十八話
照明弾での合図の結果、ギルド職員が来てくれた。血の雨が降ったかのような凄惨な現場と竜の死体を見て驚いていたが、直ぐに正気に戻り竜の搬送準備を進めてくれた。
俺とインも手伝いながら竜を大きな荷車に載せる。この時、インの重力操作が大いに役立ったが、流石に数トンを超えているであろう竜の重量を完全に打ち消すことはできず、中々の重労働だった。
そんなこんなで現在は竜を倒してから二日後。今は無事にパックルの街に着くことが出来た。竜は一日遅れて来る事になっている。理由は簡単、竜が重過ぎて早く運べないからだ。まあ、当たり前の事なので文句は無い。
既に現地ギルド職員からは竜を狩ったと言う証拠である狩猟確認書を貰っている。これは必ずギルドの方に提出しなければならない。狩猟区の生態系維持には必要な事らしい。
そして今は俺達は、依頼達成報告と竜の狩猟確認書を渡すために冒険者ギルドに来ている。受付は昼を過ぎた時刻の為か人は少なかった。受付嬢は何時も通りフィーネさんである。
「あ、モリタカさん。依頼お疲れ様です!」
「こんにちはフィーネさん。これが依頼の狩猟区の調査結果です……それとこれを」
フィーネさんに狩猟区での調査の紙と竜の狩猟確認書を渡した。狩猟確認書でフィーネさんに驚かれると思ったが至って冷静だった。
「……はい。調査結果、確かに受けとりました。ご苦労様です。……竜、本当に倒したんですね。事前に聞いてはいましたから驚きませんでしたけど、聞いた時は驚きましたよ。まさかモリタカさんが竜を討伐するなんて」
「え、聞いていたんですか」
狩猟区から街まで二日、早馬でも一日の距離である。狩猟区から早馬を送った何て聞いてない。何でわかったんだ?
「狩猟区に在るギルド管理の監視小屋には通信用の魔具が備えられているんです。そこから報告を受けたんですけど、本当にびっくりしましたよ」
魔具とは、特殊な力、魔力を用いて使う道具の事である。魔力は基本的に生きる物全てに備わっており、魔具はそれを動力として動く。何でも魔法使いにしか造れないそうで、世間一般では殆ど使われていないと聞いた。噂では聞いていたが、ギルドでは使っているのか……。
そうえば魔法使いにも会ったこと無いな。魔法を使える人は少ないのだろうか?
「成る程そうだったんですか」
「ええ、そうなんです。それで解体や売却等は竜の実物が来たときに買い取り場でお願いします。それと、今回の功績に寄ってDランクからCランクに昇級しました、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。未だ登録して1週間程しか経ってませんが、何でまた昇級したんですか?」
その言葉を聞くとフィーネさんは少し苦笑いをした。
「登録して1週間の新人では竜なんて倒せないからですよモリタカさん」
「ああ、成る程」
その言葉で全てを察した。竜を倒せる位の実力者を低ランクにしたままにする訳がない。
「え~と、後話すことはないですね。それでは依頼お疲れ様でした!……あの子が来てますよ」
その言葉に促される様に後ろを向く。後ろには涙を瞳いっぱいに溜めている少年、エミールの姿があった。
「おお、エミールか今帰ってきたぞ」
「お、おじさん!く、薬は!?」
「ほら、これだ。三輪じゃ足りないといけないから、少し多く採っといたぞ」
ダンプポーチから五輪の薬となる花をエミール渡す。花を渡されたエミールは涙を流し、そして満面の笑みだった。
「おじさん!本当にありがとう!」
「どういたしまして。エミール、お母さんを大切にするんだぞ」
「うん!じゃあね、おじさん!」
五輪の花を握り締め走り出すエミール。その後ろ姿を見て、やっと今回の依頼が終わったと感じたのだった。
時は飛び、その日の夕食時、今回は何時ものギルド併設の酒場では無く、近くの定食屋みたいな店に入った。何時も同じ食事なのは味気ないし、普段そんなに見ない街を見るのも一興だ。
俺達はそこの店先に置いてあるテーブルに座っている。中だとインが集める視線が面倒だからだ。と言っても店先にでもインを見る視線が面倒だが。
「ここ、中々美味しいですね!」
インは丘陵にも居た、家畜にもなっている草食モンスター。名前をサナレナルと言うが、そのサイコロステーキを食べている。
「確かに、量も中々多いし、この店は正解だな」
俺はこの街に来たときに見た仮称魚蟹をムニエルにしている料理が有ったのでそれを食べている。味としては普通の白身魚の味であり、一緒に添えられた茹でた鋏の方は普通の蟹の味だった。コイツは本当にどうやって生まれたんだよ……。
「そうえばマスター。[ピース・メイカー]の使用範囲が増えたのは気付いてますか?」
一生懸命に鋏に残っている身をほじくっていると、インが唐突に思い出した様に話した。
「え、増えたのか?」
「はい、気付いて無かったんですか」
その言葉で、[ピースメイカー]である携帯端末を開く。すると確かに増えていた。具体的に言うと迫撃砲等の[軽火器]の全てが使える様になり、バイクや4輪バギー等の[車輛]の一部が使える様になった。[重火器]は未だ使えないの様だ。
恐らく、今回の使用火器の制限解除の理由は、竜討伐とエミールの母を無償で助けた事だろう。それ以外の俺の行動で、あの女神が言っていた功徳や功績は無いからだ。
「これで近場なら、大量に狩ってもバギーに荷台でも付ければ、素早く大量に運べるな。まあ、生態系は考えなきゃいけないがな」
「もう、マスター。考える事が保守的ですよ。"もっとこれで遠くに旅ができる!"とかないんですか?」
「そんな事言われてもなー。燃料の問題は無いに等しいから確かに遠くに行けるだろうけど。バイクで二人旅は中々キツいし、仮に旅するにも金が少なすぎるな」
そう言うとインは少し考えると何かを思い出したかの様に手をポンっと叩いた。
「お金なら、竜の買い取りで大金が入るじゃないですか!」
「ああ、それがあったな」
丘陵から帰る時、ギルド職員から聞いた話だが、この大きさの竜なら、ギルドに鱗や骨を売却したら約一年なら遊んで暮らせるとの事だった。
……まてよ?
確か買い取りの時はギルドの仲介手数料や解体費用によって得る事ができる金額が下がる。解体はしょうがないにしろ、仲介はしなければ良いんじゃないのか?と思われるがそうもいかない。世の中、冒険者全員が商人と知り合いの訳が無いし。然りとて知り合いだったとしても、その商人が騙して無い保障が無い。だから、一般的な冒険者は多少、金額が下がってもギルドを仲介して、堅実に金を得るのだ。
さて、俺の話に戻るのだが俺には一応、信用?できる商人がいる。そう、最初に街まで運んでくれた商人、マルクスだ。本人曰く王都に店を構える商人だ。嘘を言ってる様な感じはしなかったし、連絡先に貰った、この街に滞在中に泊まってる宿は、中々お値段が良かった筈だ。態々、俺に嘘を言うためにここまでする道理も無い。ならマルクスの話は本当の事だ。
なら、マルクスに竜の鱗とか売っぱらう方が中々良い金額になるな。まあ、これが全て嘘で俺が騙されている可能性は有るのだが、その時は、マルクスの仕事が何処かで魚の餌に変わるだけだ。
「……良し。イン、明日の予定が出来たぞ」
「一体何をするんですか?」
「なに、ちょっと商売の話をしに行くんだよ」
俺はニヤリと笑い、その言葉にインは首を傾げるのだった。




