二十話
今回は少し短い1章のエピローグの様な感じです。
マルクスから別れて夕食を取り、眠る。特に用事も無いし、王都に行く間に依頼を受ける気も無かったのでインとぶらぶらと街を散策したり、王都までの食糧……一週間程かかるらしいが、それを買い込んだり、くだーっと寝てたりして二日を過ごした。
俺達は今、マルクスの依頼を受ける為に冒険者ギルドに来ていた。勿論既に完全武装だ。これからギルドで依頼を受け、竜から剥ぎ取った素材を受け取って、マルクスの馬車で王都に向かう予定だ。
「あれ?今日はフィーネさんは居ないんですか」
依頼手続きをしてくれたのは、何時もの受付嬢のフィーネさんでは無く、二十代位の青年だった。
「何でも身内に何か有った様で二日前に王都に帰りましたよ」
「へー王都にですか」
「この国のギルド職員は王都出身が多いんですよ。商家や貧乏貴族の家を継ぐ可能性の低い、娘や息子が職員になるんですよ」
フィーネさんは王都にいるのか。もしかしたら王都で会えるかもな……いや、王都だから広いだろうしそんなことはないか……。
「さて、本日はどの依頼を受けられるのですか?」
「おっとそうだな。マルクスと言う名前で鴉羽森孝に対して王都までの護衛依頼が出てると思うのだが」
俺がそう言うと受け付けの男は目を落とし目録をパラパラ捲ると見つけたのか紙に書き目を上げた。
「確かにありますね……ではこれをどうぞ」
数枚の紙を渡された。
「それは依頼書とその写し、それと護衛証明書です。証明書は護衛達成地点、つまり王都のギルドでお渡しください。そうすれば依頼が完遂した事になります。報酬は王都ギルドでお受け取り下さい。では、依頼頑張って下さい」
「どうもありがとう」
「ありがとうございます」
俺とインは礼を言いギルドの外に出る。その足で買い取り場に向かう。買い取り場には既にマルクスが馬車を止めて待っていた。
「マルクス速いな!もう着いてたのか」
「今着いた所だ。じゃあモリタカ、竜の素材を受け取りに行ってくれ。積み込んだら出発するぞ」
「了解だ」
買い取り場で受け取った、竜から剥ぎ取った素材は大きな袋が一袋と木箱が三箱だった。この本来なら職員と一緒に運ぶ大荷物をインが重力操作を使って一人でさっさと全て運んでしまった。
「すげぇな……あの姉ぇちゃん」
筋肉隆々の職員達がそう言うのも無理もない……何故なら俺も同じ事を思っていたからだった。
さて、気を取り直して、素材の積み込みが終わったマルクスの馬車の荷台に乗り込む。元々あった荷物に今積み込んだ素材で荷台は更に狭くなったが、それでも人二人位が座れるスペースは有り、そこに座る。
「良し、乗ったな。じゃあ出発するぞ」
御者席のマルクスは後ろの俺達を確認する。俺がそれに手を上げ応えると、マルクスは手綱を引き馬車を走らせた。
馬車は街を抜け草原に出る。俺がこの世界で初めて立ち寄った街、そしてインと出会った街。段々と小さくなっていくパックルの街を俺はただ眺めていた。
「たった一週間でしたが、一杯あの街に思い出が有りますねマスター」
俺が街を眺めていると隣に座るインが笑って言った。
「そうだな。お前と出会ったり、竜と殺りあったり色々有りすぎだ」
「エミール君のお母さんどうなんでしょうね。病気は直ったのでしょうか?」
「さあな、病気は今日、明日で治るもんではない。まあ、ちゃんと薬は有るし大丈夫だろ」
既に見えなくなった街の方角から目線を外し空を見上げる。空は青く透き通り雲は風任せに浮かんでいる……いい天気だ。旅路……と言っても、たった一週間の護衛の旅だが、それでも最高の旅路と言えよう。
「どうしますか。マスターこの依頼を完遂したら又あの街に戻りますか?」
「そこら辺は王都に着いてからだな。傭兵稼業の時とは違って、冒険者稼業はある程度は自由だ……空を往く雲の様に、流れる水の様にのんびりと行こうや」
「そうですね、マスターのんびりと行きましょう!」
俺達を乗せてマルクスの馬車は草原を王都に向けて進んでいった。
次回からは二章王都編(仮称)を書いていくつもりです。




