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大富豪、ワットウッド翁

 グレッグの紹介により、エミルたちはワットウッド翁にすんなりと面会することができた。

「ふむ、ふむ。なるほど、お話はよく分かりました。お伝えいただき、ありがとうございます」

 エミルたちから事情を聞いたワットウッド翁はうんうんとうなずき、にっこりと笑みを浮かべた。

「確かに皆様の仰る通り、わたしには多少ながらコレクションと呼べるものがございます。

 特に最近拵えたものは、そのイクトミなる怪盗が狙って然るべき逸品でしょうな」

 そう言って、ワットウッド翁は杖を手に立ち上がる。

「こちらへどうぞ。お見せいたしましょう」

「あ、はい」

 立場上、グレッグを先頭にし、エミルたちは翁の後に続く。

「実を言いますとその逸品、ポートマンSrと共に発注したものでしてな」

「と言うと……、D・アルジャンに?」

「さよう。モデルにしようとしたものがイギリス拳銃だったので、彼も最初は渋っておりましたが、一年以上も頼みに頼み込んで、ようやく拵えてもらった次第です。

 それだけに、下手な白金よりもずっと希少価値は高い。祖国の紳士たちもその点を認めてくれたようで、保険金もなんと、7万8千ドルもの値が付いております」

「7万8千……!?」

 額を聞いて、アデルが素頓狂な声を出す。それを受けて、ワットウッド翁はコホン、と咳払いをし、こう返す。

「無論お分かりでしょうが、金は問題ではありません。

 フランス人の血を引く稀代のガンスミス、ディミトリ・アルジャンが、イギリス製の拳銃を拵えてくれた。ここに並々ならぬ意義があるのです。

 もしサザビーズやクリスティーズ(どちらも競売の大手)でこれが出品されるとなれば、わたしは10万や20万出したとしても、まったく惜しくはありませんな」

「え、ええ、そうですか、はあ」

 あまりに己の実生活とスケールがかけ離れた話に、流石のアデルもぼんやりとした返事を返すしか無かった。


 成金のポートマンSrと違い、ワットウッド翁は確かに、本物の資産家らしかった。

「まさかこりゃ……、オーチスか?」

 屋敷の中央に設置された網目状の扉と中の小部屋――エレベータを見て、アデルが唖然とする。

「さよう。マンハッタンのホフウォートビルにあるものと同じものを取り付けております。最近はめっきり足腰が弱くなったせいで、すっかりこれに頼りっぱなしですよ」

 エミルたちはエレベータに乗り、地下へと降りる。

(分からん)

 ぼそ、とアデルがささやく。

(何が?)

(なんだってこのじいさん、西部に住んでんだ? ここまで家に金かけられるってんなら、それこそマンハッタンでもブルックリンでも住めるはずだろ)

(ワットウッドさんの勝手でしょ?)

「色々あるのですよ」

 二人の会話を聞いていたらしく、ワットウッド翁はエミルたちに背を向けたまま答える。

「す、すみません」

「一つ言うとすれば、東部での人間関係に嫌気が差した、と言ったところでしょうか。会社での私は『人』ではなく、『金庫』扱いですからな」

「はあ……」

「さ、着きました。どうぞ、こちらへ」

 ワットウッド翁を先頭に、一行は廊下を進む。

 その突き当りに、銀行の金庫室を思わせる、まるで鉄塊のような扉が現れた。

「ここが先程お話した黄金銃をはじめ、私の宝が飾られている部屋です。

 ですので、少々お待ちください。この扉には鍵が5つも付いているものですから」

 翁は懐から鍵束を取り出し、扉の鍵を開け始めた。


 と――その間に、エミルは一言も発さず、アデルに目配せする。

 アデルも無言でウインクし、それに応じた。

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