11回目
辺境伯家に話を通しさぁ行動を始めると時間はあっという間に過ぎていった。王都までの道中はやはり辺境伯の看板に楯突く者などいるはずもなく問題なく王都に到着した。
王都に何事もなくついた。それは良い、喜ばしいことだ。自分は鉄砲を撃つしか能がない人間なのは自覚している。だが1発も撃たないことが良いことなのも知っていた。誰も傷つかないのは良いことなのだ。
だが王都に着いてからが長かった。一ヶ月以上待ちぼうけをくらったのだ。辺境伯家が魔族領へ使者の派遣を奏上しその会議がずっと続いていたのだ。
いやまぁとんとん拍子で進む訳はない。一ヶ月程度で決まったのは行政としては早い方ではないか。これが己の母国なら半年経っても話し合いをしていてそうである。
そんな話し合いの間、スラウを連れて王都の観光をしていた。
「ムグムグ……!これ……美味しい!」
「スゥ(スラウ)……落ち着いて食えアイスは逃げはしないぞ」
……そんなやりとりもありながら一ヶ月以上王都で待った。最初の内はこそ目新しいものもあり暇は潰せたが中盤以降はただ空虚な時間が過ぎていくのをただ待ち続ける。
唯々暇であった。筋トレなどのトレーニングはもう日常生活の一部だし、酒を飲みすぎるのは腕が鈍るさりとて煙草の類は嫌いだし、王都の外に出るのは情報の拡散を防ぎ、そしてスラウの存在を隠すため駄目と辺境伯に言われ出られない。
暇で暇でしょうがなかったがそれでも彼は待った。自分が持ってきた案件であったからそれを自分で壊す訳にはいかなかった。流石に国のあり方が変わるからしれない案件だ自分が出る幕は無いし発言権と無い。先ほども言ったように一ヶ月で逆に良く決まったと言えよう。
そんなこんなで待ち続けること一ヶ月と少し魔族領へ使者の派遣が決定された。表向きは親善の使者としてである。決定から更に二週間後、選ばれた一人の男が謁見の間で国王から二枚の羊皮紙を手渡せれた。
「それでは頼むぞ子爵、しっかりと役目を果たしてくれ」
「はっ!この勅命、命にかえても実行いたします!」
二枚の羊皮紙には同じことが書かれている。魔族領への支配者への友好を示す旨が書かれている。その片方を相手に渡すのだ。二枚とも持ち込むのはちゃんと同じかどうかを確かめるため。
名も知らない子爵は馬車に乗り込み供回りがそれを固めて王都を出発した。王国としてして“外交”を行うので程度の爵位がある者が行くこととなった。また魔族領とは隣接している訳ではない小国がその間におり、そこへの外交使節という側面もあった。それに随行員や護衛の兵士達が付く、その中に守孝一行の姿はない。
「……そろそろ表の奴らが出発したぐらいか」
王都から遠く離れた丘の上、そこに一台のハンヴィーが停まっていた。彼は地面に寝転がり空を見上げている。
「マスターもう少ししたら山道になるみたいなんで早めに出発したいです」
「おう分かった」
よっこらしょと起き上がりうーんっと背伸びをする。
高度な政治上の都合により彼等は友好使節の前に秘密裏に事前交渉をするという役目となった。まぁこれも名目であり実際には魔人領の主に人間の使節が来ることを伝えるだけのメッセンジャーボーイにすぎない。
完全に彼等が魔人領にいける様にするための役職、ありがたい話だ。なんとしても彼女を送り届けなければならない。
彼等の待ち受ける先は魔族領だ。その先に何が待っているか彼等は知るよしもなかった。




