第七十二話 実感
随分間が空いてしまいました!汗
待っていてくださった方々、ありがとうございます!そして、申し訳ありません!
リアルの方が立て込んでいて、しばらく執筆出来ませんでした……
徐々に進めていきたいと思いますので、これからもよろしくです!
作戦通り。
もともとフィオの魔術で凍りついていた辺りは俺の魔術によって解氷し、床面を露にしていた。
そして再び俺の魔術によって床は氷でその姿を潜めた。
それだけにとどまらず、濡れていたディゴルの体をも凍りつかせ始めていたのだ。
「ど頭冷やしやがれ」
「ぬ……おぉ……!」
氷は既にやつの胸あたりまで侵食している。
これでやつの動きは止まった。
動きを止めれば次にやることは一つだ。
「『雷槍』ッ!」
これもまた成長の一つ。
得意属性だと認識するまでとは比べ物にならない威力の魔術が生み出される。
足りないものは修練だけではなかった。
ただ、自覚すること。
それだけで魔力が変質し、いや正確には本来の姿をとりその力は確かなものとなった。
右手から生み出されるは蒼き雷。
蒼き雷光は槍の形をとり、ディゴルを目掛けて襲いかかった。
身動きの取れないディゴルはただ黙ってその雷を体へ受け入れるのみ。
閃光と轟音が響き、ディゴルがいたであろう場所から煙が立ち込める。
だがその煙が晴れてゆくに連れて、一つの影が倒れることなく確かに揺らめいていた。
「やるじゃねーか」
「防いだのか……?確かにこれくらいでやられてもらっちゃ拍子抜けだが、一体どうやって……」
ディゴルは大したダメージもなさそうにそこに立っていた。
だが、あちこちが焦げていることを除けば俺の魔術を食らう前と違う点が1つある。
その手に棒状の武器のようなものを持っているという点だ。
それは錫杖のようだがそれほど長くなく、先端に半楕円状の金属の輪が付いている。
そしてその内部に棒が渡してありそれに小型のシンバルのような金属の部品が通してある。
変わった武器だが、どうやらそれを盾にしたらしい。
ダメージをゼロにはできなかっただろうが、かなりのダメージを軽減したようだ。
だが、一体どうやってあの状態から防いだというのか。
やつの体は完全に凍りついていた。
あの氷から脱出する術などどこにもなかったはずだ。
「てめえ、どんなトリックを使いやがった」
「そんなもん……自分で見極めろ!」
そう言ってディゴルは勢い良くその武器を振る。
しかし、俺と奴の間の距離はとてもその棒の届く距離ではなく、その武器から何かを打ち出したわけでもない。
何をしたのか訝しんでいると、次の瞬間俺の体を衝撃が襲った。
「ぐっ……あ」
その勢いで吹き飛んでしまうが、なんとか踏みとどまる。
だが何が起こったか理解できず、俺は自ら距離を縮めることはできなかった。
流石に考えなしで突っ込むほど馬鹿ではない。
「ビビるのは結構だが……今度は食らってばかりいられねえぞ?」
そう言って奴は先ほどとは少し違う動きでその武器を振る。
俺は本能的に危険を察知し咄嗟に元いた位置から飛び退いた。
するとそれとほぼ同時に床面が爆発する。
「は!?何がどうなったら床が爆発するんだ!?」
爆撃ならばわかる。
外部から爆発を当てるという爆撃なら、あの武器は正体は不明だが不可視の爆発物を発している、と考えることもできる。
だがあれは爆撃と言う感じではない。あくまで爆発だ。
まるで床を爆発物で作ったかのように床が爆発したのだ。
そしてそのあとには煙が立ち上っている。
「この床材料に火薬かなんかでも使って──熱っ!」
俺は爆発の理由を知ろうとその床に手を伸ばしかけ、すぐさま引っ込めた。
床がかなりの高温を帯びており、火傷をしそうになったからだ。
