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十五話



一直線に此方に向かって来る赤き竜。完全に俺達をターゲットに定めている。ここは遮蔽物が無い丘の上、逃げれはしない……どうするか。


「……くそ。イン、彼奴の顔を狙うぞ!」


「ですがマスター!只の銃弾が竜の鱗を貫通できますか!?」


「分からん。だが、貫通出来なくても嫌がらせ程度にはなる!」


「ッ、了解です!」


二人は竜の方に銃口向け放つ。この"ミネルヴァット丘陵"に幾つものけたたましい発砲音が響いた。


感覚的に何発も竜の顔や身体に着弾しているのが分かる。だが、竜は一向に気にせず此方に向かって来る。


「ダメですマスター。効いてません!」


空になったマガジンを交換しながら俺は叫ぶ。


「つべこべ言わずに撃て!撃て!」


マガジンを交換し終えHK416のレティクルを竜に合わせ撃つ。だが、効かない。既に彼我の距離は100mを切っていた……くそっ!これ以上は無理か!


「イン避けるぞ!右横に向かって走れ。俺は反対に行く!」


「了解ですマスター!」


同時に左右に走りだした俺とイン。これであの竜はどちらかに向かう……それは俺だった。


「やっぱり俺か、そんな気がしてたんだよ。くそっ!」


あの牙と爪に当たらないように必死に走る、走る!……そしてあの竜は土煙を巻き上げながらこの地に降り立った。


「GAaaaaaaa!」


降り立った竜はけたたましい咆哮を鳴らし、その二つの足で向かって来る。


「くっ!」


爪の攻撃を避け、牙の攻撃を避け、突進を避ける。ハッキリ言って避けられたのは運が良かっただけだった。


……そしてついに尾の凪ぎ払いに当たってしまった。


少し、そうほんの少し尻尾の先に当たっただけなのに自動車との衝突の様な衝撃を受けた。体がゴムボールの様に跳ねながら4~5m吹き飛ぶ。


「ガハッ……!」


少し体が引っかけただけでこの衝撃。まともに食らったら体がグチャグチャになるかもしれない。


「……く、くそ!か、体が……!」


 先ほど吹き飛ばされた衝撃で体が上手く動かない。視界が上手く定まらない。吐き気もする。頭を打ったようだ。必死に這いながら逃げようとするが、この様な弱者を竜は逃しはしない。



竜の牙が迫る。



 せめてもの抵抗にグロックを撃つ。HK416は吹き飛ばされた時に飛んで行ってしまい、近くに無い。弾丸を全弾撃ち放つがまるで効かない。


竜の牙は既に目と鼻の先にあった……もうだめか。最後の抵抗に手榴弾でも炸裂させてやろうとすると……


「マスター!」


直後、もう聞き慣れてしまったインの声を掻き消すかの様な連続する凄まじい音が轟く。


「GyAaaaa!」


先程までとは比べられない程の威力と衝撃に流石の竜もその場を後にし飛び去った。何とか危機は一先ず去ったのだ。


あの轟音は……つい数日前に聞いたばかりの音だった。音がした方を向くとインが立っており、その手に握られていたのは、予想通り回転六銃身を持つ機関銃、M134。通称ミニガンだった。


「だ、 大丈夫ですかマスター!」


インは駆け寄って来るなり、俺の頭を太ももに乗せる体勢、所謂膝枕で俺を介抱し始める。


「おい服が汚れるぞ」


まだ頭が回ってないせいか見当違いな事を言ってしまう。


「本当にマスター大丈夫なんですか!?……マスターに何か有ったら私……私は……!」


大粒の涙を流しながらインはそう訴えてくる。


「イン泣くな。俺は大丈夫何だから」


手をインの顔に伸ばして涙を拭ってやる。


「うぅ、ですけど……ますたぁが本当に死んじゃうんじゃ、ないかと思って……!」


ぐすぐすと泣き続けるイン。……ああもう、しょうがないな。


ぐっ力を入れ起き上がる。


「あぁ、ダメです!まだ安静にしない……と………!?」


インを抱き締める。強く無く、されど弱くは無い、そんな程よい強さで抱き締めてやる。


 「ま、ま、ま、マスター!?い、いきなり何をするんですか!?」


 インの抗議を無視しそのまま抱き締め続ける。ついでに頭を撫でてやると、直ぐに借りてきた猫の様になってしまった。


「落ち着いたかイン」


「は、はい。お、落ち着きました。で、ですので早く離してくれると嬉しいのですが」


「ん?すまん苦しかったか」


 インを抱き締めるのを止めて立ち上がる。先程までの吐き気は無くなっていた。どうやら軽く脳が揺れた程度で済んだ様だ。体は打撲程度で済んでいる。これなら直ぐに行動が出来るだろう。


「あ、そうえばイン。……お前ミニガンを使ったな」


「い、いや、その……緊急時でしたので。ダメでしたか?」


インはおずおずと言う。


「ダメな訳がないだろう。助かったありがとう」


 俺はそう言ってまたインの頭を撫でる。インは嬉しそうに目を細めた。


「は、はうぅ……ってこんな事をしている場合じないですよ!マスターこれからどうするのですか」


俺の手を自ら退かしインは聞く。


「そうだな、あの竜を無視して街に戻るのが定石だろうけど、あの竜に捕食者のプライドが有るならそんなに上手くは行かないだろうな」


「捕食者のプライドですか?」


インは首を傾げる。


「そうだ捕食者のプライド、他の言い方なら強者のプライドだな。自らの餌、自分より弱い相手と認識した奴に負けるのは我慢ならないって言う事だ」


「マスターには有るのですか、そのプライドは」


「ある程度の矜持は有るが、面倒臭いプライドは持ってない。戦場だと変なプライドを持ってると死ぬからな」


 俺の矜持、簡単に言えば"契約は絶対"位で他にも有るが仕事関係はそれぐらいだ。変なプライド。特に差別主義者等は戦場で直ぐに死ぬ。弾丸は前だけから飛んで来るわけではないのだ。


 さて、話がそれてしまったが、これからどうするか。十中八九、あの竜には捕食者のプライドがある。竜はこの世界の食物連鎖の頂点だ。自ら食べ損なうなんてあり得ない。ましてや一時的に逃げるなど、大いに竜のプライドは傷ついただろう。では、竜はどうするか?


 答えは簡単、"自分のプライドを傷付けた奴を殺して喰らう"それだけだ。その為に狩猟区外、下手したら街まで追ってくるかも知れない……いや、高いプライドを傷付けられたアイツはそうするに違いない。じゃあどうするか……



ここで殺るしかない。



「イン。あの竜を殺るぞ」


 だがタイマンで勝てる相手じゃない。インがいてもそれは変わらない。


「はいマスター。ですがどうするのですか?私達の銃では効かないですよ」


確かに俺達の武器は効かない。だが、俺達にはまだ攻撃手段が残されている。それに……


「……簡単な話だ。まともに殺って敵わないなら、"まともに殺らなければ"良いんだよ」


別段あの竜と同じ土俵で殺し合わなければならないと言うルールはないのだ。俺達は俺達なりの殺り方がある。


「良し、イン。考えは纏まった。一先ずこの丘を降りるぞ」


「了解ですマスター」


俺達は竜を狩る為に丘を降るのであった。



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