キラリラステラ
雨だ。窓に叩きつける水音が好きだ。ユカの住処は雨に濡れないけれど、外のケヤキや石畳のおもしろさはない。唯一の楽しいことは、ユカがその手で遊んでくれることだけど、ユカの気持ちはすっかり私を忘れている。ヒトが持つケータイという機械は、やたらにやかましく騒ぎ立てるから、雨の声より耳障りだ。私はヒトより耳が良いし、ユカの住処だって狭いのだから、喋る内容は聞き取れている。でも複雑な言葉はわからないし、何よりも私には関係の無いお話だ。
私はユカに遊んで欲しいだけだから、垂れ下がっているユカの手に触れた。その途端にユカは「だから、そういうんじゃないんだってば」と鳴いた。私に言ったのかと思ったけれど違うみたいだ。続けざまに「なんか、こんな時期に、ていうか、時期が悪いわけじゃないけど。でもなんで今更そんなことするの」とケータイに怒っている。「違うって、違わないでしょ。そういうのをハブるって言うんじゃないの。そう言われるのが嫌なだけで、やることは何も違わないでしょ」まるで意味不明だけど、強く怒っていることはわかった。
いつもの優しいユカに戻ってほしい。ユカの足を登って、膝に着いた。ケータイを片方の耳に押し当てているせいで、私の声は半分しか聞いていないようだ。ユカの胸やひじ、お腹に意思表示をするけれど、全然構ってくれない。
「別に、好きではないけど」
スキと言った。スキはわかる。私がわかるものはユカ、ユカのママ、キレイ、スキ、キライ、ご飯、カワイイ、その他は簡単な意味のものだけだ。ヒトの言葉は複雑すぎるけれど、生きていく上で必要な言葉は意外と少ない。ユカのスキは私のことで、私以外にスキは無い。ざわざわうるさくて、真っ黒、平べったい、ケータイなんかをスキなわけがない。私の毛並みはフワフワだし、みどり色の目がキレイって、ユカもユカのママも言ってくれる。
「分かった」
ひときわ騒いだケータイの音へ返事をした。ユカはそのまま寝床にケータイを放り投げる。私には鳥か蝶が横切ったように見えたけれど、ケータイはとても堅いので食べられないし、噛み切れもしない。やっとケータイなんかじゃなく私の相手をしてくれる。机の上に登ってユカの顔を眺めてユカを呼んだ。ユカの手が返事をして、私の耳を優しく撫でた。
「悩み、無さそう。いいなあ」
私の目を見て言ったのがわかったけど、ナヤミとは知らない言葉だ。ナヤミが無いのが良いのなら、ユカのそんなもの、渡してくれれば食べてあげる。指先を噛んでそれを伝えた。ユカはヒトにしては、私たちの言葉をよく知っているほうだ。ご飯が欲しいとか、遊んで欲しいとか、私の言うことは大抵わかってくれる。今この言葉も、わかってくれるに決まっている。
「好きじゃないとか、何で言っちゃった・・・」
ユカは私の目をずっと見ているけれど、さっきのケータイのお話をしているみたいだ。私の言うことは聞いてくれていない。ユカの目は私たちの目と違う。まん丸で真っ黒のお月さまが浮かんでいる目だ。私のみどり色も自慢だけれど、ユカの目は光の星が浮かぶと、どんな夜よりもキレイに見える。
「何で・・・」
私はユカの目の奥を覗いてみた。すると、ユカの目の中の星がどんどん増えて、溢れかえって、ユカの星が落ちてきた。仲間と一緒に見た、夜空の流れ星とは違うものだ。ユカは目を見開いたまま少し鳴きもした。ユカが何をしているのかわからない。
これは何?これは何?これは何?
