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リペアドリームス-REPAIR DREAMS作家になりたい青年-(一筆書き小説)

作者: ESYU

この小説は、一筆書き小説(構成や推敲などなくその場限りで即席に書かれた小説)です。推敲もなしに書かれたものであり、そのため、文脈や文章におかしな部分があるかもしれませんが、ご了承ください。

 最近、近くに不思議なお店ができたという噂を聞いた。

 なんでも、そこは壊れた夢を修復してくれる店だという。

「そこに行けば、僕の夢も直してくれるだろうか……」

 僕には昔から夢があった。作家になるという夢だ。中学生ぐらいの時から物語を書いては人に見せていた。当時はただの趣味で、それで飯を食っていくなんて考えたことはなかった。

 ものを作るのが趣味だったから、それが転じて作家になろう、なんて考えたんだと思う。

 高校時代もいろいろな小説を書いた。一度だけどこかの賞に応募したことがあったけど、特に受賞をしたとかそんなことはなかった。

 大学時代も小説を書いていたけど、当時は大学の講義やサークル活動に時間を費やしていて、小説を書く時間が少しずつ少なくなっていった。大人になって、世間のあらゆるものがわかってきたこともあって、だんだんと、自分は作家になれるのかなどと、漠然と不安になったりもしていた。

 就活するときも、残業の少ない企業を選考した。自由な時間を少しでも作って、それを執筆活動に充てたいと思っていたからだ。もうこの時は就職活動に専念していて、朝から晩までセミナーや説明会に顔を出すためあちこち走り回っていたから、小説を書く気力なんてなかった。

 そして、今の会社に就職したわけだけど、残念ながら、あれから5年経った今も、僕は作家にはなれていない。それどころか、小説すらろくすっぽ書いていない。

 作家になることを諦めたわけではない。今でも物書きにはなりたいとは思っている。でも、日々のストレスや、本業の仕事はなかなかに大変で、朝早くに出かけて、夜遅くに帰る。家に戻れば風呂に入り、晩御飯を食べ、歯を磨き、それらが終わった頃にはもう寝ないといけない時間になっている。

 そんな日々の繰り返しで、いつの間にか小説を書く余裕すらなく、作家になりたいという意志さえまるで霧がかかったように霞んでしまっていた。気が付いたら何もやれていないままここまで来てしまった。

 作家にはなりたい、でも、そもそも作家になんてなれるのか。今の仕事だって、別にやりたくて入ったわけじゃない。全てが中途半端なきがする。僕はどうすればいいのだろう。

 僕の、いつの間にか原型をとどめなくなってしまった夢を、修復してくれるというのなら喜んで金を払おう。その噂を聞いた時、僕はそう思った。

 インターネットで調べてもそのお店のことは検索に引っかからず、僕は人づてに聞いて回り、ようやくその店を見つけることができた。

 そのお店は街の喧騒から少し離れた、林の中にひっそりと建っていた。欧風を感じさせるお洒落でモダンな店構えは、修理工場にも工房にも、心療内科にも見えなかった。

 店の看板にはリペアドリームスと描かれている。確かにそれだけ見れば、夢を直してくれる場所に思えるが、店構えはなんというか、どう見てもただの喫茶店だ。もしかして、お店の名前がそういう意味に取れるだけであって、中身はただの喫茶じゃないのか、そんな不安がよぎったものの、ここまで来たのだから今更考えても仕方がない。最悪コーヒーでも飲んで帰ればいいじゃないか。そう決心し、店に入ることにした。

「こんにちはー」

 カランカランと鈴の音がなり、僕は恐る恐る中に入る。

 不安は的中した。中の様子は、やはり喫茶店にしか見えなかった。

「いらっしゃい、どうぞこっちへ」

 中には三十代後半から四十代前半と思わしき男性がカウンターに立っていた。

 僕は内心諦観しながら、促された席に座る。

「あの、一応お聞きするんですけど、ここって喫茶店ですか?」

「喫茶店でなかったら何に見えるのかな? DVDのレンタルとかはしてないねえ」

 おじさん? お兄さん? 童顔のせいか若く見える男性は笑顔で答えた。

「そう、ですよね。なんかお店の名前から夢を修復してくれるところなのかなって思いまして」

 そう言うと、男性、ここはマスターと呼んでおこう。マスターはカラカラ笑いながら言った。

「お悩み相談もバッチリだぞ。俺はメンタルヘルスマネジメント検定受けたからね。悩める相談に乗るのもお仕事さ」

 ハハハ、と笑うその笑顔を見ていると、なんだかこの人に相談してみるのも良いかと思えた。どうせ精神科か心療内科みたいなところを想像していたのだ。人に悩みを聞いてもらうという意味では同じなんだし、それで良いさ。

「じゃあ、いきなりですけど、僕の悩みを聞いてください」

 言うと、マスターは冊子を僕に手渡して微笑む。

「まずは注文してね」

 

 程なくして、コーヒーが運ばれてきた。僕は甘党なので、砂糖とミルクは二つずつ入れる。ブラックで飲むと気持ち悪くなるんだよな。うん、喫茶店とか向いてないね。

 僕は今までの人生で、作家になりたいという夢を抱いていたけど、なんだかんだで今日まで対して夢を追うこともせずここまで来てしまったことを語った。恥ずかしかったけど、今日会ったばかりの他人だったということもあって、割とすんなり話すことができた。マスターは。僕が話している間、ずっと黙って聞いていた。

