第九話 カッチカチ御曹司
次話です。
今俺はかれこれ一時間ほど拘束されている。そろそろ離して。
というのも、ドルーさんの店を後にして学生寮に帰り、自室の部屋を開けた瞬間、ケンタが飛びついて来たのだ。それはもうタックルのような勢いで。
「ただい…おぐふぅ!?」
「一週間もどこ行ってたんだよ!?」
「ああ、いや…」
それから、街に行くと皇族がいたこと、フィオと出会ったこと、特訓したことなど全部説明した。面倒くさそうだったのでフィオの名前だけは伏せておいたが。予想以上の反応でこっちは面白かった。
「…ってことはお前にある程度期待してもいいわけだ?」
「すぐ抜いてやるよ」
そんなことを言いながらニヤリと笑ったケンタはなんだかんだで本当に嬉しそうで、こっちまで少し嬉しくなった。
それはいいんだが。
「てゆうかお前なんなの…俺の保護者かなんかなの…?」
「似たようなもんです!ちなみにこの一週間不安すぎてずっとそわそわしてました!」
「うわあ…きも…あとお前どうやって部屋入ったの…」
「合鍵に決まってんだろ、そろそろ帰るわ」
「待て待て待て待て!お前さらっとおかしいこと言ったぞ!?いつ作った!?」
「てへ」
結局教えてはくれなかったが、数十発殴ったことで俺は満足した。
あと鍵は変えた。
そして二重ロックにした。安心。
この3日後ケンタが部屋にいた。もう諦めた。
翌日。
すぐにでも昇級試験を受けに行きたいところだったが、あいにくといきなり授業があったので断念した。
教室に入ると一瞬俺に視線が集まった。好奇の目、蔑みの目などなど。こういうのにあまり慣れてないので落ち着かない。しかしそれは一瞬のことで、クラスメイトはすぐに興味なさげに視線を戻して談笑や勉強に戻る。…ただ一人を除いて。
「なんだ貴様?まだやめてなかったのかあ?僕は逃げたと思ってたけどな!」
「…はいはい」
こいつはロイ・ベリンジャー。金髪碧眼で、顔はまあまあのイケメンだ。ただし、何かと人に絡む貴族の御曹司だ。態度はまさに貴族といった具合で、人を小馬鹿にした態度をとる。だがこれでもある程度の成績はあり、少なくとも修行前の俺では勝てなかった。
それにある程度人望があるところを見ると、そこそこの性格の良さはあるのだろうか。
「な、なんだ貴様!貴族の僕が話しかけてやっているんだぞ?無礼者が!」
「まあまあすぐ違うクラスになるんだからいいじゃないですか」
あまりにもうざかったので、嫌味を言ってやった。俺にしてはよく我慢したと思う。ところが何を履き違えたのかロイは、
「む…確かにそうだが…」
と、妙な態度で納得してしまった。俺が退学するとでも思っているのだろうか。逆だ。
今日分の授業が終わった時、ふと騒がしい集団ができていたので興味本位で覗いてみた。すると中心にいたのはロイだった。ロイは俺を一瞥してニヤリと笑うと自慢げに一つの宝石を突き出した。俺が対応に困っていると、
「はっ、お前みたいな奴にはこの石が何かもわからないのか。聞いて驚け!これは…召喚石だ!」
その声と共に周りから尊敬の声が上がる。だが、俺はあまり驚かなかった。なにせ一度見ている。それになにより、
「…偽物じゃないですか」
確かに俺がフィオに貰ったものに似てはいるが、輝きが足りない上濁っている。偽物だ。
「なっ!馬鹿なことを言うな!僕がわざわざ商人から取り寄せた物だぞ!」
呆れて物も言えないとはこのことだ。商人に偽物をつかまされたのだろう。面倒だったので、聞き流してその場を去ることにした。…が。
「またその態度か!もう我慢の限界だ!僕と決闘しろ!」
その目は完全に俺を見据えていた。…面倒なことになったもんだ。