十一話
時間は飛び、時刻は夕方になっていた。なんなかんやで狩りは無事に終わり、俺とインは荷車を引いて街へと帰っていた。
「マスター!大猟ですね!」
俺の隣でインは嬉しそうに話す。
荷車にはホルンラビットが26匹が積み重なっており、更にシルクウルフが6匹積まれていた。
「ああ、そうだな。……イン、お前って意外と有能なんだな」
今回の討伐、大量の獲物を狩る事が出来た大きな理由はインの活躍が大きい。インは自らがセンサーの様な存在で、半径300m程なら何処でどれぐらいの大きさのモノが動いているかが判別出来るのだ。そのお陰で獲物を瞬時に識別し正確に弾丸を当てる事ができるのだ。
そしてこの荷車にもインの力が使われている。ミニガンを持っていた時に使っていた重力制御によって荷車の重さを軽減しているのだ。そうしないと重さで人間では持って行けない。
「ふふんっ!私は完璧銀髪美少女メイド自動人形なんです!」
完璧銀髪美少女メイド自動人形……属性過多だと思うのは俺だけだろうか?
「はいはい、インは凄いな」
「むぅ~。マスター褒め方が雑です!もっと……」
インは次の言葉を言わずに黙ってしまう。また、ふざけているのかと思ったが顔が真剣そのものだった。
「どうしたイン?」
「マスター。東に200mの地点から此方に向かってくる物体を3体確認。恐らく人間だと思います。どうしますか?」
此方に向かってくる人間が3人………情報が少なすぎるな。
「ソイツらはいきなり現れたのか?」
「はい。先程までは動いて無かった様です」
インのセンサーは動いてるモノしか判別出来ない。止まっているとセンサーには探知できないのだ。
「……何とも言えないな。待ち伏せかも知れないし、ただそこで休憩していて帰り始めた途中かも知れない。……イン、ソイツらを警戒していてくれ。一先ずは気付かない振りをして街まで行こう。万が一絡まれたら無視をし続けろ」
「マスター、了解しました」
それから数十分後、街まであと少しの所でその3人組と出会うことになった。
その三人組は、一人は20代の若者、残り二人は30~40位のおっさん達だった。3人とも装備ははっきり言って良くない。簡単な作りの皮鎧を身に纏っているが、どれもくたびれていた。
「な、なあ、あんたら荷物持ちがいるんじゃないのか?よ、良かったらその荷車、街まで運ぼうか?その代わり……な?」
20代の若者が言ってくるのを無視し俺とインは歩く。
「なぁ、あんたら、そんなに獲物を獲っているだ。少しぐらい恵んでくれても良いじゃないか?」
おっさんの一人がニヤニヤと話して来るのを無視をする。
「なぁ!あんたら聞こえてるんだろ!少し位分けてくれても良いじゃないか!あんた達は強いんだろう?だったら少し位弱い奴等にめぐんでも罰は当たらんだろう!?いや、めぐむべきだ!それが強き者の義務だろう!?」
遂に一人のおっさんがキレるが無視をして歩く。
「く、糞がぁ!俺達をコケにしやがって!お、お前達も抜け!」
キレたおっさんが腰に帯びていた剣を抜き出す。そうすると他の二人も剣を抜いた。剣には所々錆が浮いていたり、欠けていたりと整備がされた形跡が無かった。
そして3人は俺とインの行く手を阻むかの様に俺達の前に立ちはだかった。
「此方としたら穏便に事を進めたかったが、あんたらが悪いんだぞ。あんたらは男が1人と小さな女が1人。俺達3人に、かないっこねぇ。諦めて金目の物とその荷車を置いてって貰おうか!」
無視を続けただけで強盗の真似事を始めるのか。ここは修羅の国かな?そろそろ面倒になってきたし、ご退場を願おうか。インの我慢も限界の様だしな。
インは俺の命令を守っていたが、肩がプルプルと震えていた。次に奴らが仕掛けてきたら十中八九攻撃するだろう。
「これも無視か!?これは痛い目を見ないと分からんかぁ?おい!そっちの女も連れていくぞ!」
