不良刑事
エミルとアデルはグレッグを伴い、クレイトンフォードのポートマン邸を訪れた。
「ふーん……。いかにもって感じ」
「だな」
目の前にそびえる建物は欧州風の、西部にはむしろ不釣り合いな洋館だった。
「『ヨーロッパに憧れた成金の田舎紳士、祖先に思いを馳せつつおっ建てました』。……って感じだな」
「あんまり親父の悪口言わないでくださいよ……」
「悪口に聞こえたかしら?」
「そりゃまあ」
渋い顔をするグレッグに構わず、エミルたちは屋敷内に入る。
「鍵は……、かかってないの?」
「ええ。中には何にも無いですから、もう」
そのまま中に進み、エントランスに入ったところで、色あせたコートを着た、やはり西部者には見えない男に出くわす。
「何だ、あんたら?」
「あんたこそ誰よ?」
尋ね返したエミルに、男は面倒臭そうに名乗った。
「ジェンソン・マドック。連邦特務捜査局……、ああ、いや、まあ、刑事みたいなもんだ」
「刑事さんですって?」
男の役職を聞き、グレッグはきょとんとする。
「ここはもう、警察が捜査して引き上げた後のはずですけど」
「そう聞いてるよ。俺は別管轄でな、再調査に来たんだ。で、あんた方は誰だ?」
「申し遅れました。僕は……」
名乗りかけたグレッグを制し、アデルが答える。
「俺とそっちのお嬢さんは、パディントン探偵局の者だ。彼は依頼人で、ここの持ち主の息子さんだ」
「と言うことは、グレッグ・ポートマンJrだな。彼については分かった。なるほど、ここにいる権利があるな」
そう前置きし、ジェンソン刑事はアデルたちをにらみつけた。
「だがお前らにそんな権利は無い。とっとと失せな」
「何よ、それ」
エミルは口を挟もうとしたが、アデルは「まあまあ」と彼女を制し、ジェンソン刑事に応じる。
「そう邪険にしなさんな。あんたもどうせ、黄金銃事件で来たんだろ?」
「あ?」
「ここの家主が持ってた黄金銃を盗んだ奴。そいつを追ってる。そうだろ?」
「だとしたら何だ?」
ジェンソン刑事は煙草を口にくわえ、斜に構えてアデルをにらむ。
「あんたらとベタベタ馴れ合いしながら、仲良くみんなで事件解決に向かいましょ、てか?
ヘッ、寝言は寝てから言ってくれんかねぇ?」
「……まあ、なんだ」
アデルも多少、頬をひくつかせてはいたが、それでも穏便に済ませようと言い繕う。
「悪い話じゃ無いはずだろ? 双方情報を出し合えば、事件の早期解決に……」
アデルの言葉を遮るように、エントランスにパン、と音が鳴り響く。
ジェンソン刑事は絶句したアデルの鼻先に、硝煙をくゆらせるリボルバーを向けていた。
「今のは空砲だ。まあ、そうそうポコポコと、人死になんぞ出したかないからな。これでビビって降参する奴も多いから、一発目はカラ撃ちで勘弁してやってる。
だがこれじゃ言うこと聞かないって奴には……」
ジェンソン刑事はリボルバーに実包を込め、撃鉄を起こした。
「仕方なく、本物をブチ込んでやることにしてるんだ。
分かったらさっさと出てけ。挨拶だろうと言い訳だろうと、これ以上ゴチャゴチャ言いやがったらブッ放すぞ、ボケ」
「……」
エミルたち3人は無言で、屋敷を後にした。
「なんだありゃ……。ヤバすぎだろ」
「取り付く島もない、ってどころか、取り付かせる船も出させないって感じね」
「あの……」
と、二人の後ろで縮こまっていたグレッグが、恐る恐る声をかけてくる。
「なんで僕まで追い出されちゃったんでしょう?」
「追い出されたって言うか……」
「あんたが一緒に来たんでしょ?」
「……でしたっけ?」
きょとんとした顔でそう返したグレッグに、エミルたちは呆れ返っていた。