第五十四話 迫る危機
少し遅くなりましたm(_ _)m
俺たちは全力疾走していた。
その小さな集落が見えた瞬間、紅と俺が突然走りはじめたのだ。
「村!!てことは風呂!寝床!」
つまりはそういうことである。
いや、この時は平静を欠いていた。
誠に恥ずかしい。
だが、それほどまでに俺たちは待ち望んでいたのだ。
その位はしゃいだっていいじゃないか。
「あ、おい待てお前ら!」
そんなアクセルの制止も聞かずに走っていたが、ここで予想外の出来事が起こる。
集落を目前にして俺たちの左右から魔獣が飛びかかってきたのだ。
俺たちはやられるかに思われただろう。
普段だったらもしかするとやられていたかもしれない。
だがこの時俺たちは集落につきたい一心で魔獣にも苛立ちを募らせていた。
だからか、俺と紅はしっかりとお互いを支え体を捻り、走りながらに武器を構え、攻撃体制をとった。
「「どけえ!」」
一撃で魔獣を仕留めることに成功したのだ。
一匹は大きな爆発とともに黒焦げになって吹き飛び。
一匹は腹をえぐられ血を吹き出して。
それぞれ一瞬で命を絶った。
「今の…凄かったけど…」
「ああ、馬鹿だな」
それを遠くから見ていたフィオとアクセルがあきれ顔だったのは言うまでもない。
いい動きだったのに褒めるに褒められない微妙な表情になっていたのも師匠という立場を考えれば頷ける。
それほどまでに俺たちは目の前の集落に目がくらんでいた。
仕方のないことだったのだ。
だが温かい風呂とふかふかの寝床にありつけるという俺たちの期待は無惨にも砕かれることとなる。
何故ならその集落は、集落と呼ぶにも似つかわしくない簡素な造りだったのだ。
まず入り口から中へ入った俺たちの目に映ったのは、簡易テントのようなものが幾つも並んでいるという光景だった。
そこで既にふと疑問を覚えていたのだが、更に見てゆくとどう考えてもおかしいと気づく。
規模が小さすぎるし、主要な建物が一つもない。
何もなかった空間に無理矢理入り込んだ感じだ。
俺たちがその不自然さに首を傾げ立ち尽くしていると、ゆっくりと歩いてきたアクセルとフィオが追いついてきた。
「あ?何だここ」
開口一番、アクセルはそう言う。
目的地を定めたのはアクセルではなかったのか。
そのアクセルが分かってないと言うことは、ここは目的地ではないということになる。
「ああ、もう少し先だぞ?だが…こんなところに集落なんざ無かったはずなんだが…」
眉を潜めつつアクセルは続ける。
彼の記憶が正しければここは短期間で新しくできた集落だということだ。
それならばこんな急ごしらえのような設備の少なさにも納得がいく。
だが、なぜ近くに街があるにもかかわらずここに人が住んでいるのだろうか。
そんな風に考えていると、その集落がざわめきだした。
どうやら俺たちの姿に気づいたらしい。
そのまま入るのも躊躇われたので、大人しく許可が下りるのを待つことにした。
しばらくすると、代表らしき人物が顔を出した。
敵意がないことを示すように笑顔で近づいてくる。
どうやら歓迎はしてくれるらしい。
初めに凄い殺気を感じた気がするのは気のせいか。
「ようこそおいでくださいました。旅人の方ですかな?ようこそと言っても見ての通り何分施設がないもので…ご容赦下さい」
「何かあったのか?最近までこんな集落無かったはずだし、すぐそこに森林王国ボスケスタがあるだろう」
すかさずアクセルが指摘し、そのまま追い詰めるように言葉を続ける。
「あそこは資源も豊富だし、環境も悪くないだろう」
「そのことなんですが…少々問題が起こりましてね。我々は避難してきた、という具合なのですよ」
初老の男性は困ったように答える。
問題、何があったのだろうか。
だが、何かがあったにしても避難してきた人数が少なすぎる。
不思議に思い、それについて聞いてみた。
「具体的に話しますが…立ち話もなんですから、まずは家へ上がって座って話しませんか?飲み物位はお出ししますよ」
長旅で疲れていたこともあり、その男性が言うことももっともだったので俺たちは素直にその言葉に甘えることにした。
中へ入ると、そこには人一人が暮らせる程度の空間が広がっていた。
少し大きめのテントのようなものだ。
当然四人も入れば狭く感じるが、それ位は我慢すべきだろう。
俺たち全員が腰をおろし、目の前に飲み物が置かれるとその男性はゆっくりと話し始めた。
「申し遅れましたが、私はウラネスと申します。以後お見知り置きを」
「俺から順に、アクセル、蒼、紅、フィオだ。で、何が起きたんだ?」
「…最初は、森の異変でした」
話によると、事の発端はしばらく前の事らしい。
始まりはある時から少しずつ周りの森の様子がおかしくなっていった事にあるそうだ。
森が緊張しているのが伝わってきて、異変に気づき始めた頃には魔獣の活動が活発になっていたらしい。
滅多に人里におりてこない魔物が頻繁に姿を現すようになり、対処も徐々に大変になってしまった。
それに不安を感じた人々は、数人で少し森の様子を見たりもしたらしいのだが、異変の原因は分からなかった。
その時は大きな問題もなかったので、様子を見ることにした。
だが、しばらくの時がたったある時、どこからともなく一つの噂が流れ始めた。
危険指定魔獣が活動を始めた。
危険指定魔獣は一匹で街一つ破壊しうる力を持つ。
それが近くの森で活動し始めたとなると、大きな問題だ。
その事の重大さに気づいた何人かは、この街から避難して森が収まるのを待つか討伐隊を組んでもらうかしようと提案した。
だがその噂を相手にする人は少なく、不安になった者たちだけがこの集落へと避難してきたとのこと。
以上が現在までの状況らしい。
「あなた方もここまでの道すがら森の様子が変ではありませんでしたか?」
「ああ、確かに魔獣の様子が変だったな」
今までの道中を思い返しながら同意する。
どうやら間違いないっぽい。
でも、俺たちそこに向かうんだよな?
どうしたものか。
「あの、ボスケスタへ向かうなら一つお願いがあるのですが…」
俺たちが悩んでいるとウラネスが申し訳なさそうに声をあげた。
「どうかボスケスタへ行ってあなた方の口から彼らに避難を口添えしていただけないでしょうか」
要するに、居残った人々を逃がして欲しいという。
わざわざ断った奴らまで心配するなんて、余程優しい人のようだ。
アクセルは少し悩む素振りを見せたが、直ぐにウラネスヘ向き直った。
「危ないだろうが、どうせ向かう予定だったしそれ位はいいだろう。ただし俺たちは勧告しても逃げない場合すぐに避難するからな」
「…!ありがとうございます!」
そう釘を刺すと急いだ方がいいとばかりにアクセルは立ち上がる。
もし本当だとしたら一刻を争うからな。
正しい判断だろう。
こうして俺たちは休憩もそこそこに、また歩を進めたのであった。
そして俺たちは急いだ甲斐あってか、その日のうちにボスケスタへ着くことができたのだった。
そういえばイサナの設定画を忘れていました…
いずれ描きます…多分。




