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十二話



3人との対峙の後は何事もなく、街の買い取り場に着いた。窓口のおっさんに話しかける。


「モンスターの買い取りをお願いしたいのだが」


おっさんは気さくに話しかけてくる。


「おう、あんたか今日も結構の数を獲ってきたなぁ。……それでそこの嬢ちゃんが見張っている3人組は?」


おっさんはちらりと目線を横にずらす。目線の先には二人に抱えられている一人の男いた。


「ギルド規定違反だ。違反は抱えている二人が獲物の横取りと恐喝。抱えられている方が前の2つに誘拐未遂が入るな」


「あの怪我は?」


男の腕に有る治療の跡を聞く。あの後流石に失血死を避ける為に治療をしたのだ……弾丸は抜いてないが。


「仲間を連れ去りそうになったから攻撃してきたまでだ」


「なるほど。……良く分かった。ソイツらの身柄は此処で預かろう。確かあの年取ってる2人は何回かギルドから警告を受けていた筈だ。直ぐに罰則を言い渡されるだろうよ。悪くて奴隷落ち、良くて重労役だな。若造の方は初犯だからそこまで罪は重くはないだろな」


前科者は少し言い過ぎだが、黒に近いグレーの様な奴等だった様だ。しかしあの若者は本当に口車に乗ってしまった様だ。なんと言うか可哀想な奴だな。


「弾がまだ体内に有るから抜いた方が良いぞ」


「おう、わかった。……さて!ここからはビジネスの話だ。獲ってきたモンスターを解体場に持って行ってくれ」


荷車を解体場に入れ、買い取りの手続きに入る。ウサギは数を数え、狼は毛皮の状態を確認した。


「ふーむ、ホルンラビットが26匹で合計金貨二枚と銀貨六枚。シルクウルフは全て傷が少ない……一匹金貨一枚だな。六匹で合計金貨六枚だ。依頼報酬銀貨二枚を合わせると金貨八枚と銀貨八枚だ」


やはり人手が増えるとそれだけ獲れるモンスターも増える。そうすれば報酬も増える。別に金はそこまで欲しいとは思わないが、無いよりは有った方が良いからコツコツと集めていこう。


買い取りのおっさんに礼を言い。証明書をもらって買い取り場から出る。その後はギルドに向かい報酬を受け取る。


そして、今は酒場で夕食をとっている。メニューは昨日と同じホルンラビットの串焼き、エール、パンとスープ、あまりに同じ過ぎて既視感を感じる程だが、一点だけが昨日と違っていた。それは……


「マスターこれ美味しいですね!」


ニコニコと笑いながらホルンラビットの串焼きを食べるインの存在だ。ハッキリ言ってこの酒場ではインの存在は異質だ。メイド服を着てるということも有るが、本来こんな美少女がいるような場所では無いのだ。


現にこの騒がしい中、ヒソヒソと此方を見て話している集団がチラホラ見える。夕方の方が酒場は盛況の為、朝より見ている奴等の数は多い。………もし直接絡んで来る奴が居たら……容赦しないがな。


「しかし、あの時は良く俺の命令を守っていたな」


あの時とは3人組に絡まれた時の事だ。インの腕が掴まれそうになった時は、流石に命令を無視して撃つんじゃないかと思っていたがそんなことは無かった。


「あのですねマスター、私は自らの存在危機以外はマスターのご命令が最優先なんですよ!」


「きちんとカバーストーリーに沿った身の上を話すと言う命令は守らないじゃないか」


「あれは、私が自己判断をし、最適な受け答えをしているまでです!」


……これはもう何言っても無理なんじゃないか?


「……まあ、気を付けてくれよ」


半ば諦めつつ注意はしておく。


「そんな事より!マスターご飯を楽しみましょうよ!」


「そんな事よりって……まあ、確かにひとまず飯を楽しむか……ふと思ったんだが、インは人工物なんだよな?」


「はい。恐らくそうですよ?それがなにか?」


"恐らく"……そのふとした言葉に違和感を感じたが……


(まあ、インが言い間違えただけだな。アイツは通常時はポンコツだし。)


そのことは、直ぐ頭から抜けてしまった。


「……マスター?どうかしましたか?」


「ん?ああ、すまない。それでなんだがインは食べる必要があるのか?」


自動人形。現在だとロボットと同じ意味である存在。朝はいきなり過ぎて忘れていたが、食べる必要が有るのだろうか?


「ん~。正確には食べる必要はないです。そもそも私の動力は"核動力"の筈ですから」


「核?」


「はい。核ですよ。話を続けますね……動力は核分裂炉ともう1つ、有機転換炉が有るんです。そっちは食べた物が燃料になるんですよ」


さらりと言ったが核である。こいつはどんだけ未来の世界からきたのだろうか?