「とまあ、こんな感じなんです」

 マスターは、ふむ、と思案した様子で物思いにふけっていたが、やがて僕に訊いてきた。

「君は結局、どうしたいんだい?」

「僕は、やっぱり作家になりたいです。それが昔からの夢でしたし」

「だったら、夢を追え、以外にやりようはないだろう。それ以外の回答はないよ」

「それは、わかっていますけど……」

 そんなことはわかっている。夢があるなら、その夢の叶えるために努力するしかない。それ以外にやることなんてないのは、そりゃあわかっているんだ。でも、だけど。

「答えはわかっているけど、体がついてこないかい?」

「それもあります。仕事で忙しいというのもあります。でもそれだけじゃないくて、なんていうか、本当になれるのかっていう不安があって、それが僕に小説を書くことを邪魔するっていうか……」

「なれるかどうかわからない。努力しても結局なれないのなら、その時間は無駄になってしまう。それなら、少しでも時間を自由に使いたい、とかかな。でもそれはさ、その心配こそ無意味だよね」

「心配が無意味、ですか?」

「ああ、だってそれは、例えれば本屋に行っても欲しい本がないかもしれないとか、旅行の予定を入れても雨が降るかもしれないとか、くじが当たらないかもしれないとか、そういうものと同じ類じゃないか?」

「そう、ですかね」

 マスターは僕の横の席に腰を下ろした。他にお客さんはいないらしく、マスターの声は響いて聞こえてくる。

「先が見えないからできない、やらないというのなら、この世のあらゆるものは出来なくなるぞ。夢に限らずな。事故に遭うかもしれないから家から出ないとかになったら、もう生きることさえどうするんだって話だしな。それに仕事で忙しいなんてのも、言い訳だよな」

 それは、自分でもなんとなくわかっていることだ。なれるかどうかわからないからやらないのか。受からないから勉強しないのか。できないからやらないのか。今まで何ども人に言われてきた言葉たちだ。仕事が忙しいというのは、事実だけど、それで小説が書けなくなるわけじゃない。言い訳だと言われれば、言い返す言葉がない。

「そりゃあ、仕事していれば疲れるさ。へとへとになって帰ってきたのに、また作業をするなんて余計に疲れる。だからやりたくない。小説書く時間があるならもっと楽なことに使いたい。楽な方楽な方へってな。会社のこともある。作家になれたとしても収入はわからない。世間体はどうか。そもそもなれるのか。現状を天秤にかけて、どちらが合理的かを考える。答えは明白だろうなあ。でも、不思議だなあ、合理的な選択をしているはずなのに、心が悩んでいる」

 僕は黙って聞いていた。マスターの言っていることは、真実だからだ。どうしても楽な方へ行きたくなる。だって、それでも最悪お給料はもらえている。生きていくことはとりあえず出来るんだ。あえてきつい道を選ばなくても、満足に生活することはできるのに、あえて辛い道を選ぶ必要はない。

 でも、それならなぜ悩んでいるのか。

「君の心が、嫌がっているからだろう。進みたいと思っている道と、実際に進んでいる道が違っていることを自覚しているから、君は悩んでいるんだ。拒んでいるんだ。理想と現実のギャップにさ。人間は心で生きる動物だからね、結局は、心が満足しなければ、幸せにはなれないさ」

「その通りです。この歳まで何もしてこなかった自分が情けないです」

 マスターはかぶりを振ってまた笑う。

「なぜ責めるんだい、自分を。そんなの当たり前なんだよ。人間はどうしても生きやすい方へ流されるもんだ。苦労して叶うかどうか分からないものより、面倒でも安定している道を生きたくなるもんだ。そして、それが間違いだとも思わない。そういう人生だってあるんだ。否定することはない。こう生きなければならないなんてことはないからな。でも君の心はそれを嫌がっている。だったら、進むべき道は決まっているだろう。だから僕は夢を追え以外に答えはないと言ったんだよ」

 そうか。夢を追ってこなかったこれまでの日々を、否定することはないのだ。それはそれで、仕方がなかったことなのだ。これもまた言い訳のようだけど、今までの僕は、自分の弱さに付け込んでいたのだ。楽な方へ行こうとする自分を肯定しながらも、夢を追わないことに自責の念を抱き、自身を痛めつけていた。だから悩んでいたのだ。

「収入や世間体なんてものを気にして行動してこなかったというのなら、きっと今後も行動しないだろうね。別にそれでも誰かに責められるわけじゃない。間違ってない。でも、君の心が納得しないなら、その生き方は君にとって違っていたということさ。だから、君が作家になりたいというのなら、僕にできるアドバイスは一つ、今日から小説を書き始めなさい、だね」

 言うだけ言って、マスターはカウンターの奥に戻って行ってしまった。はたから見れば、年長者の説教のようにも聞こえるかもしれなかったけど、彼の言葉は、間違いなく僕の心に届いていた。

 なぜならば、僕の壊れかけていた夢が、昔の姿を取り戻しているのを、修復されているのを感じたからだ。

小説をお読みいただき、ありがとうございます。ESYUと言います。今後ともよろしくお願い致しますね。この小説の登場人物と同じ、作家志望の社会人です。

私の小説はヒューマンドラマが主です。SF要素とかを絡ませたりして書いています。

今回のは初投稿ということで短編小説を書きましたが、普段書いているのは長編がメインです。今後機会があれば、いろいろな小説を掲載できればと思います。

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