六回目 暗闇の来訪者
お待たせしました!
「しかしマスターこの辺も野盗の襲撃が増えてきましたね」
「つってもここら辺来たの一年も前の話だがな。まぁ実際増えてるって噂だがな」
ゴトゴト揺れる車内の中、彼等は野盗に襲撃されていた村を後にしていた。数日程程死体を埋葬したり野盗の残党への警戒の為に村に駐留したが来る気配は無く村を発った。
現在、彼等はある公国の辺境を走行している。この道を2,3週間程走ると彼等が拠点と定めているサンマリア王国へとたどり着く。
「それもこれも十字教のせいなんだよね師匠」
この地域でも十字教の根が蔓延っていた。公国自体は十字教を邪教としているが一部地域での勢力が凄まじく半ば占拠されているそうだ。その為に国内の治安が悪化し野盗も増えている。
「一概にそうとは限らないが確かに一因ではあるだろうな……しかしソフィアお前デカくなったなぁ」
「そうかな……そうかも師匠と会ってから二年経ってるしね」
彼女を見れば始めて会ったあの王国の貧民街の姿は見る影もない。前は彼の腰辺りだった身長は胸半ばに伸びていた。ガリガリの栄養失調気味な体つきも今じゃ健康的な少女となった。だがその体にはしっかりと貧民窟での傷跡が残っていた。
「師匠……もぅそんなジロジロ見ないでよ。それともなに、師匠ってそういう趣味なの?」
「は、馬鹿言うなお前みたいなちんちくりん。もうちょっと胸と尻が成長してから言いな」
そんな他愛のない会話が続く中、運転中のインから声が掛かる。
「前方11時の方向に野営地に良さそうな場所があります。そろそろ夕方になりそうですし今日はそこにしませんかぁ?」
ハッチを開いてその方角を見てみれば小林の近くに程よい空き地があり茂みも少ない。空を見れば太陽は傾き始めていた後数時間も経たずに日は暮れるだろう。
「良しそこに向かってくれ少し早いが今日はそこをキャンプ地としよう」
彼女の運転によってスムーズに野営地に到着した彼等はキャンプの準備を始めた。装甲車にバラクーダを掛けて偽装したり、寝るためのテントを建てたり薪を集めたり採れそうな野草や小動物を狩ったりとやる事は様々だ。それが終わっても料理したり時間はどんどん過ぎていく。気が付くと空はもう真っ暗だ。
「本日のメニューは野草とカエルっぽいナニカのスープとそのナニカを焼いたお肉それと焼き硬めたパンです」
「いやまて食えるのかそれ」
「前に調べたらか限りではこの国では食べられているみたいですよ……1.5mぐらいありましたけど」
1.5mのカエルと聞いて鳥肌が走ったが食べれるというのなら頂く。別に食べれない訳ではない蛇やそれこそ蛙、果てには昆虫まで食べるのがサバイバル。
その中でもカエルなら上等な部類だろう。フランス料理にもあるし。食べてみればチキンみたいな味で普通に美味しかった。
「余ったお肉車外に吊るして干しときましょうか」
「流石に外見が悪いから埋めときなさい」
それから夕食を終えるとすっかり夜は更けていき二重月と星空が夜を占めた。色とりどりの星々がこちらを冷たく見見下ろしている。
「いつ見ても星空は綺麗だね」
人種、性別、種族を問わずそれはこの世界の数少ない真理なのだろう。誰もが一度は空を見上げるその先に何を見るかが変わって来るのだ。
「マスター何か近づいてきます光源が見えました。それと何やら妙な気配を感じます」
「……ソフィア一応の用心だ林に入れ武器と通信機忘れるなよ」
妙な気配とは自称美少女完璧メイド自動人形(自称)としては嫌な表現だ。その一言に彼女は目で返し。スッと立つとそそくさと林の闇の中に消えていった。
それから程なく時間が過ぎると一台の馬車が暗闇の中から現れた。
「どうもこんばんは怪しい者では御座いません旅の商人でございます」
焚き火に照らされう薄暗く映る中年の男。風貌は確かに旅商人のそれだ。
「道に迷ってしまったら夜が更けてししまいまして。モンスターの襲われるかと怯えていましたらあ焚き火が見えまして天からの施しとは正にこの事と言うことですな」
「それは災難でしたな。お一人で商売を?」
確かにその風貌は商人のそれである。しかし彼に対して違和感があった微妙に噛み合ってないのだ。こうまるで中華料理人がラーメン屋の店主をしているとか、塩味が足りないと言ったら海水をブチ込んだだ様な……兎に角絶妙に歯車が合ってない。
「えぇ長いこと一人でここら辺を中心に商いをしております」
嘘だ。少なくてももう一人は確実にいる。そうでなくては態々、こちらから馬車の昇降口が見えない様に陣取る必要がない。それにこちらに一定まで近付いてそれ以上来る気配もない。
『馬車の反対側に四人いるよ』