私の目の奥から出るものは、この考えしかない。ユカを見ることをやめたいのに、やめることができない。けれど、前足と後ろ足が下がって、私はユカから逃げようとしている。ユカがキライで逃げたいわけじゃないのに、ユカの目の水が止まらない。私は後ずさりをしてユカから離れた。ユカの住処からも出た。ユカの下に、星がとけて集まっているのが見えた。
木の地面を走り抜けて、ユカから逃げ出した。何で、と鳴いた後、ユカが何を出していたのかわからない。今まで会ったヒトの中でも、あんなものは無かった。出て来たのは水のようだった。あの水は何だろう。あの顔は何だろう。あの鳴き声は何だろう。
怖い。
ユカからあれを無くしたい。そうじゃなくて、ユカの気持ちでやっているなら、やめさせたい。どうしたらいいのかはわからない。誰かに聞いてみればわかるかもしれない。今の時間なら、まだお昼ご飯から少ししか経っていない。庭のモクレンの下に居れば、いつもの友達が来てくれる。私より年上だから知っているかもしれない。
木の地面の道を抜けて、ユカもユカのママも知らない穴から外へ出る。お昼でも真っ暗で、水の匂いがする隙間の先に、光の出口が待っている。そこまでたどり着くと、土の地面は終わって、柔らかな芝が広がる。雨は止まっていた。いつもならケヤキに登って遊んでいる間に、友達のクラはやって来る。
今日はここに来る時間が遅かった。もうクラは、モクレンの木の下で昼寝をしている。クラは昼寝を邪魔しても、いつも私を無視して眠ってしまう。初めのうちはたくさん騒いで起こそうとしたけれど、どんなに言っても私を放って眠ってしまうから、もうやめてしまった。だけど、今日は特別だ。クラのことは好きだけれど、ユカと比べることはできない。クラはユカと違って、堅い毛しか持っていないし、クラの言うことも優しくない。クラが昼寝していたって、ユカのことのほうが早く知りたい。起こすために背の上に乗って、頭を舐めてさすった。これで起きるけれど、クラはこの後を無視してしまう。
「ねえ、起きてよ。起きて」
やっぱり無視している。目を閉じたままだ。けれど耳がこちらを向いているので大丈夫、起きている。あのことを聞かなくてはいけない。
「ねえ、ヒトが目から水を出すのってなに?」
間髪入れず、クラは「はあ?」と答えた。やっぱり起きていたけれど、それは私が欲しい答えと違っている。
「それをおれに聞くの。飼われが野良に」
「だって私、初めて見たの。クラのほうが私より、ヒトをたくさん見てると思って」
「知らんよ、そんなこと。おれだって見たことないよ」
クラも見たことがない。そういえば、そこらじゅうを歩いているヒトの中に、道端であんなことをするヒトはいない。やっぱり珍しいことか、ユカしかしない、特別なことかもしれない。クラはこのお話に興味がないみたいで、喋り終える度に眠ろうとする。
「もっと年寄りに聞いたらどう」
「としよりって」
「ここらの一番なら、トジ」
トジ。
トジという名前を知らない奴はいない。トジのケンカを買うオスはいない。トジの誘いを断るメスはいない。賢く強い理想のオスだから、当然だ。
昔、こんな風にクラが話していたここ一帯のボス、それがトジだ。私はまだ集会に出たことがないから知らない。ボスなら、他の奴が知っていることもすべて知っているかもしれない。
「トジの昼寝場所なら知ってる。シミズの家の軒下。あそこはこの町で一番のフジが見れるからな。行けば会えるだろうよ」
「わかったわ、ありがとう」
シミズの家ならここからすぐだ。たった三軒隣りで、お寺の向かいにある家だ。
「カシャ」
行こうとして呼び止められた。あとは寝ててもいいのに、何を聞きたいのだろう。
「なんでそんなこと知りたいんだよ」
