ってくれば良い。


ここは夜営をするのにうってつけの場所だった。そのせいか既に石を組んだ簡易かまどとその回りには丸太が数本置いてあった。ここは他の旅人達も使う共有スペースになっているのだ。


「ほう、今日は珍しいな。先客が誰も居ない」


「へえ、この場所は人気なんだな」


「ここはな、王都まで馬車なら半日、歩きなら丁度一日位の距離に有るんだ。だから商人やら冒険者には丁度良い目印なんだよ。ここで一眠りして、そこの小川で旅の垢を落とす。そして王都に入る。これが商人や冒険者の通例みたいなもんだ。」


 馬車は夜営ポイントに入りマルクスと共に俺達も降りる。もう慣れた馬の鞍外しを手伝い。馬を馬車から外し休ませる。続いて俺達の夕食に取りかかる。


「イン。俺とマルクスが薪を集めるから、調理の方を頼むぞ」


「マスター了解です!」


 インの元気の良い声が届く。薪を拾ったら手伝っても良いのだが、旅が始まった当初、インに断られた。理由は一人でやった方が美味しいし、時間のロスが無いからだそうただ。実際、インの料理は旨いし、無駄の無い動作で料理が出来ていくのを見ると手伝わない方が良いと思った。しかしこう言う所だけを見ると有能メイド自動人形なんだが通常時の行いがな……。


集めた薪をインに渡す、それを二回ほど続けたらインが作っていた料理が完成していた。


「今日の料理は乾燥豆と乾燥肉、そして近くに生えていた草で作ったスープとパンです!」


「おい、ちょっと待て」


 普通の料理の中に間違っても入る訳が無いモノが言葉の中に有ったのでインに待ったをかける。


「も~なんですかマスター。折角料理が完成したんですよ」


「スープなんだが、乾燥豆と乾燥肉は分かる。最後は何て言ったんだ?」


「え?近くに生えていた草ですけど」


俺の幻聴だと思っていてもう一度聞いたが完全にアウトだった。


「お ま え はアホか~!」


「いひゃい!いひゃい!なにをひゅるんでひゅか、まひゅたぁ!」


 イン頬を引っ張る。いくらなんでもこれはダメだろ。俺と二人なら兎も角マルクスがいる手前、ちゃんとお仕置きをしなきゃならない。ただやっぱりインの頬は柔らかくて引っ張ってて面白いな。


「あ~モリタカ?すまんがインちゃんが入れた植物は食べれる野草なんだ。」


「……え?」


 その言葉に俺はインの頬から手を離す。インはプクーっと頬を膨らまし怒っている。子供かアイツは……見た目は十代の美少女だったな。っていやいや、今はそれどころじゃなかった。


「ど、どう言うことだマルクス」


「今確認したんだが入っていた植物は俺がインちゃんに教えたヤツなんだよ。旅の途中にインちゃんに聞かれたから少し教えたんだよ……マスターに美味しいご飯を食べさせてあげたいってな言われたからな」


マルクスの事が本当なら。インはこっちで覚えた知識を使ってスープを出来るだけ美味しくさせたって事だ。


「……本当なのかイン」


「本当です!折角美味しく作ったんですよ!それなのにマスターは……マスター何てもう知りません!」


 インはそう言うとそっぽを向いてしまう。"お前がそこら辺に生えてた草と言ったからだろ"と言っても良かったが、そこで火に油を注ぐ事をするほど馬鹿でもないし、それに何より俺の早とちりをインのせいにするほど男を落としている訳でもない。先程からマルクスが目で"早く謝れ"と催促が来る。インの料理も食べたいしさっさと謝ろう。


「イン。今回は俺の早とちりが原因だ、すまなかった。料理に真摯なお前がそんな事をする訳が無いもんな。本当にすまなかった。この通りだ」


インに向かって頭を下げる。


「ふ、ふん!私はまだ許してないんですからね!」


頭を下げたがそれでもダメらしいなら次の手だ。


「……なら、王都に行ったらデートするからさ」


「で、デート!本当ですね!王都中を回りますよ!美味しいお店や可愛いお店に行きますからね!」


この言葉を待っていたとばかりにはしゃぐイン……これはまさか。


「一本取られたな。やっぱり女って怖いねぇ。信じられないところから手痛いカウンターを仕掛けるんだから。モリタカ、女とデートは神経使うからな精々頑張りな」


マルクスにポンと肩を叩かれる。


「……はあ、良いさ別に前の約束をすっぽかしたからそれの埋め合わせと思えばな。それに女の気持ちに比べて俺の疲れなんて細事でしかないさ」


「はははっそれもそうだ」


「しかしマルクス。お前は女性とのデート何てしたこと有るのか?」


俺が聞くとマルクスは自慢するかの様に胸を張った。


「俺にはな綺麗な嫁さんに可愛い娘がいるんだ。嫁さん達の事を思うと、仕事の疲れなんて正に細事だな!」


「……その報告が今日一番の驚きだな」


 デートの約束をもぎ取ったインはさっきまでの怒った様子が無かった様に料理を盛り付ける。そうしてインの楽しそうな表情とマルクスの笑い声、そして森孝の憮然とした表情……口元は笑っていたが。そんな楽しい雰囲気の中で夕食を食べる三人。日は沈み、そして夜が来る。彼等は刻一刻と近付いてくる影達にまだ気付いてはなかったのだった。



それは夕食を食べ終え、森孝とマルクスで荷馬車と馬具の点検をしている時だった。小川で料理の片付けをしていた、インが血相を変えて此方に走ってきた。


「マスター、マルクスさん。大変です!森から此方に来る集団がいます。人数は約二十人かと!」


「な、何だって!ここに来て盗賊か!?アイツら何でこんな王都の近くで活動しているんだよ!」


ここに来て盗賊か……?いや違うと思う。盗賊達が態々こんな王都の目と鼻の先で活動するか……俺は否だと思う。


「……本当に盗賊か怪しいな。だが、こんな黄昏時に森から出てくる集団、この夜営ポイントには馬も荷物も無かった。ほぼ敵対勢力と見て良い……良し、マルクス。直ぐに馬車を出せるように馬を繋げておいて欲しい。イン、お前はマルクスの手伝いと護衛だ。」


俺が二人に指示すると分かったと言う風に頷いた。しかしインはふと何か思ったのか手を上げた。


「マスターはどうするのですか?」


チェストリグを外しながら俺は答えた。


「俺か?俺はちょっと相手のご尊顔を覗きに行ってくるわ」



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