岩の中の宝物庫
イクトミが忠告していた通り、レッドロック砦跡に到着する頃には既に、夕日が地平線の向こうに沈もうとしていた。
「こちらが我が宝物庫です。どうぞ、お入り下さい」
依然、ジェンソン刑事に背中をつつかれながらも、イクトミは恭しい態度で一行を招き入れた。
「外から見た分には、赤茶けた岩が積んであるようにしか見えなかったが……」
「確かにこれは、立派な砦ね」
巧妙に積まれた岩の隙間をぬうようにして入ると、そこには大きめのリビング程度の空間が広がっていた。
そしてそのあちこちに、一見ガラクタとしか思えないようなものが、無造作に置かれている。
「なんだこりゃ? 『ピアノ協奏曲ロ短調 F・F・チョピン』……、変な名前だな」
「ショパンも知らないのですか!? 何という無学な方だ! それはフランスから移民してきた音楽家を先祖に持つ実業家から……」「いい、いい。うんちくなんか聞きたくない」
「こっちの裸婦画もフランス関係? いい趣味してるわね」
「おお、お目が高い! マネの作品です。さすがマドモアゼル・ミヌー」
「そう言う意味で言ったんじゃないけどね」
「おい、この設計図ってまさか……?」
「そう、お察しの通り、ベドロー島に建立されている『自由の女神』像の設計図原案です。ただ、実際に建てられたものと違って、そちらは旗を持っていますがね」
物品を指す度、イクトミが嬉々として説明するが、エミルたちの目にはただただ、胡散臭いものが並んでいるようにしか映らなかった。
「……で、肝心の黄金銃はどこだ?」
「ああ、そうでした。ええ、あちらに飾ってあります」
イクトミは壁を指差す。
そこには確かに、ギラギラと光る黄金製のSAAが飾られていた。
「確かにそれらしいな。
探偵、約束の品だ。持って帰れ」
「ああ」
アデルはうなずき、壁へと近付く。
と、途中で立ち止まり、振り返ろうとした。
「おい、椅子かなんか……」
が――アデルが振り返りかけたその瞬間、室内にパン、パンと音が響いた。
「うぐっ……」「……っ」
アデルが胸を押さえて倒れ、エミルもどさりと倒れこむ。
「……」
硝煙のたなびく室内に立つのは、イクトミとジェンソン刑事だけになった。
「……へっ」
と、ジェンソン刑事が短く笑い、イクトミの手錠を外す。
「お前も下手打ったな、え?」
「ええ、確かに」
ジェンソン刑事の問いに、イクトミが肩をすくめて答える。
「まったく、この二人がクレイトンフォードに現れた時は、どうしようかと思いましたよ」
「追い返したつもりだったがな、あの時は。ま、こうやってノコノコ付いてくることも考えてはいたからな。
まったくアホな奴らだよ。こっちがちょっと下手に出りゃ、簡単に信用しやがって。俺とお前がグルになってるって可能性を考えてなかったらしいな」
「わたくしとしては、お二人がそうであって助かりましたがね。これで妙な追っ手は消え、これまで通りあなただけが、わたくしを追う『振り』をしてくれるわけなのですから」
「そう言うことだ。……さてと、それじゃさっさと始末しちまうか、こいつら」
「外に出しておけば十分でしょう。あなたの『お仲間』が綺麗さっぱり片付けてくれますよ」
「はっ、『お仲間』か。違いねえや、ひひひ……」
ジェンソン刑事が下卑た笑いを漏らしたところで――ぼそ……、と声が聞こえてきた。
「なるほどな。あんたが『コヨーテ』ってわけか」




