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Guns Smoke Raven [傭兵は異世界でも武器をとるようです]  作者: 神無月 郁
第二部 第一章 傭兵と勇者として招ばれた少年
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8回目 辺境伯との面会

お待たせしました!



「……成る程それで儂のところに来たのか」


 出されたお茶を一口飲むと守孝は頭を下げた。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。ですが我々が頼れる人は限られてまして」


「いや構わんよ我らヴィトゲンシュタイン家は君達に大きな借りがある。それに君達から頼ってくれると言うのは我らを信頼してくれている証だからな、悪い気はせん」


 そう言って下さると此方も胸のつかえが下りますとまた頭を下げた。ここはヴィトゲンシュタイン辺境伯領の領主館、そこの応接間。彼等は前党首であるゴトフリート•フォン•ヴィトゲンシュタインに会いに来ていた。


 現当主であるルドガー•フォン•ヴィトゲンシュタインとその妻であり元王族のマルガリットと共に王都にいる。領地持ちの貴族の仕事は領地運営にある。より良い土地にし更なる発展を進める。


 それはヴィトゲンシュタイン家も変わらない。だが彼等は大貴族に列せられる大身だ領主運用以外にも様々な仕事を国から任される事がある。しかし現当主のルドガーはまだ若く経験が足りない。それが故に実戦型の修行として、王都で様々な行政業務や政務修行をしているのだ。構図としては子会社から親会社に出向している会社員と言えば分かりやすいだろう。


「しかし魔族の吸血鬼の娘っ子とは珍しい。儂は吸血鬼というのを初めて見たぞ」


 その目はまじまじとまるで珍獣を見るような感じだった。


 聞けば魔族が猛威を奮っていたのはゴトフリートよりも前の代だったらしく、その姿や脅威は祖父から聞いた事がある程度で後は書物などの知識でしか知らない存在なのだ。時たま動物の群れでいうはぐれが現れたりする事があるがそれも数十年に一度のレベルだった。


 更に言えば彼等の領地が魔族領よりかなり離れているのも関係しているだろう。近ければ魔族を目撃することもあるし、更に言えば秘密裏な交流や小競り合いなども起きていよう。


「うーむ、魔族領に接する国の上流階級では魔族を飼う事があると噂に聞くがその気持ち分からんでもないな」


 ヒッと彼女はソファの後側に隠れて行く様に逃げて行く。


「お渡しは出来ませんよ」


 白磁の肌にルビーの様な瞳に、髪は痛んでいるのかくすんだ金色だが本来は朝日の様な金色なのだろう。そして幼いながらも均整のとれた身体は特定の性的倒錯者には堪らない。


「儂には妻がおるし何より趣味じゃない。スラウちゃんと言ったな、儂は君に痛い事はしないゆっくりと当屋敷で過ごすと良い。長々と話していてつまらないだろう当家の庭を見に行くと良い今は薔薇が綺麗に咲いておる」


 机に置いていた呼び鈴を鳴らすと直ぐにドアが開き屋敷で働くメイドが入ってきた。


「そちらのお嬢さんに庭を見せてあげなさい。それに軽食類も用意も。ああそれからこの部屋でこれから大事な話がするから用がない限り近づかない様に」


 ハイっと深々と礼をしたメイドはしずじずとスラウを部屋外へと案内して行くが守孝の服の裾を掴んで中々離れない。


「ソフィアも着いて行け一人じゃ不安だろうからな」


 はーいッと彼女はスラウに近づき手を握った。


「スラウちゃん私と一緒に行こっか。大丈夫何かあっても僕が守るからね」


 その言葉にうんと頷くと彼女に連れられ部屋を後にした。後には守孝、イン、ゴトフリートの3人だけ。


 インはお茶を用意しますねと先程入ってきたメイドが一緒に持ってきたティーセットを使いお茶を入れ始めた。話すのは実質的に二人だけ。


「アレをここに連れてきた理由は分かる王都に入れるつもりなのだろう。真っ先に王都に行かなかったのは良い判断だ。王都に魔族を連れ込もうものならその場で斬首されても言い逃れ出来んからな」


「……やはりそうですか」


「彼奴らは一匹で兵士数十人と言われていた存在で、現在も公的には敵対している勢力の一員。ここで後顧の憂いを絶っておくために……」


 ピリッとした感覚を守孝は感じた。為政者としてこの国を己を領地を守らんとする殺気。殺る覚悟を持つものは例えそれが仲が良かった者ですら手を掛けるのを躊躇わない。


 やはりダメかどうやって切り抜けるかと思ったその矢先、ピリッとした感覚が消え緩やかな雰囲気が流れ始めた。


「……殺すのが常道なのだが。運が良いのか悪いのか、例の彼奴らによって情勢が変わってきておる」


「十字教とあの自称勇者の一行ですか」


 2年前から各国の地域で十字教と呼ばれる宗教系のテロ組織……いや革命勢力と言って差し支えない奴らが活発に活動している。例えば小国が十字教の革命によって政体が変わったり領主が引きずり下ろされ農民が持ちたる国と吹聴してたりと中々にその勢いは強い。


 この国、サンマリア王国でも2年前に王城でその十字教徒がクーデターを起こし守孝達一行と王城を守護する兵士達が共同でそれを阻止した事もあったのだった。


「奴らの教義では魔族や獣人は駆除対象らしいからの。そしてあの勇者と自ら名乗るあの連中よ、長年閉じていた教皇国が表立って支援しているから手出しできん」


 勇者、今から一年ぐらい前に突如現れた存在だ。数十年前に鎖国し十字教の総本山である教皇国。その教皇国が名指しで支援を表明した存在である。風聞によれば黒髪黒目で年齢は15〜17歳程の少年であるらしい。一撃で湖を割ったとか竜を縦に切り裂いたなど華々しい活躍ばかり耳にする。


