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imagic  作者: みげるん
第四章 森林王国編
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第五十五話 現れた絶対者

 


 森林王国ボスケスタ。

 その敷地は森をくりぬいたような形となっており、完全に森に囲まれている。

 なので、人の往来はほとんどない秘境であった。

 だが、それは少し前までの話だ。

 ある程度安全な街道が整備され、護衛団が結成されたのだ。

 これにより、孤立化しつつあったボスケスタも参画社会へ関わることが可能になった。


 ちなみに、俺たちが通ったのは安全な街道ではない。

 マギロデリアから通じているわけではないので、遠回りになってしまうからだ。

 無論、それを聞いたのは現地に着いてからであるが。


 閑話休題。


 だが、人の往来が少ない上で人々はどう生きたのか。

 その秘密は、森の中という一見危険そうな条件の有利さにある。

 つまり、資源が豊富なのだ。

 豊潤な土で植物を育てば作物が実り、地下には地下資源があり、周囲には魔獣という食材もある。

 それを考えれば、生きるのに事欠くことはなかった。

 そのせいか、ボスケスタの人々は普遍的な国より戦闘水準が高い。


 だからこその現状なのだろう。

 ある程度の魔獣が現れようと撃退するので問題ない。

 その上、街をほっぽり出すなどこんな資源を無駄にする訳にはいかない。

 そんな考えの人々が大多数なのではないだろうか。



「平和そうな国だな」



 紅は一歩ボスケスタへ踏み入れると同時にそう呟いた。

 無理もない、徹底的な軍国主義の国にいた紅からすれば真新しく映るのだろう。



「もうすぐ平和じゃなくなるかもだけどなあ」


「そういうこと言わないの」



 俺が紅の言葉に付け加えると、フィオに窘められた。

 反省。



「さて、必要物資を手にいれたらさっさと勧告してこの国を離れるぞ」


「…らじゃ」



 もし例の噂が本当なら、少し非情な措置だと思う。

 けれど、同時に仕方が無いとも思うのだ。

 自分の保身に走るのは、人間なら本能的に自然なことなのだから。



「じゃあ一時間後位に集合な」



 アクセルはそう言い残すと必要物資調達のため足早に去って行った。

 それを見送ると俺たちも各々自分たちの買い物へと向かった。



 これといって特に欲しい物も無かったので、その辺をぶらぶらすることにした。

 何といっても珍しいのだ。

 この街ボスケスタは居住スペースや店などが木の上にある。

 というより、建物がイコールとてつもなく幹の太い樹木である。

 それを見て回るだけでもなかなかに楽しいものであったので、しばらくは見て回るだけで楽しむことができた。


 とはいえ、流石に一時間も飽きない訳はなく、まだ時間にたっぷり余裕はあるにも関わらず既に飽きてしまっていた。

 どうしたものか。

 と、そんなことを考えながら歩いていると、間の抜けた腹の音が鳴った。

 今気づいたが、空腹だったようだ。

 夕飯時にはまだはやいが、露店なんかがあれば買い食い位いいだろう。

 そう思って俺は鼻をひくつかせながら色々な木を巡った。

 最終的に購入したのは狩りたての魔獣の串焼きだ。

 魔獣の肉は筋張っていて硬いものが多いのだが、この肉はとろけるような柔らかさだった。

 新鮮だったということもあるだろうが、おそらくこの広大な森林地帯で伸び伸びと過ごした魔獣の肉だからうまいのではないだろうか。

 更に濃い味ながらも後味のあっさりしたソースが抜群に合う。

 これだけで俺は満足したのだった。

 美味かったのであと三本追加で購入し、俺は店を後にする。

 あとはゆっくりしようと思い店を出ると、ふと一人の女の子が目についた。

 兎のぬいぐるみを大事そうに抱えており、辺りをきょろきょろと見回している。

 そして辺りを警戒しながら街の外れまで行き、そのまま森の中、すなわち安全圏である街の外へと姿を消した。


 危なくないだろうか。

 年端もいかぬ少女が街の外へと出ても、問題ないのだろうか。

 確かに、色んな可能性はある。

 この街では日常茶飯事かもしれないし、街の外で護衛の大人が待っているのかもしれない。

 もしくはここの国の人の戦闘水準は高いと聞いたし、もしかするとあの子も高い戦闘力をもっているかもしれない。

 けれど、そんな子がまさに“こっそり”といった様子で出ていくだろうか。

 勿論、見て見ぬ振りをすることもできた。

 俺にはあの子を助ける義理もなければ、俺が魔獣を全て撃退できるとも限らない。

 それに、時間だってあまりないしな。


 それでも、もしかしたら。

 そんな不安が渦巻き、結局俺は少女の後を追って森へと足を踏み入れたのだった。



 例の子はすぐに見つかった。

 と、いうのも数メートル先で既に魔獣に囲まれていたからだ。

 こんなにすぐに襲われているとは思っていなかった。

 さっと目を配ったが近くに護衛らしき人はいない。

 そして地面にへたり込んで震えているところを見ると彼女も戦えるわけではなさそうだ。

 怯えて助けも呼べないでいる状態だ。

 やばい。


 そう判断した俺はできる限りの速度で『氷槍(アイスランス)』を連射した。

 愛杖クリスタルから放たれたその槍は、無慈悲にも一匹以外全ての魔獣を貫き、青かった氷は赤く染まった。

 辛うじてかわした一体が警戒しながら距離をとる。



「大丈夫?」


「は、はい…」



 何とか声を絞り出しているが、完全に声は震えていた。

 俺はとりあえず魔獣の気を逸らすため、持っていた肉を投げる。

 ところが、気を取られかけた魔獣は一瞬で俺に向き直ったのだ。

 否、俺というより少女に。

 仕方なく、俺はタイミングを見計らって魔術を放つ。



「『雷槍(サンダーランス)』」



 魔獣は体を震わせながら息絶えた。

 とりあえず安心し、魔獣の行動を疑問に思いながら残り一つの焼き串を少女に手渡す。



「あり…がとう」



 少女はお礼を口にする。

 それに答えようとした時、腕の召喚石が光る。

 そしてイサナが現れ、焦ったようにまくしたてた。



「ソウ、逃げるのじゃ!」



 その直後後ろで物音が聞こえた。

 俺が振り返ると魔物の群れが一斉に近づいてきていた。

 応戦しようとしたが、間に合わない。



「しまっ…」


「違う、妾が逃げろと言ったのは此奴ら(・・・)からではない!」


「…は?」



 俺がイサナの言葉の意味を図り兼ねているとそいつらは俺たちに飛びかかり、そしてーーー


 ーーー通り過ぎた。



「え?」



 混乱していると、更に後ろから大きな影が現れる。


 そこにいたのは、明らかな強者の気配を漂わせた三〜四メートル程の魔獣だった。

 そして俺は、この魔獣を知っていた。

 昔情報誌か何かで見たことがある。


 猿の顔、狸の胴体、虎の手足に蛇の尾。

 その恐ろしい出で立ちからはこの森の頂点であるという気配が見てとれた。

 身体から稲妻が走っており、黙ってこちらを見つめている。

 何故こうも魔獣がよって来るのかは分からないが、先程の魔獣はこいつから逃げていたようだ。


 危険指定魔獣、“雷獣”ヌエがそこにいたのだった。



ペースが少し落ちてきている…

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