「じゃあ食べなくていいのか」


「んー電脳は殆ど人間の脳と変わらなくて、有機転換炉で食物が分解されると刺激成分が脳に行くんです。カフェインとか。それに味覚も有りますから美味しい物は食べたいですね!……なんでそんな事を聞くんですか?」


「ん?ああ、お前が食べなかったら食費を押さえられるなって思ってな」


少しふざけた事を言うとインは頬を膨らませて怒ってしまった。


「む~マスター!それは人権の侵害ですよ!」


「……この世界に人権って有るのか?そもそもお前は自動人形だろう……まあ、一人で食うのも味気無いしな。飯を食おう!」


「そうですね!いっぱい食べましょう!」


酒場のウェイトレスに追加の酒として今度はワインを頼み、おかわりの串焼きを頼んだ。そうして夜は更けていった。











さて、夕食を食べ終わったのだが調子に乗りすぎて酒を頼み過ぎてしまった。その結果が………


「えへへ、ますたぁ」


インが俺の背中を全身でマーキングするように擦り付けてくる。


「はいはい。分かったから、落ち着け」


「えへへ、ますたぁ~!」


「ん?何だ?」


「えへへ、呼んだだけですよぉ!」


完全にインが酔っ払ってしまったのだ。グビグビと飲んでいたので、流石自動人形、アルコールは効かないのかと感心していたら、いつの間にか、べろんべろんに酔ってしまっていた。それで良いのか工業製品。


と言う理由でインを背中に背負い、片手にお湯が入った桶を持って、宿屋のおばちゃんに指定された部屋に向かっているのだった。


なお


『ここは連れ込み宿じゃないから~おいたはダメよ~。まあ、合意の上なら兎に角言わないけど~。……酔っている子に無理矢理はギルドに突き出すわよ』


と、釘を打たれてしまった。確かに今の状況は犯罪者そのものだ。まあ、そんな趣味は無いから手を出す訳ないが。


背中で身体を擦り付けてくるインを宥めながら部屋にやっと着いた。


「ほらイン、部屋に着いたから降りろ」


「ふぇ?……いやですぅ。ここがいいですぅ」


インが俺の首に手を回し、脚を腰に回してピッタリとくっ付く。部屋の前と言ってもここは廊下のど真ん中だ。こんな所を見られたら、なんて噂されるか。


「おい、はしたないぞ」


俺が注意するとインは笑う。


「えへへぇ、この体勢良いですね。ますたぁを感じれます」


はぁ、これは何を言ってもダメだな。そう思いさっさと部屋に入る。


部屋は2つのベットに机と2つの椅子と言う簡素なモノだった。


インを引き剥がし片方のベットに放り投げる。


「むにゅ!?いきなり何をするですか、ますたぁ!……むきゅ!?」


文句を言うインの顔にお湯で浸したタオルを投げる。まともに顔に受けたインは可愛い悲鳴の声を上げる。


「それで身体を拭いとけ。そしたら先に寝てて良いぞ」


そう言って俺は部屋から出ようとするがインに手を捕まれる。


「ますた……もりたか様が拭いてくれませんかぁ?」


「断ったら?」


「……泣きます?」


上目遣いでそう言ってくるイン。正直断りたいが、そんな目で見られると俺が悪者の様だった……甘いな俺も。


「はあ、分かった分かった。背中だけ拭いてやるから前は自分でやれよ」


「はい。ありがとうございまふ」


既に呂律が回ってないインは、着ていたメイド服を外して生まれた………生産された?姿になる。


月明かりに浮かぶ彼女の一糸纏わぬ姿はまるで1枚の絵画の様だった。


「もりたかさまぁ?どうしました?」


「ん?ああ、すまんすまん。じゃあ拭くぞ?」


「はい。よろしくお願いしますぅ」


お湯で浸したタオルで背中を拭く。タオルで拭いてると言っても手が肌に触れてしまう。


「ん……!」


「ん?どうした?痛かったか?」


「い、いえ、な、何でもないです。……あ」


そのままインをタオルで拭く。一応言っておくが俺も男である。女性とそういう事をしたいと思う。だから、相手が自分に好意?があり、俺自信もソレを悪くはないと思っているこの状況は中々キツい。と言うかこいつ……誘っているのか?


だが、我慢をする。こんなことで不和を作りたくは無いのだ。


(南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……!)


その為、頭の中で念仏を唱えて必死に欲望を押さえているのだ。


「ふう、終わったぞ。後は自分でやれよ」


「………ふぇ?」


何とかインの背中を拭き終わり、自分を拭こうと新しいタオルを取り出すが………


「もりたか様ぁ。前とか脚はなさらないのですかぁ?」


「それはしないってさっき言った……!」


インは脚を組み身体を此方に向けていた。月明かりで光る銀髪。シミ一つ無い白い肌。スラッと延びているが肉付きのある脚。


こいつ、まさか本当に!?


「ほらほらぁ、もりたか様ぁ。しないんですかぁ?」


インは脚をぷらぷらさせて誘っている。………うん、一度落ち着こう。正直手を出したい。俺も大人の男だ。責任の取り方は分かっている。だけども泥酔して自分が何をやっているのか良く分かってないのを良いことに、手篭めにするのは本当の大人の男のすることだろうか?……違うな。じゃあ、やる事は一つだ。


「どうしたんですかぁ、もりた………むきゃ!?」


インの顔に濡れたタオルを投げつける。今度もクリーンヒットした。


「うう、何をするんですかぁ!」


「さっさと拭いて寝ろ!俺は寝る!」


俺は自分の身体をさっさと拭いてベットの中に入り、インとは反対側を向いて横になる。インが自分の身体を拭く音が聞こえるが、やがて静かになる。やっと観念して寝たかと思っていると。インの気配がそろりそろり向かって来るのが分かった。……こいつ俺のベットに入り込もうとしているな!


「……おい、イン」


少し語気を強めて声を出す。


「ひ、ひゃい!何ですかぁ!?」


「お前、俺のベットに入り込んだら……バラすぞ」


「わ、わかりましたぁ!」


そうして、俺はやっと眠りに着くことが出来たのだった。




なお、翌朝のインの狼狽っぷりは言うまでも無い。



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