その上、爆発の淵の床面は溶けかかっていた。
「なんでこんなに高熱を……?それにこれは煙じゃない、湯気……?」
「戦闘中によそ見しすぎじゃねえのか?」
怒号と共に俺の思考は中断された。
考え事に集中しすぎたせいで、攻撃への反応が少し遅れ、直撃はしないまでも爆発に巻き込まれてしまう。
だが、そのおかげであの武器を理解することができた。
「なるほどな……音か」
「ほう……こんなに早く『音魔杖』の秘密に気づくとは……やるな」
「さっきのもそいつのおかげか」
奴は何も言わずに口元を緩ませる。
その含みを持った笑いは肯定と受け取っていいだろう。
そう、さっきの凍りついていたはずのディゴルが動けたタネもこの武器だ。
この武器が音を攻撃の媒体とするならば、氷から脱出することは容易だ。
何故なら、音とは"振動"だからだ。
内側から振動を与えることによって、氷を粉砕したのだろう。
そして例の爆発。あれは固有振動数の利用、つまり共振だ。
特殊な音波を飛ばすことによって物質の分子を沸騰させ、爆発させていたのだ。
だからこそ床が溶けていたのでありり、あの湯気は氷が溶けて出たものだ。
「分かったはいいが……タイミング悪く食らえば即死だな……」
そう、つまり初めの時のような衝撃波のような音波ではなく、分子を振動させる特殊な音波の方を俺が食らってしまえば俺自身が爆発してしまう。
かする程度なら死にはしないだろうが、直撃すれば即死だろう。
かする程度でも大ダメージは免れないだろうが。
俺はむしろ今までより緊張した面持ちでやつを見据えた。
だがまあ知ることで警戒が増すことになるとは思わなかったが、タネが分かれば手の打ちようはない事もない。
「こっからは俺の番だ」
そう言うが早いか俺は愛杖クリスタルをしっかりと握りなおし、『爆発』でディゴルとの距離を一直線に縮める。
ディゴルは一瞬不意をつかれたような顔をしたがすぐに立ち直り、シストラムを俺に向けて振った。
「真正面から突っ込んでくるとは愚かな……飛び散れ!」
「やだね。『氷盾』」
俺は両手に分厚い氷の塊、もとい盾を装備しそのまま距離を詰める。
音波を受けた氷は表面から蒸発してゆく。
だがそれは思惑通り。
氷が薄くなるとすぐさま俺は溶けていない方から氷を生成してゆく。
これで俺まで音波が届くことはない。
「くっ……だが魔術師が距離を詰めたところで……」
「ただの魔術師ならな」
俺は杖の魔石に触れる。
それと同時に杖は剣へと姿を変えた。
ゼギさんお達しの変形システムだ。
いや、ゼギさんも教わったんだったか?
まあいい。こうやって意表をつくため、そしてあらゆる状況で戦うための機能であることには変わりないのだから。
「なっ……」
ディゴルの顔が驚愕に染まる。
やつの胸には三本の切り傷。
俺がつけた傷だ。
"所持者"相手に俺が刻んだ傷だ。
俺が奴の力を知って、奴が俺の力を知って。
そうした上でお互いの駆け引きがあって、その結果付いた傷だ。
ここで俺は実感する。
「今なら俺は、戦える!」
だが、その時正面から感じる気配が高揚した俺の気分を現実へ引き戻す。
そうだ、まだ戦いは始まったばかり。
そして今の攻防で奴の余裕は万に一つもなくなった。
これからが本番なのだ。
「悪ぃな、なんだかんだでなめてたよ」
「……お互い様だろ」
その言葉を鼻で笑いながらディゴルが戦闘の構えを取り、それに引きずられるように俺も構える。
そしてこの後俺は知ることになる。
ここまでは俺だけでなくディゴルとしても小手調べであり、"保持者"同士の全力の戦いはこんなものでは済まされないのだ、ということに。
文章書けなくなってる……(|| ゜Д゜)