そう聞かれても、私が考えていることはたった一つだ。わからないからよ。私はそう言って、もうクラのほうは向かなかった。クラはそのまま眠ったみたいだった。
クラは野良だから、ヒトを見ることはしても、撫でてもらうために近づいたり、ヒトが何をしているのか、観察したりしないのかもしれない。ヒトはヤサシイとヒドイに分かれている。飼われはヤサシイヒトのところで暮らす。野良はヒドイヒトに遭わないように、ヤサシイヒトも一緒に、ヒトを全部避けている。ヒトの中で誰がヤサシイのかヒドイのかなんて、見分けることができないからだ。
外で遊んでいるとき、私に優しくしてくれるヒトはいっぱいいる。けれど、ユカはそのヒトたちよりも、もっと、ずっと、ヤサシイヒトだ。ユカにはずっとヤサシイヒトでいて欲しい。トジが星の水について知っていて、止める方法も知っていたら、ユカはヤサシイヒトに戻ってくれるはずだ。
歩いていくと、石の塀のもっと上に、フジの花が見えてきた。今は全部が咲いている、一番キレイな季節だ。雨の水と花びらが、一緒にキラキラ落ちてくる。家と塀の隙間が通れる。シミズの家はここだ。見上げるとフジ、横の窓ガラスに太陽が当たって光った。
大きなフジの木の下、石畳の上に大きな体を横たえて眠っている奴がいる。黒のつやつやの毛と白の光る毛に、太い腕と足はすごく強そうで、尾はとてもキレイなしま模様だ。こんなにキレイなオスがいるなんて、初めて見たけれど、これがきっと、トジだとわかった。トジ、と呼んでみると、瞼を上げて私を見た。トジの目も光でキラキラした。
「トジ、聞きたいことがある」
トジはクラと違って、目と耳を私に向けてくれた。しっかりと返事もしてくれる。
「何だ」
「ヒトが目から水を出すのって知ってる?」
「知ってる」
トジはそれだけ言って眠ろうとした。まだ聞きたいことは終わっていない。私は急いでもう一度聞いた。
「起きて!どうして?知ってるなら教えて」
「何で知りたい。ヒトが泣こうとおれらには関係ない」
「なこう、って?」
「その水が出て来ることさ」
「どうして水を出すの」
「さあな。本人に聞いてみなけりゃな」
聞くって、今、私がトジにしていることだ。それをユカにしなければいけない、トジはそう言っているみたいだ。
「そんなのムリ」
「もちろん、ヒトと話せないとムリだ」
「トジは話せるの」
「ムリさ」
ユカが自分から教えてくれることに、水の理由がない。それ以外は、今私がトジにしているように、自分から聞いてみればいい。そのために、ヒトの言葉が話せないといけない。トジの言っていることはわかるけれど、質問が最初のところに戻ってきた気分だ。
「お前、ヒトの言葉が一つもわからんわけじゃないだろう」
「少し。ご飯とか、私を呼ぶときとか」
「その程度じゃあ、もしヒトに聞けたってわかるわけもないな」
「だって、わかんないことばっかり言ってた」
「・・・まあ、歳長く生きてる奴ならわかるかもしれんが」
「だからトジに聞きにきたのよ。このへんの一番の年寄りはトジだって」
「おれよりわかる奴がいる。おれの生きた分を三十回は多くやってる奴さ。そいつがわかんなけりゃ、この町で答えられる奴はいないだろうよ」
「ボスはトジなのに、トジよりすごいの」
「ギンシはおれよりすごいが、ボスはやらんし、子も育て終えた。そこの寺でメシをもらってる」
「ありがとう、聞いてみるわ」
ギンシ、初めて聞いた名前だ。ボスのトジが「おれよりすごい」とはっきり言う。トジの生きた時間を三十回も多くやっている奴ならば、きっとたくさんのことを知っている。私の知りたいことも絶対に知っているだろう。早く聞いてユカのところに戻らないと、お日さまの落ちてくる時間が迫る。
「お前、カシャだろう。ケヤキの家の」