この時点でこの男はすでに黒だ。元々黒に近かったが、そもそも普通の商人なら夜間、ランタンの一つも点けずにう移動する訳がない。しかもここら辺を根城にする商人がだ。
「先程なら何故そこにいるんですか?もっと近付いて焚き火に当ると良い」
目の前の男に見えないように守孝はハンドサインを出す。どうせ近づいたらナイフか何かで刺すつもりだろう片手が不自然に後ろに隠れている。
「それはありがたい是非当たらせてもらいますよ」
そして何よりもこの男から血の臭いがプンプン臭うのだ。
「さてもう良いか……『撃て』」
その言葉に立ち所に爆音が周囲を包み込む。見えない所ではソフィアがこちらを襲おうとしていた一団を駆除し、レイヴンも腰のホルスターから見事なクイックドローで男の腹を撃ち抜いた。
「インはソフィアのカバーに行ってくれ……と言ってももう終わってると思うが」
腹に.357マグナム弾を撃ち込まれ、まるで人語じゃない悲鳴を上げている男の頭に銃弾を叩き込みながら彼は指示を出す。その手にはちゃんとナイフが握られていた。分かりましたという言葉と共に彼にHK416を投げ渡すとあちらの方に走っていった。
受け取ったHK416のチャージングハンドルを引き、弾が入っているかを確認するとM19の回転弾倉を開き空薬莢を捨て新たな弾丸を装填する。
腰にぶら下げていたケミカルライトを2,3本曲げ馬車の後部の方に放り投げる。そしたらケミカルライトが光を帯び丁度車輪の後ろに足が見えるではないか、彼はHK416を構え足に撃ち込む。放たれた弾丸は見事に車輪の隙間を抜け左足首に当たった。
そこのにいた男はまるで糸を切られた人形のように崩れ落ちた。そこに更に弾丸を加え息の根を止める。
「マスターこちらも終わりましたよ。まぁ私が来る前に終わってましたが」
それは結構だと次に馬車の中を三人で調べ始める。幌が被せてあって見にくい為一人が幌を開けもう一人が調べ最後の一人が二人をカバーする。勿論中に入って調べるのはレイヴンだ。
「3カウント……3…2…1…!」
3つの合図と共に幌が開けられた。ハンドライトを点け中を見ると何やら雑多な物が積み込まれていた。貴金属類であったり鎧や剣などの武具、食料品に……血の付いた衣類。
そして一番奥に詰め込まれていたのは……小さな檻だった。
大人が座ったらようやく入れる程度の檻、そこにナニカ居た。
居たのは襤褸を着ている小さな子供だった。小学生ぐらいの身長だろうか檻の中でうずくまり此方を怯えながら見ていた。
「なんだ子供か……なっ!?」
彼は咄嗟に銃を向けた向けてしまった。それに彼女は怯え小さな悲鳴を上げてしまう。本能的に気づいたのだこれは武器だと。己を殺せるモノだと。
「ちょっとマスター何してるんですか!」
いつの間にか後ろに来ていたインが銃を強引に下ろさたところで彼も我に返りM19をホルスターに収めた。
「すまん……だがこの子供……人ではないな」
耳は人より長く目がまるでルビーの様に紅い。そして何よりも背中に小さな蝙蝠の様な羽があった。
「これって噂に聞く魔族のヴァンパイアって奴ですか?」
「分からん…だが怯えているな」
怯えさせた張本人が言うべきではない。だが、出して上げたほうが良いだろう。檻を開ける為には鍵が必要だがソフィアが死体から持ってきてくれた。
ガチャンと小気味よい良い音がなり檻が開かれるしかし彼女は出てこようとしない。かえって檻の隅に行ってしまう。
も〜マスターのせいですよ〜と後ろでガヤガヤと煩いから銃を後ろに投げ渡し彼は屈んだ。後ろでガチャンギャフンとぶつかった音がした様な気がするが気にはしない。
「お嬢ちゃんさっきは悪かったおじさん達は君を助けたいんだ。君を虐めていた悪い人達はおじさんが退治したから安心してほしい」
ゆっくり語りかける相手を刺激してはいけない。
「お腹減ったろう?おじさん達が何か食べさせてあげるよ」
改めて見ると頬が少し痩けている食べ物をそんなに与えられてなかったのだろう……言葉だけで見ると怪しいおじさんだな。
だがそんな言葉でも彼女の警戒心を緩めるには良かったようでソロソロと此方にまるで猫の様に近付いてきた。
「そうだな誓うよお嬢さんには危害は加えない。だか、安心してほしい」
手を差し出すと彼女は恐る恐る手を置いた。彼はそのまま手を握りその勢いで抱き上げた。
「おっとそうえば名前を言ってなかったな俺は守孝 烏羽。モリタカでもレイヴンでもなんとでも呼んでくれ。君は?」
抱き上げられて目をパチクリとしていた少女だったが少し躊躇いながら答えた。
「……ス…スラウ」
「スラウ良い名前だな」
そういう訳で一人の少女を保護したのだった。
「外の死体どうしましょうか?」
「墓なんて要らん森にでも捨てておけ」
どうでしたか?面白かったなら幸いです




