閑話 ウッドペッパーは諦めない
お待たせしました!
王都ではない何処か、具体的に言うと教皇国のある一室。
そこは神に主に祈りを捧げる祭壇が据え付けられ、椅子がズラッと列をなしている。欧米では安息日ならばここでミサでも行うのだろう。
しかしこの場には一人の人間しか居なかった。長椅子に無礼にも寝転がりチャリチャリと十字架のネックレスをもて遊んでいる。
美しい女性だった。絹の様に透き通り白磁の様にシミ一つない肌。まるで金糸を束ねたかの様な長い髪。宝玉の様な蒼き瞳。
均整のとれた体付き、出るところは出し、絞る所は絞る。その姿なりはまるでどこぞの女神像が生を帯びたかの様に整っている。
そんな彼女が纏う服は……深い緑色の軍服だった。見れば班に色が違う。
美の象徴とも言える身体に暴力の権化とも言える軍服。あべこべな姿だが、かえってそれが彼女の美を際立たせていた。
『……お逃げ下さいシスター!』
そんな彼女が持つ十字架から様々な音が流れている。どうやら中心に埋め込まれている赤色の珠が音声通信用の魔具のようだ。
聞こえてくるのは悲鳴、怒号と人が死ぬときの叫び声。そして久方ぶりに聞いたあの銃声。
通信者のあの幼い頃に連れてこられ、名前すら与えられなかった幼いシスターの息遣いに苦悶の声。
ゴツゴツと乱雑な足音。
そして
『……祈れそれだけは赦してやる』
忘れもしないあの声。
一発の銃声が響き、魔具からの通信は途切れる。
「ふふふっ……あははははっ!」
ベルのような笑い声が教会内に木霊する。
「そうか。貴方も来ていたのねレイヴン!嬉しいわ……嬉しい」
すくっと長椅子から立ち上がると祭壇の前まで歩く。腰には短刀が下げられている。
「おや嬉しそうですねディアーチル」
扉が開かれ黒い修道服を着た女性が入ってくる。
「……あら、ジブリールじゃない。懐かしい声を聞いてね」
ジブリールと呼ばれた修道服の女は扉を閉めると頭の頭巾を脱いだ。すると美しい銀髪が重力と共に落ちる。
「……サンマリア王国は失敗しましたか」
「ええ失敗よ。まぁあの人がいるならしょうがないわ。なんせ……」
クスクス笑いながら彼女告げる。
「私を殺して世界を一度は救った男よ」
スッと襟のボタンを外し喉元を見せる。美しい肌に1点の弾跡が残っていた。
「まぁ良いじゃない。のんびりやっていきましょ。一番大きな所は失敗だったけど他では成功している所もあるしね」
襟を戻し最前列の長椅子に腰掛け、修道服の女は祭壇に立つ。
「あの勇者はどうする?確かに強い力を持ってるけど所詮は子供。力に振り回されるのが落ちよ」
「外に出すのはもう少し後にすることにしましょう。我々の事が正しいと理解させます」
洗脳の間違いじゃない?と言おうと思ったが彼女は止めた。所詮彼女達は同じ穴の狢。目的の為には何でもする。
「……まぁ良いわ。お互いの目的の為に頑張りましょう」
手に持つネックレスを投げ渡す。
「おや……何か、目的でもみつけましたか?」
空中でネックレスを優しくキャッチする。
「ええ、とびっきりの目的がね」
彼女は愛おしそうに柄を撫でる。その柄には啄木鳥が彫られている。彼女の軍服の肩には世界地図に舞い降りる鴉のワッペンが縫い付けられていた。
どうでしたか?面白かったなら幸いです




