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4.唯一の他人

あべこべ要素があると言ったな?あれは嘘ですまだあべこべ要素は刺身のつま程度も出てきません許してください。

中盤は説明ゾーンなので流し読みしてもらっても大丈夫です。

 

 正午過ぎ、エリスとは違う使用人が運んできた豪華な昼食を自室で食べたベンは屋敷にある書庫に向かった。


 無駄に広い廊下を歩いている時、ベンは多くの使用人と出くわしたが皆一様に頭を深く下げるだけで話しかけようとはしてこない。当のベンも自分が口を開けば悪態しかつかないことを知っているし、自分が会釈でもしてしまえば不信感を与えかねないので無視して歩き続けた。


 なんとも静かな移動を終え書庫に着いたベンは古めかしい木の扉を開けた。


 書庫の中に入った瞬間、木の壁に隙間なく並べられた本の数々と独特な紙の匂いに若干気圧されそうになったベンだったが、奥に用があるので気怠げに歩を進めた。


 綺麗に整頓された本棚の間をすり抜けて進むと開けた場所に出た。そこには白いローブのフードを目深く被った女がいた。その女はベンに気付いていないのか椅子に座って黙々と分厚い古めかしい本を読んでいる。


「随分暇なんだな」

(来るの早いですね)


 ベンが呼びかけると女は驚いたのか一瞬肩を震わせ、顔を上げた。


「お、驚かせないで下さいベン様!」


 女は本を閉じ椅子から立ち上がると、ベンに詰め寄った。ベンの目の前まで来ると、女はフード越しにベンの顔を心配そうに見つめた。そして何かに安心したのかホッと息を吐きだし、


「今朝ベン様が倒れたと聞きましたけど大丈夫そうで安心しました」


 と言って微笑んだ。


「ふん、誰も心配しろなんて言ってないだろ」

(心配掛けてすいませんミーシャさん)


「もう!私はベン様の先生なんですから心配しますよ!」


 相変わらず他人からの好意にも憎まれ口しか叩かない口だが、心配されたことが嬉しいのか少し声色が優しくなっている。改善の可能性を感じたベンは内心で喜びながら口を尖らせるミーシャに目をやった。


「じゃあ授業を始めましょうか!」


 気を取り直したミーシャはそう言うと、ベンが座れるように隣にある椅子を引いた。


 ミーシャの弧を描く口元を見ながらベンは思考に更ける。





 彼女との思い出は“ベン”の記憶の中にしっかり刻まれている。


 初めて“ベン”とミーシャが出会ったのは二年前、“ベン”が悪魔の子と呼ばれるようになった事件の半年後だった。


 事件後“ベン”はドイルの命によって週に2日ヒルウェスト家に雇われた家庭教師の授業を受けていた。理由は将来ヒルウェスト家の当主となるのだから見識も広めるべきだ、というものだった。しかしそれは表向きの理由で、本当は色々なことを学ばせることによって少しでも“ベン”の性格を矯正したい、というドイルの思惑があった。


 しかし自分よりも低い身分の者から物事を学ぶ、ということが気に入らなかった“ベン”は何かにつけて家庭教師に難癖をつけて辞めさせ続ける。


 “ベン”によって辞めさせられた家庭教師の数が10を超えた時、ついに外部から家庭教師を雇うことができなくなった。“ベン”の悪行が国中で広まり始めたからだ。“ベン”の行いが国中で広まっていることと“ベン”の家庭教師を雇うことが絶望的になったことにドイルは頭を抱えた。


 そんな時に“ベン”の家庭教師を立候補した者がいた。それが当時ヒルウェスト家の司書だったミーシャである。


 ドイルは渡りに船とその申し出を快諾した。ただミーシャには1つ問題があった。容姿が酷く醜かったのだ。


 そこでドイルはミーシャに白いローブを渡し、“ベン”の前では常にフードを被っていること、決して顔を見せないことを約束させた。


 そのあんまりな条件にもミーシャは「ベン様の家庭教師になるためなら」と言い笑った。


 その後晴れて家庭教師となったミーシャは、どれだけ“ベン”に侮辱されても、どれだけ暴力を振るわれても常に笑顔で接し、決して“ベン”の家庭教師を辞めようとしなかった。


 そんなミーシャに“ベン”は次第に心を開き始めた。意地でも態度には出さなかったが。


 ベンも記憶の中にあるミーシャの姿に恋ではない、純粋な好意を抱いた。だから今日、考えなければいけない事、解決しなければいけない事を捨て置いてミーシャの授業を受けに来たのだ。