 そんな彼には仲間が2人いる。1人は生まれてくる確率が数十万分一という希少価値の高い回復魔法を使う癒し手と呼ばれる教皇国の聖女。もう一人も魔法使いで各地にある魔術学院通称“カレッジ”、その教皇国領にあるカレッジの魔法使い。両者とも名前は知られていないが戦略級と言っても過言ではない。


「勇者ら一行の旅する目的は魔王討伐らしいですが魔王なんて本当にいるんですか?」


「儂から五代前の当主の時に魔王という存在が色々としていたらしいが今はまるで聞かんなぁ。最近の勇者達の風聞では彼等は人助けばかりしておるらしいし」


 自称勇者の行動原理は基本的に善良と言っても良いだろう。西に盗賊に襲われるる村あれば助けに行き、東に竜が猛威を奮っていたらそれを討伐する。南に悪徳に金を積む商人がいれば悪さするんじゃないと懲らしめ、北に圧政に苦しむ民あればその呪縛から解放した。


 基本的に人間の関係はギブアンドテイク。何かを与え、その代わりに何かを得る。例えば金銭を払い品物を買うであったり、労働の対価に賃金を得るそれが普通の人間関係だ。


 確かに友人や家族という関係性はギブアンドテイクだけでは言い表せないしもっと違う、愛とか友情とか人前で言うには青臭い感情が通用する。だがそれは親密な人達だけだ他人との関係性は無関係かギブアンドテイクか、この二つであろう。


 別に彼等も無償の愛という儚い幻想だけで動いている訳ではない。金銭のやり取りはしっかりしてるし名声を捨てる様な隠者にも見えない。ただその行動原理に人を助けるが先ず先に来ているのだ。そう彼等は善良な良い人に間違いはないだろう、少なくとも金で人を殺し戦争を求めて世界中を駆け巡ったこのワタリガラスよりは。


 それだけだったら別に好きにさせておいて構わない。彼等の行動が世界を変えるかは分からないが、少なくとも彼等によって救われた者も居よう。


 その後ろに十字教が深く関わってなければだが。


「勇者の後ろに十字教がなければなぁ……先日も勇者が活動し立ち去った地域で反乱……奴らが言うには革命かそれが起きその地域は堕ちた」


 勇者の後ろに十字教あり。彼等は否定しても誰の目にも明らかだ。十字教が所謂カルト宗教団体と知られているのは一部の国や地域だけ。他の国々では”新しく生まれた宗教、時々暗い噂が流れる”その程度だ。


 そう言う意味では勇者の存在は大いに十字教の存在を世間に広めていると言って良いだろう。要はプロパガンダだそれも絶大に強い。圧政やモンスターの脅威に怯える民衆にうってつけといえよう。


 それなら十字教を潰せば良いと考えるがそうも上手くいかない。宗教は目に見える存在ではない。心にも頭にも存在するそれをそう易々となくせるわけはない。そして各地での十字教主導の蜂起に十字教の総本山たる教皇国はその関与を否定している。しかしその地域が十字教徒が持ちたる場所になったのなら、教皇国は支援などを秘密裏に送ったりしているのだ。


 つまりは勝手に他がやった事だけど仲間だから応援するよと言う事だ。なんとも狡いというか知恵が回るというか。


 そういう訳で勇者一行は一部の特にこの国の支配階級にとっては厄介極まりない存在だった。公に拒否する訳にも拒否する理由が無いし、秘密裏に殺るにも彼等自身の戦闘能力がさることながら教皇国一国を相手にするのも部が悪い、それが鎖国している国であっても。


「我々は公に十字教を邪教認定し、十字教徒であると判明したのなら投獄ないし追放にしている。奴等にとっては明確な敵だ。故に我々は敵の敵に接触してみる敵の敵は味方という言葉に倣ってな」


「それは魔族……そして勇者達が言う魔王という訳ですか」


 そうだともと前当主は頷いた。既に引退した身でありながら、その目はまだまだ国境を守護する大貴族そのものだ。


「彼女を見た時に思いついた。我が国は魔族領とは接しておらんそれ故に相手も多少聞き入れる可能性はある……思えば儂が他種族と盟を結ぼうと思いつくなど夢にも思いなんだな」


「良いか悪いかそれは私の言葉では言えません。しかし少なくとも選択の幅が広がったのは事実です閣下」


 そうだなと笑う姿は自嘲の影がさした。数年前まではこの国では他種族といった存在は差別されて当たり前という考えが当たり前だった。今だってそうだ。しかし少しずつ変わり始めている。全ての人民の考えが変わるのは100年か200年かもっと先かも知れない。しかし変わり始めていると言うことが重要なのであった。


「……すまない話が逸れたな。ともかく儂は一度魔族領に接触を試みたい。しかし儂の一存でそれは決められんから陛下に奏上をしてみる無論秘密裏にだ。モリタカ、君には王都まで一緒に来てもらう。儂と一緒であるなら魔族の娘っ子も王都に入るのも容易かろうからな」


 知らぬ間に国際外交に関わろうとしていた。いやこれは己が持ち込んできた一つの種が呼び水となってよって連鎖的に花開いたと言えよう。それはある意味必然なのかも知れない。この世界は彼等によって目まぐるしく変わっていくのだから。


「了解致しました閣下、微力ながらお手伝いさせて頂きます」


 他の手もあるだろう、しかしこれが一番の最短ルートであった。


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