トジに背中を向けたけれど、トジがまた話しかけてきた。私の家には、この町で一番大きなケヤキの木がある。仲間の内では「ケヤキの家」と呼ばれている。毎日来るクラの他にも、ケヤキで遊ぶために来る奴はたくさんいる。
「おれがギンシに聞いてやる」
「別にいらないわよ、どうして」
「メスには優しくしといて損がないからだ」
ギンシにはじめから説明するのは時間がかかる。どうしてメスだからって優しくするのかよくわからないけれど、トジが話してくれれば早く終わるかもしれない。早く、ユカのところに帰りたい。
お寺はこの家のまん前だ。堅い道を一つ通り越すだけで着く。トジが私の前に素早く出て、ゆっくりと歩いていった。トジの目はよく見ると、とても濃いそら色だ。お寺の周りはたくさんのイチョウがあるけれど、これがキレイになる時はまだ来ない。イチョウの木をするすると通り越していくトジについていくと、広い庭に、大きなカシの木が立っていた。
お寺の中にヒトがいた。大きな窓が開いていて、どこへ行くのかわかった。ヒトのオスだ。お寺の地面に寝ているヒトのところへ、歩いて行った。トジもそれを見て、お寺と庭の境目近く、キレイな岩の上に登り、私もその後に登った。寝ているヒトは、フトンを乗せて寝転がっている。フトンはユカの寝床にもある。フワフワしたフトンは私もスキだ。きっとユカ以外の、どんなヒトもスキだろう。ヒトのオスが言っていることが聞こえてくる。
「彼女はよくやってくれているから心配ないよ。だからさ、父さん。まだ間に合う、遅くないんだ。今なら病院に」
「ベッドが空いてる、たまたま今空いてるから、今すぐ行って欲しいんか」
「そういうわけじゃないけど」
「そういうわけでも別に怒らんて。ほやけど、飯が食えんようになったら死ぬんは普通やぞ」
「・・・母さんのときは確かにかわいそうだったけど、でも、父さんはまだ」
「俺はお前の嫁さんも、医者も嫌いなわけでない、死ぬもんは死ぬんや」
全然聞いたことのない言葉ばかり話している。ヒトのオスはそれ以上は何も言わなくて、来た道を戻っていった。来たときよりも足の動きが遅かった。フトンの中で寝ているヒトは、普通のヒトより白い色をしている気がする。フトンの中のヒトが、こっちを見た。
「たまに、お前らのように連れ立ってやって来るな」
ヒトに話しかけられることは少なくないけれど、意味はわからないことが多い。このヒトの言っていることも、さっきからあまり知らない。トジはわかっているのか、私にはわからないけれど、トジも騒がずに聞いている。
「嫁さんが見つけてくれればエサを貰えるやろう、待ってりゃいい」
エサはわかる、私たちのご飯のことだ。
「お前らは銀糸に会えるのかねえ、同族やし。おれも死ぬ前に、一回は会いたいわ」
ヒトはそのまま、静かに目を閉じた。
「トジ、ギンシって」
「百年生きるごとに、尻尾が裂けた奴さ」
「会えないの、このヒト会ってないみたい」
「いるさ、そこに」
登った石の上にトジ、その上の上の上、カシの木の葉っぱが雨で濡れてキラキラして、吹く風にもヒラヒラして、その中に銀色の毛と四本の尾が、ゆらゆら揺れている。
ギンシ、
私の声の方向に、葉っぱのみどりと同じ目を向けた。深い林の奥の色だ。銀の光る毛の中に、みどりの光る石がある。
「こいつがお前に聞きたいことがあるってよ」
トジの声がした。
「おれに、嘘だな。お前がわからんから連れてきた」
「ヒトの言ってることが知りたいってんだから、仕方ないだろう」
「もの好きだね。何の用だか、早く言え」
トジが呆れた顔をしている。ギンシは私を見た。さっさと私の聞きたいことを聞かなければ、早く聞いて帰らなければいけない。聞くことは決まっている。
「あのヒトはどうしてあなたに会いたいの」
私は一番気になっていることを聞いてしまった。
「会えないからだ」
「ギンシは、どうしても会わないの」