「では復習から始めましょうか」


 ミーシャはそう言うと机の上に準備していた本を開いた。ベンはミーシャの隣に座ると自然な態度で頬杖をつき視線を本に向ける。


(態度まで悪くなるのか・・・)


 新しい発見に愕然となるベンだったが、ミーシャに気にした様子はない。


 確かに“ベン”として生きることを決意し、不満はあるが話す言葉が勝手に変わってしまうことも受け入れたベンだが、態度まで“ベン”のようになってしまうのは流石に堪える。


 内心で頭を抱えるベンを尻目にミーシャは授業を進めていく。




「ベン様!ちゃんと聞いていましたか?」


 復習が終わりかけた時、ベンの意識が勉強から遠ざかっていることを察したミーシャはベンに問いかけた。


 今後どう生きようか考えていたベンは突然来た質問に頭が真っ白になる。


「お前は俺を馬鹿にしているのか?」

(聞いてませんでした)


「いえ!そういう訳じゃないんですけど・・・。コホン!では地理について大まかにでいいので言ってみて下さい」


 ミーシャはにっこりと笑いながら本を閉じ、ベンに体を向けた。ベンは、“ベン”の記憶からこの世界の情報を引っ張り出す。


「ふん。この世界には俺達のいるモンドール王国と宗教狂いのギルシャ教国、戦争馬鹿のレイド帝国、亜人どもが群れるアリアド連合国、そして薄汚い魔族の暮らすネザーの5つの国がある」


「そうですね。では次は種族についてお願いします」


「・・・人間、亜人、魔族」


「も、もう少し各々の特徴を詳しく言ってもらえませんか?」


 ミーシャは困ったように頬を掻いた。


「チッ・・・魔力を持つのが人間と魔族。持たないのが亜人。純粋な力が強いのが亜人、次に魔族、最後に人間。これで満足か?」


「うーん、まぁ良いでしょう。外見の特徴なども交えるとなお良かったんですけど。ありがとうございます!」


 不機嫌そうにだが、一応答えてくれたことが嬉しいのかミーシャは次々に問題を投げかけてくる。


「魔法の属性の種類はわかりますか?」


「大まかに分けると2つ。無属性の魔法と変換魔法だ」


「では変換魔法の種類と2つの特徴は?」


「属性は火、水、風、土、光、闇の6つがある。・・・無属性の魔法は人間なら誰でも使える魔法で他の属性と相性の善し悪しは無い。使い道は肉体強化くらいしかないゴミ。逆に変換魔法は生まれ持った才能が必要で1つの属性しか使えない。この国では無属性は平民に多く、変換資質持ちは貴族に多い。他の国は知らん」


「ふむ。ではなぜ変換資質持ちが貴族ばかりで平民は少ないのか、理由はなんだと思いますか?」


「知るか」


「ハハハ・・・。まぁまだ理由は詳しくわかってないのでなんとも言えないんですが・・・。ただ遺伝しやすい、ということだけはわかっています!」


 そう言うとミーシャは指を2本立て、ベンに突き出した。


「火や水などの説明は長くなるので省きましょう!光と闇だけお願いします!」


「光は治癒の効果があり素質持ちは少ない。闇は対象に毒や麻痺とかの効果を与える陰気な属性。これも素質持ちは少ない」


 ぶっきらぼうなベンの答えを聞いたミーシャは頷くと「最後に」と言った。


「魔法における男女の違いを言えますか?」


「男は魔力が少なく女は多い。一般的にその差は倍以上ある。・・・これで満足か?」


 満足そうに何度も首を縦に振っていたミーシャは「でも!」と突然大声を出した。


「ベン様は別ですよ!女の人にも劣らない、いやそれ以上の魔力を持っています!」


 なぜか誇らしげに胸を張るミーシャを見てベンは可愛いやつだな、と微笑ましい気持ちになる。


「ふん、当然だ」

(ありがとうございます)


 ベンはそう言うと自分の手に目を向ける。思い出したのは2年前、“ベン”がメイドに火の魔法を放とうとしている姿だ。その時の青い火球は如実にベンの魔力の高さを物語っている。


(あの時のメイドは今何をしてるんだろうな・・・)


 殺されかけたメイドのことを哀れんだベンは、窓の外に目をやった。すでに日は傾き始めている。ベンの視線を辿って同じように窓の外を見たミーシャは予想以上に時間が経っていたことに気付いた。


