十話
俺はインを連れて、またもやパックルの街郊外の草原に立っていた。依頼内容は前回と同じモンスターの討伐である。
今回の装備はグロックとカラテルは変わらないが、プレートキャリアからチェストリグに変更。予備マガジンの数をメインアームが六本、サブアームは変わらず三本にする。そしてメインアームであるAKMからHK416に変更した。
HK416とは、世界中で使われ始めてかれこれ半世紀になるM16のカービン銃であるM4をH&K社が独自改修したモデルで、2004年に設計された。特徴としてはそれまでのM16やM4に使われていたリュングマン式からHK416はショートストロークピストン式に変わる等の耐久性が向上している。
HK416にはレールシステムが採用されている。今回も前回使っていたAKMに引き続き3倍の低倍率スコープを、他にはフォアグリップと赤外線レーザーサイトを取り付けた。
今回は昨日の装備に加えて、新たにスタングレネードを用意した。これは別名フラッシュバンとも言われる代物で、細かい説明は省くが生物には耐えられない音と光で敵を行動不能にする手榴弾だ。これはあの狼による襲撃を想定した装備でもあり、念のため二つを身に着けた。
さて俺の準備は完了したので、次はインの番だ。
「イン。お前は何を装備するんだ?そもそも戦闘は可能なのか?」
俺がそう聞くとインは自慢気に答えた。
「ふふん、マスターはご存じないのですか?私は何でもこなせる完璧メイドなのですよ!」
「いや、始めて聞いたわその話。って言うかお前その格好の通りメイドなんだな。何でもこなせるってことは戦闘は可能なんだよな?」
「可能ですよ。ほらこの通り」
インは右手を前に出す。するといつの間にか手には俺と同じグロック19が握られていた。
「私もマスターがお持ちの端末[ピースメイカー]が使えるのです。正確には、私の身体に内蔵されているのですけどね」
俺は武器を取り出すために端末を操作する必要があるのに対して、インの場合は自らが[ピースメイカー]であるためノーアクションで武器を取り出して戦うことができるようだ。僅かな差に思えるかもしれないが、それだけの事でも戦術の幅は結構広がるもんだ。
「じゃあインはメインアームに何の銃を使うんだ?」
「はい!マスター!もちろん私はこれを使います!」
インが選んだ武器が現れる。インが手にした瞬間一瞬だが銃身が地面まで下がるが直ぐに体と垂直に戻った。身の丈ほどの長さの武器。黒光りする六銃身。それは人が持つべきものでは無く、本来は車載兵器……。その名はM134、又の名はミニガンであった。
「……それ使えるのか?」
「もちろんです!私には重力制御能力が備わっていますので、それを補助に用いれば拳銃並の扱い易さで操作できます!もちろん重力制御を使わなくても、本来の身体能力だけで撃つことも可能です」
「弾の問題は?」
「ボックスマガジンが備わっていますから大丈夫です!」
「使う理由は?」
「もちろん。ロ マ ン です!本当はM61を使いたいのですが、残念ながらまだ使えないのでミニガンで我慢します」
インは残念そうにミニガンを見る。なおM61とは良く西側諸国の航空機や艦船に載せられている20mmバルカン砲の事である。
「ロマンか」
「はい!ロマンです!」
「ロマンなら仕方ないな」
「ですよね!」
この時のインはまさに周囲に花びらが舞っているかの様な笑顔だった。俺もニコニコ笑いながらインに近付き………本日二度目の拳骨を食らわせた。インは頭を押さえて文句を言う。
「むきゅうっ………な、何て事をするんですか!?二度目ですよマスター!私の大切な頭がー!」
「お前馬鹿か!?そんなものブッ放したらどんな風になるかは分かるだろ!?」
俺の言葉に流石のインも気付いたようだが、尚も食い下がる。
「や、やってみないと分からないじゃないですか!?」
「はぁ、じゃあ一匹それでウサギを狩ってみろ」
「わ、分かりました!完璧な仕事をしてみせますわ!」
さて、ミニガンことM134は本来、ヘリや車輌に搭載して使用する兵器である。対象はソフトスキンからハードスキンまで多岐にわたる。M134の発射速度は毎分2000~4000発と凄まじく、そんなものを柔らかな肉を持つモンスターに撃てば……
「……やっぱり、こうなるよなぁ……」
大音量で響き渡る獣の唸り声の様な音。毎分2000発を超える、頭がおかしいんじゃないのかと言う発射速度で撃ち出される無数の7.62×51mm弾。たった数秒でウサギは、お茶の間には流せない有り様に変わり果てた。
そのウサギだったモノを拾い上げようとすると、個体だったとは思えない粘着質な音がする。
「うえ、ミンチよりひどい有り様だぞ、これ」
そのウサギだったモノを見せると、インは悲しそうに呟いた。
「ううっ……何故こんな事に」
「お前がやったんだろ!当分ミニガンは禁止だ!ほらさっさとしまえ!」
「えぇっ!そんなぁ!」
インの文句と共にミニガンが消える。普段から俺の言うことを聞くのなら、挨拶の時も同じ様に俺の言うことを聞いてほしい。
「我儘なマスターですね……この銃で良いでしょうか?」
我儘なのはお前だ!と言いたいが、俺はこれ以上話をややこしくするつもりはなかったので、グッと我慢する。
インが次に取り出したのはHK417だった。
HK417はHK416が使用する5.56×45mm弾から7.62×51mm弾にスケールアップしたモデルだ。世界中の国々で自動小銃もしくはマークスマンライフルとして使われている。
HK417にもレールシステムが採用されている。インは俺と同じ三倍率の低倍率スコープ、フォアグリップ、赤外線レーザーサイトを取り付けていた。
「ふふん、マスターこれなら文句は無いでしょう?」
「正直、次もふざけるんじゃないかと思ってた」
「マスターの命が関わることで、何回もふざけるなんてことはあり得ません!」
インは少し拗ねた様に言う。いや……命が関わる状況なら、たった一度であってもふざける様な真似は止めて欲しいのだが……。
「……まあいい、じゃあ本格的にモンスターを猟り始めるぞ。金の蓄えは数日分は有るが、多いという訳でもないんだからな」
「任せて下さい!次は失敗はしませんよ!」
こうして本格的に本日の狩りが始まるのであった。