「何度かあいつの腹の上に乗って呼んでやったが、もう気付かん。 あいつの力は嫁に移ったからな」
「わかった・・・ありがとう」
私の言葉を聞いて、トジはすぐに口を出した。
「おれに聞いたのと違うじゃねえかよ」
「もうわかったもの」
トジは見ていなかった。寝ていたヒトが泣いていたこと。ギンシに会いたいと言って泣いていたこと。ユカと同じ仕草で、会いたくて、光る星をこぼすこと。
ギンシにもう一回お礼を言って走った。ユカが泣いたわけは、ユカが会いたいヒトは誰なんだろう。真っ暗の帰り道は、電灯が目印だ。トジが私の後ろからついてきている。トジは私が二匹いるくらいの大きさだから、私を追い越して走れるはずなのに、ずっと後ろにいる。野良の行きたいところに、飼われは文句をつけられない。でも、トジに何かを言っている時間はもったいない。今度こそ早く、ユカに会いたい。
いつもの窓からユカを見つけた。トジは一緒にそれを見た。
ユカが泣いている。その水を拭いたのは知らないヒトのメスだ。ユカと同じくらいの手でユカに触った。ユカが私にカワイイって、スキって、ダイスキって言う口を、同じ形の口でふさいで、ユカの私の全部を抱きしめるカラダ、それをユカと同じやり方で抱きしめて、ユカが私に伝えるみたいに、ヒトのメスはユカに、「スキだ」と伝えていた。
「なに・・・」
「キス」
トジは落ち着いて言っているけど、私は私が何を言いたいのかわからないままだ。トジの言っている言葉も知らない。ユカの気持ちもわからない。
「だから、なに・・・」
「求愛」
「どうして、ユカは私がスキなはず」
トジはわかっていないんだ。ずっと一緒にいた私はわかっている。私がユカをスキなことと、ユカが私をスキなことは、どっちも同じことだって、私はずいぶんかけてわかった。それなのに私とユカとヒトのメスを、今初めて見たトジがわかるわけがない。
そうに決まっているのにトジは、私みたいに疑問を持たない、混乱しない。
「おまえはヒトじゃない、その理由で切られるより、よほどいい」
「なによ、それ」
「おまえはギンシみたいに化けるなよ。飼われのメスは子供を育てながら、それなりに長生きすりゃいいのさ」
「化けるって、どうして化けたりするの」
「おまえと同じさ。だけどあの爺は、あんたの好きなあの子と違って、ギンシを諦めさせることもしなかったよ。だからだ」
ギンシは私と同じ、それがわからなくてトジに何も言えない。
「おれは戻るぜ」
トジは静かに、屋根から私たちにしか通れない道を通り、帰る道に乗った。ヒトの作った灯りと、私の目だけがトジを見ている。ユカのほうを見ると、いつの間にか、ユカに触っていたヒトはいなくなっていた。いつもの合図で、ユカに窓を開けてもらおう。叩くとユカは私を見た。すぐに窓を開けて、私を抱き上げてくれた。
「さっき、すごくかっこいい猫と一緒にいたね」
トジといたとき、ユカは私に気付いていたみたいだ。
「カシャちゃん、今年は子供産むのかな。もう何匹か居ても大丈夫よ。さっき来てた友達もね、カシャちゃん可愛いって。カシャちゃんの子供なら欲しいって」
私の頭を柔らかく撫でながら言う。さっき来ていたヒトのメスは、私のお話をしていたみたいだ。なんとなくだけど、あの子はユカに似ていると思う。
「きっと可愛いよ。カシャちゃんの子供」
毎日毎日、私を撫でる手が、今日は水でふやけていた。ユカのキラキラの目を見つめながら、私の子供をお腹に抱いているのを考えてみた。私と同じみどり色の目で、ユカと、ユカがスキなあの子と、私と同じギンシを眺めているのを考えてみた。
次にクラとトジに会ったら、良いよと言ってあげよう。私のお腹の底から、会いたいって聴こえてくる気がした。
創作サークル「Ananas」 年の差アンソロジー参加小説