 ミーシャは座っている椅子から飛び上がるようにして立ち上がり、ベンに頭を下げた。


「すいません!ベン様が答えてくれるのが嬉しくて復習だけで終わってしまいました・・・」


「次からは足りない頭を使って時間配分でも考えておくんだな」

(大丈夫ですよ。)


 そう言うとベンは立ち上がり、書庫から出ていこうと歩き始める。その時、ミーシャの「あ」という蚊の鳴くような声が聞こえた。


 何事かと思い振り返ったベンの目に映ったのはローブの袖から白い綺麗な手をベンに向かって伸ばすミーシャの姿だった。


 無意識の行動だったのか、ミーシャはすぐに手を引っ込め「何でもありません」と言って俯いた。


 今までのミーシャからは考えられない姿にベンの眉間に皺が寄る。


「何でもないだと?お前は俺に嘘をつくのか?」

(どうしたんですか?言ってくれませんか?)


 ミーシャは顔を上げ、キュッと手を握ると「あ、あの!勘違いかもしれないんですけど・・・。ベン様が何か変わったような気が・・・。」と言った。


「どうして、そう思う」

(俺が“ベン”じゃないことに感づいてる・・・?)


「や、やっぱり勘違いです!」


 ベンの眉間の皺が更に濃くなるのを見たミーシャは慌てて取り繕う。しかしベンは意に介さずミーシャを凝視し続ける。


「えっと・・・。何だか雰囲気が優しい、と言うか柔らかくなったような気がしたんです。失礼かもしれないですけど・・・」


 突き刺さる視線に耐え切れなくなったミーシャは観念したのか正直に話した。そしてそう言ったきりまたミーシャは俯いてしまった。


「くだらんな」

(なんだそう言うことか)


「くだらない、ですよね・・・。でも嬉しかったんです!いつもなら私が問題を出してもちゃんと答えてくれないのに今日はちゃんと答えてくれました!それに復習だけで終わってしまってもベン様は私を怒りませんでした!だから!本当に、本当に嬉しかったんです・・・」


(嬉しい、ね)


 興奮して涙声でそう言ったミーシャを見ているベンの顔には戸惑いの色が浮かんでいる。ベンにはミーシャが泣く理由がわからなかった。


(俺がしたのは問題に答えて、怒らなかっただけだ。この程度のことで・・・)





 数分後、未だに書庫にはミーシャの鼻をすする音だけが流れている。フードで見えないがおそらくミーシャは泣いているのだろう。そんな姿を流石に見かねたベンは俯くミーシャの後頭部に手を伸ばし、


「泣きやめ、見苦しい」

(あの、泣かないでください。)


 叩いた。


(撫でるつもりだったんだけど・・・)


 しかしミーシャは顔を上げることも無く、本格的に泣き始めた。


「みっともないですよね、嫌いですよね・・・。ちょっと優しくされたくらいで泣くような女なんて。でも泣くつもりなんて無かったんです!今日もいつもみたいに笑って終わるつもりだったんです・・・」


(うーん・・・。めんどくさいな)


 泣きやむ所か更に酷くなるミーシャにベンは哀れみを通り越して呆れる。しかし同時にベンはミーシャに対して庇護欲のような感情を抱く。自分の態度で一喜一憂するミーシャを守ってやりたくなったのだ。


「あぁ、みっともないな。だが・・・」

(確かにみっともないですね。でも・・・)


 ベンはミーシャのフードの中に手を入れ涙を拭った。


「嫌いではない」

(嫌いじゃないです)


 この時初めてベンは自分の意思をまともに伝えることができた。ただ最後にベンの口はミーシャに聞こえないくらいの小声で「面倒だが」と付け足した。しかしそれはベンも不本意ではないので気にしない。


 ミーシャのフードから手を出したベンはもう1度ミーシャの頭を軽く叩き、書庫の出口に向かって歩き出す。ミーシャは初めて向けられたベンからの純粋な優しさに目を白黒とさせていた。


「次に会うときまでに泣き止んでおけよ小娘」

(次に会うときまでには泣き止んでおいて下さいね、ミーシャさん)


「なっ!小娘じゃないです!私の方が6歳も年上なんですよ!ちょっと!ベン様ー!?」


 書庫を出てからも背後からはすっかり元気になったミーシャの叫ぶ声が聞こえる。それを聞いたベンは薄らと笑っていた。



あべこべ要素も勘違いもまだまともに出せてない許してください。

あとベン君が学校行くのはまだ先です許して(ry

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