2回目 現状とこれからの使命
お待たせしました!
案内されたのは応接室の様な一室だった。先ほどの豪華絢爛な装飾が施された聖堂と違いなんともこじんまりとした部屋だった。
「勇者様、まずは突然の非礼失礼いたしました。色々とご説明しますのでどうぞお座りください」
俺は言われるがままに席に座る。今ごろ騒いでも何も変わらない。ならばここはズッシリと構えた方が良い。
俺が席に座ると彼女はお茶をカップに注ぎ此方に渡した。ありがたくそれを頂くととてもクセが強い香りだったが美味しかった。
「最初にこの国、教皇国についてご説明しますね」
彼女はそう言うと机に一枚の紙を広げる。
それは地図だった。異世界モノの小説でよく出てくる様な縮尺も地形もバラバラな代物だ。これでは使い物にならない。
「……それ地図見ても意味ないよね?」
つい声に出してしまった。
「申し訳ありません。現段階ですとこのレベルしか此処にはないのです……なにぶん、国外はとくに情報がないのです」
地図と言うのは高度な測量技術が必要になると前に歴史の授業で言っていたのを思い出した。だから子供が書いた様な地図でさえ軍事機密や国外への持ち出しなんて重罪にあたると。
そんな測量技術をまだ持ってないかもしれないののに文句を言うのはすごく失礼だ。
逆に機密である地図を見せてもらっているのだ彼女は、いやこの国は俺に多くの期待を寄せているのに違いない。
「すいません余計な事を言ってしまった。どうぞ話を続けて下さい」
俺がそう言うと彼女は微笑んで頷き、地図の一点を指し示す。
「ここが我が国、教皇国です。我が国はこの世界の至上の教えである十字教の総本山でございます」
「つまりは世界的に信仰されている宗教って事ですか?」
俺がそう尋ねると彼女は微笑んだ。成る程、元いた世界の世界宗教であった唯一神を崇める某宗教と同じ立ち位置なのだろう。
「我々は日々安寧を求めて行動しております。しかし……世は大いに乱れ主の威光が各地に届いているとは到底言えない状況……」
「……俺はそう言うのには協力しませんよ」
宗教と言うのに拒否反応が出てしまう。例えば怪しげな壺を売り付けたりたり、休日にいきなりチャイムを鳴ったと思ったら『あなたは神を信じますか?』なんて言われるのだ。常識的な感性を持っていたら嫌悪感を持つものだ。それがごく一般的な日本人的な感性というものだろう。
だから何やら宗教勧誘を受けてるみたいなのでとりあえず拒否をした。しかし彼女は微笑んだままだ。
「勿論です勇者様。貴方に主の代弁者になって頂く必要はありません。ただ世界を安寧へ導くためのご協力をお願いしたいのです」
成る程俺の力だけが必要と言うことだろうか。鉄砲玉とはある意味勇者らしいと言えば勇者らしい。宗教と関わらず世界を救えるならそれも良いだろう。
そうは言っても何をしたら良いのか分からない。そんな顔をしていると彼女は地図に、どこからともなく取り出した駒を幾つか並べた。
「勇者様にして頂きたい事は大きく分けて二つ」
駒はそれぞれ地図上の組み分けられている箇所、即ち国々に置かれている。駒は城の様な形をしていた。
「諸国を巡り悪逆に満ちた惨状から民草を救って頂きます」
そして広大な真っ黒に塗りつぶされている箇所にまた駒を置く。それは禍々しく玉座に座る異形の者。
「そして異形が跳梁跋扈する魔族領に赴き、この世界の悪である魔王を討ち取って頂きたい」
世界の安定とその諸悪の根源である魔王の討伐。なんとも勇者らしい目的。いざ聞かされるとテンプレすぎて笑いが出そうになった。
「成る程分かりました。ですがまさか、ヒノキの棒と五十ゴールドで世界を救ってこいなんて言いませんよね?」