男の1人がインに近付き腕を掴もうとする。
流石に我慢の限界だった。
レッグホルスターからグロックを抜き、構え、敵に撃つ。この間、たったの3秒だった。
グロックから撃ち出された弾丸はインの腕を掴もうとした男の腕に当たる。
「ぎゃあアァ!?い、痛えぇぇ!?う、腕がアァ!?」
弾丸が腕に当たった男が腕を押さえてうずくまり悲鳴を上げる。痛いはずだ、普通の弾丸でも赤く熱せられた火箸を身体に押し付けられる様なものだ。ましてや今回グロックのマガジンに込められている弾丸は"ホローポイント弾"だ。
ホローポイント弾とは銃弾の尖端が凹んでいる銃弾の事である。撃ち出されたホローポイント弾は標的に着弾すると体内で弾丸がマッシュルームの様な形になり、体内をズタズタにするという凶悪な弾丸だ。
その弾丸が当たった男、早く治療をしないと最悪失血死するだろう。まあ、俺には関係無い話だが。
「て、てめぇ!な、何をしやがった!」
「お前らには知らなくても良い事だ」
グロックを残った二人に向ける。
「ひ、ひぃ!た、助けてください!お、俺はこの二人の口車に乗ってしまっただけなんです!」
20代の若者が変な事を口走っている。たとえ口車に乗ってしまったとしても、手を出して来た時点で同罪だ。
「て、てめぇ!何を言ってやがるんだ!てめぇも同罪だぞ!」
残っていたおっさんが若者に剣を向ける。敵を目前にして仲間割れとはやる気は有るのだろうか?……何かしょうもないし、こいつらとはここで手切れとしよう。
俺はグロックを発砲する。弾丸は向かい合っている二人の間の地面に着弾した。
二人はびっくりして尻餅をついてしまう。
「ひ、ひぃ!な、何をしやがるんだ!」
「警告だ。お前ら3人のギルド登録証の首輪を渡すんなら助けてやる。お前らも連れて行くからギルド職員から返して貰うと良い」
「な!?それは俺達に死ねって言ってる様なもんじゃねえか!」
ギルド規定の中身は登録時に説明された自己責任に関するモノが大半だが、獲物の横取りや略奪行為、同業者への意味の無い攻撃も規定違反とされていた。
罪を犯してしまった者はギルド側に拘束され、罰則を受ける。裁判なんてモノは基本的には存在しない。何故なら基本的に冒険者が捕まるのは現行犯の場合が殆どだからだ。罪を犯した者はその罪の重さで受ける刑罰が変わる。一番軽いと罰金や軽い労役。一番重いと死刑である。
今回だと二人は獲物の横取り、恐喝だ。肩を撃ったおっさんは、そこに誘拐未遂が入る。剣を取り出したのは殺人未遂と思うだろうが、取り出して脅しただけだから恐らく恐喝だろう。
罰則は逆に言えば現行犯以外で捕まる事は殆ど無いと言う事だ。まあ、俺はわざわざ犯罪を犯してまで金が欲しいとは思わないがな。
「じゃあ、ここで死ぬか?別に俺は構わないがな」
話を戻し、躊躇なくグロックを二人に向ける。
「俺は面倒が嫌いなんだ。今から3秒以内に決めろ!はい、い~~ち、に~~い、さ~~……」
「わ、分かった!俺は降参する!だから助けてくれ!」
20代の男が降参してきた。
「て、てめぇ!裏切るのか!ギルドの罰則を受ける事になるぞ!」
「もう、たくさんだ!ここで死ぬより罰則を受けた方がましだ!生きていたら挽回のチャンスはいくらでもある!」
「何でも良いから、最後の奴、早く決めてくれないか?俺達は速く帰りたいんだよ」
感情を削ぎ落とした冷徹な声を出し、躊躇なくグロックを向ける。
「……くそぉ!分かった!俺も降参する!」
「やっとか、じゃあこれから街に行くから登録証を渡せ。後、そこの奴はお前らが連れていけよ」
2人が1人を担ぐ。時間を食ってしまった。まだ買い取り場は開いているのだろうか?
「イン。こいつらの監視を頼む」
「了解しました。マスター」
俺とインは3人の罪人を連れ街に帰るのであった。




