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十六話



 俺達二人は森を抜け遠回りをして一度ベースに戻った。遠回りをし、尚且つあの竜と遭遇しないように慎重にベースに戻った結果、日は既に落ち、空には満点の星空が輝いていた。


 これから夜襲を仕掛けても良いが、竜の夜戦能力が未知数なのと、不馴れな土地で夜間行動をするのは危険と判断をし、今日はベースで一夜を明かす事となった。


「マスター、お夕飯が出来ましたよー」


 天幕近くに有った、石を回りに置いただけの簡易かまどと鍋で夕食を作っていたインの声が聞こえてきた。


「マスター、今日の夕食は私特製のスープです!……と言っても、今あるもので作りましたから味はソコソコですけどね」


 インは笑いながら皿を俺に差し出す。皿に盛られているのは街で買った干し肉と乾燥豆を煮込んだスープだ。馬車で揺られて狩猟区に来るときに毎日食べていたものだった。この状況で食べれるだけマシなので文句を言わず食す。暖かいスープは肌寒いこの夜には有り難かった。


 夕食を食べ終え鍋と皿を洗った俺達は簡易かまどの前に座っていた。


「それでマスター。どうやってあの竜を倒すんですか?」


「そうだな、簡単に言えば罠に嵌めるだな」


「罠ですか……かかりますか?」


 インの心配も分かる、あの竜の知能は未知数だ。かかるかどうかは分からない。だが、やれる手は何でもやってやる。


「多分大丈夫だ。何とかなるさ」


俺は気楽に話す。


「……マスター楽しそうですね。顔が笑ってますよ」


「え、そうか?」


 インの指摘を受けて手で顔を触ってみる。本当だ、確かに口角が上がってる。俺はこの状況を楽しんでいる?……そうかも知れない。本来なら一生、出会う事はなかった存在である竜との対決なんだ、楽しく無い訳がない


「マスターは戦うのが好きなんですね」


「……確かに嫌いでは無い。だけど、俺としてはのんびりとした生活が好きだな……さて、明日も早いし寝るとしよう」


話を切り上げて天幕に入る。天幕の中には朝置いておいた荷物以外は何も無い。地面が剥き出しの所で寝るのは体温が地表に取られるので良くない、今日は毛布に包まってビバークの様に座って寝るしかないな。


「む~、マスター話を切らないで下さいよ~」


インが追いかけて天幕に入ってくる。


「すまん、すまん。今日は疲れたんだよ。竜の攻撃も少しばかりだが食らったしな」


「あ、そ、そうでした。私の配慮が欠けてました申し訳ありません」


「別に良いさ。さて、寝るか、おやすみ」


 毛布に包まり所謂体操座りの様な格好で眠る。そんなに眠れないし、朝になると体が固まった様になるが仕方がない。雨風をしのげて寝れるだけ御の字だ。そんな格好で寝ようとしているとインがクイクイッと毛布の端を引っ張ってくる。


「ん、どうしたイン」


「あ、あの、マスター。一緒の毛布で寝ても良いですか?」


 お願いと言いつつ強引に毛布に入り込もうとする銀髪美少女イン。そうさせまいと毛布を手繰り寄せる三十代のおっさんの俺……何だこれ、誰得だよ。


「い、いきなりどうしたんだよ!?」


「そ、それは……マスターの体が心配なんです。ですので近くでマスターを見ていたんです……ダメ……ですか?」


上目遣いで訴えるイン瞳は涙で潤んでいた……やっぱりこう言うのに弱いな俺。


「……はぁ、分かったよ。ほら入れ」


「やったー!ありがとうございますマスター!」


 さっきとは打って変わった表情で素早く毛布に入り込むイン。こいつ……俺の扱い方を学習してやがるな。はぁ何でこんなことになるのやら。


 そんなこんなで二人で一つの毛布を使う。ここから更なるインの交渉(泣き落し)の結果、俺の前にインが座る形となる……どうしてこうなった。


 しかし……身体に当たるインの感触は柔らかく温かい。これで本当に機械と言うから驚きだ。こいつは本当は人間じゃないのかと思ってしまう……そんなことは無いだろうに。


向かい合った体勢のまま、丁度良い位置に在るインの頭に顎を乗せてて微睡みんでいると前のインから声が届く。


「しかしマスターのって固くて大きいですね」


俺のそれを触りながらインは言う。


「ん?……そうか?こんなもんだろ」


「いえいえ、こんなのって普通あり得ないですからね」


「まあ、一応、毎日色々としてたからな。他の奴らより有っても仕方ないさ」


「努力の賜物と言う奴ですね。本当に凄いですよマスターの 筋 肉 って!」


俺の上腕二頭筋や腹筋、胸筋を触りながらインは言う。これでも元傭兵。身体は毎日鍛えていたし、傭兵稼業を辞めた後もそれなりには鍛えていた。


ん?他の事じゃないのかって?そんな考えをした奴は腹筋でもしてろ。











 ビバークと言うのは本来なら野外の岩影や木に寄り掛かって眠るものである。今回は天幕が有るから幾らかマシだがそれでも寝づらい体勢での睡眠だ。数時間毎に起きては、また眠るを繰り返していた。


「……ぐ、うう、体が痛ぇ。今どれぐらいだ?」


天幕の切れ間から覗くと外はぼんやりと明るくなってきた。これなら行動が始められる。


「おい、イン。起きろ」


「うう、何ですかぁますたぁ。こんな早朝にぃ」


インを起こすとモゾモゾと動き文句を言ってくる、しかしそれを無視をする。


「これから竜の野郎を殺すために準備するんだ。早く起きろ」


この状況インが起き上がらないと俺も起きることが出来ない。


「私はもう少し寝たいです~」


「ほら、さっさと起きろ。……竜を狩るのが上手くいったら何かご褒美をやるからさ」


その言葉でインは正にシュババッと言う擬音が付く様な素早さで起き上がった。


「マスター!さあ、行きますよ!」


「お前って現金な奴だなぁ」


俺の言葉を無視してインは話を続ける。


「それよりもマスター。今、何でもするって言いましたよね?」


「言ってない」


朝っぱらから頭が痛くなるが、新たな一日、そして竜狩りが始まった。



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