流石に物語に出てくる様な勇者と違って愛と勇気だけでは生きていけない。貰えるものはとことん貰う。それぐらいの権利はある筈だ。
「勿論、勇者様には我が教皇国が出来うる限りの支援をさせて頂きます」
彼女はそう言うと机に置かれていた小さなベルを鳴らす。綺麗な音が数回響きドアが開かれた。
「はぁいジブ連れてきたわよ」
扉から現れたのは迷彩服を身に纏った金髪の女性だった。その後から目の前の女性と同じ修道服を身に纏った女の子が部屋へと入る。
異世界に迷彩服というチグハグな組み合わせ。しかもその迷彩服は彼が母国のテレビでよく見る自国の兵士が身につけているものとは違った。
「……貴女もこの世界に来た人ですか?」
「ええそうディアーチルと呼んで……あぁ私は君の様な選ばれた者じゃなくてただの漂流者、ここで手伝いをしてるだけよ」
異世界転生……いやこの場合は転移か?をしたのが俺だけではないと言うのには驚きを隠せない。だがしかし俺一人だけが異世界に来るというのもおかしな話だ。
俺が来たのであれば他に来ていてもおかしくない。いや当然の話だ。もしかしたら行方不明の人達の中にも、俺と同様にも異世界に来ている人たちがいるかもしれないな。
「勇者様、魔王討伐の旅を補佐する者です。さぁご挨拶なさい」
どうやら本命は後から入ってきた女の子の方である。年齢は15、16ぐらいだろうか恐らく俺よりも少し年下だ。
そして今まで会ったどの同年代の女性よりも綺麗だった。クラスの女子となんて比べるのも失礼なレベル。
「私は勇者様へ仕える事になりました。メリスと申します。何なりとお申し付けください」
そう言うと彼女はにこやかに笑った。その笑顔に俺は思わず赤面してしまう。まるで花が咲いているかの様だったからだ。
「……よ、よろしくお願いします」
それがなんとか口にできた言葉だった。
「勇者様、いきなり色々とありお疲れでしょう、今日はここまでとしときましょう。明日またお話ししますね」
そうえばなんだかすごい眠気が襲ってきた。瞼を開けるのも億劫になるぐらいだ。このまま倒れてしまいたいそれほどの眠気。
「すいません。お言葉に甘えますね……」
もしかしたら異世界に来た反動なのかもしれない。時差とか磁場とか電磁波とか若しくは魔力とかなんかそんな感じで眠気が襲ってきてるのかも。
「メリス、勇者様をお部屋に案内なさい」
そう言うわけでおれはメリスに肩を貸してもらい寝室へと案内された。眠たいながらもその柔らかい体は肉体を刺激し、豊潤な香りはしっかりと鼻腔を突く。
しかし眠気は強く寝室に入りベットに崩れる様に眠りについた。
「で、ジブリールどんな感じ?」
勇者が居なくなった部屋に美女が二人。
「そうね従順な犬にはなると思うわ。なにせ此方の言い分を全て信じているもの」
チラリと空のカップを見る。
「じゃあすぐに外に放り出す?」
ディアーチルは足を組みスキットルに口をつける。
「いいえ、もう少し様子と彼を手懐けましょう。あと少しで始まる複数の国家、地域で行われる宗教革命の結果を待って次を決めます」
フムと彼女は腰に吊る小刀を見やる。
「確かにそれでも遅くはないか……貴女は半世紀待った。たった数ヶ月なんて誤差よね」
修道服の女、ジブリールは微笑んだまま。地図を見やる。その地図を一つにそめあげたい。それをしなければならない。
それが彼女に定めされた最後の最上級命令なのだ。彼女は手を合わせ目を閉じる。祈りだ。
「世に平穏があらんことを」
それが誰の世なのかは誰も知らない。
どうでしたか?
面白かったなら幸いです!




