出会い
「・・・・・。」
背の高く、深い闇色の瞳と、艶のある美しい髪を持つ少年は瓦礫の上に腰掛けた。
辺りには人の代わりに、魔物がうごめいている。
人が居なくなった街の成れの果て。
街には、まだ血の跡が生々しく残っている。
少年はそれを横目で見ながら、瓦礫の山に登り、狩ったばかりの魔鳥の皮を剥ぎ、肉を切り取り、起こした火にかける。
村を出てからもう6年余りが立ち、少年は大きく成長していた。
鞄と一緒に、父親が使っていた一振りの長剣と、母親の護身用の短剣持ってきていた為、魔物を狩って喰らい、生き延びてきたのだ。
焼けた肉に、塩を振り、食らいつく。
筋張っていて、お世辞にも美味しいとは言えないが、この食生活にももう慣れた。
固い肉が歯の間に絡みつく。
無駄に油分が多くて、肉汁がねっとりとした感じた。
黙々と咀嚼し、嚥下する。
骨にこびりついている肉を、なぶり落としてから立ち上がった。
瓦礫の山のすぐ下まで来た魔獣が群れている。
群れに向かって、残りの肉を放り投げた。
こうする事で、暫く注意を引きつけることが出来る。
夢中になって食らいついている様子を確認して、瓦礫の山を崩さないように降りた。
突然、甲高い悲鳴が上がる。
少年は震えた。久々に聞いた、人間の声。
声のした方に走る。躊躇は無かった。
狼のような魔物の中心に、一人の少女が座り込んでいる。
少年は黙って長剣を振った。
急所は把握している。
気配を消して間合いを詰められた魔物達に、反撃の余地など無かった。
血が飛び散り、身体に付く。
濃厚で、生臭い血の香りが拡がった。
「ひいっ!」
叫んだ後、怖ず怖ずと少女は顔を上げる。
歳は自分より少し下ぐらいだろうか。
「あっ、貴方は・・・私の味方ですか?」
人と長い間話して来なかった少年は、どういう風に話しかければいいか分からなかった。
仕方なく、黙って頷く。
「ありがとうございます。」
少年が手を差し出すと、少女はその手を取り、立ち上がった。
慣れない他人の手の温もり。
少年は戸惑う。
「ごめんなさい!」
少女は慌ててパッと手を離した。戸惑いが顔に表れていたのだろう。
少女の腹が鳴る。
「・・・何か食う?」
久々に出した自分の声は、思いの外無愛想で、少し冷たく乾いていた。
「良いんですか?」
少女の顔が綻ぶ。よほど腹が減っていたのだろう。
黙って頷き、経験上一番ましな味のする魔鳥を長剣で殴って気絶させる。
落ちた鳥の脚を掴んで、短剣で皮を剥いだ。
幾度となく繰り返してきた動作。
「火、起こせるか?」
「はい。」
少女が火を起こしている間に、太い骨を削って串を作る。
出来るだけ食べやすい部分を串に刺して、塩を振る。
他人に食料を振る舞う事は初めてで、その分気を使う。
村が焼かれなかったら、きっと当たり前のようにしていた事なんだろうな。
少し自嘲気味に笑う。
「火、付きましたよ!」
少女に細かい肉の刺さった串を渡し、自分の物を火に翳す。
「そういえば、名前言ってませんでしたね。私、フィアノといいます。」
少女は串をくるりと回す。
「・・・・・。」
「貴方は?」
名前--そんな物、忘れてしまっている事に気付く。
「ごめん。名前、無い。」
「じゃあ、私が決めて良いですか?」
少し驚いた後、少女--基、フィアノがそう言った。
少年が頷くと、フィアノは真剣に考え出す。
「キキョウはどうでしょうか。」
「別に構わない。それより、肉、焼けた。」
やっぱり、話すのは苦手だ。
フィアノが美味しそうに肉を頬張る。
その様子を見て、自分も肉を頬張った。
一番マシなだけで、やっぱり美味しいとは言えない魔鳥なのに、不思議と美味いと思える。
訳が分からない。
気付けばフィアノは寝息を立ていた。
今宵も生き抜くために、寝ずの番をする。
炎がぱちんと爆ぜて、立ち上がった少年の影が揺らめた。