第五話 特殊なケース
次話です。
うん、分かってた。そもそも俺期待なんてしてなかったし?なんかフィオが挑発的な表情で「僕の家に行こっか?」なんて言ったからって別に何も想像してないし?そんな美味しい展開がくるわけないとか全然分かってた。うん。だから別に「どうしたのー?」
別にどうもしてないし、動揺してないし…うん?
「ソウ?」
「ああいや、ごめん、大丈夫だ」
頭の中での言い訳に集中しすぎてフィオに話しかけられたのに気づかなかった。不覚だ。
ていうか誰に言い訳してんだ、俺。
墓穴じゃねーか。
今俺とフィオはこぢんまりとした家の居間に向かい合って座っていた。
さっきから何をしているのかというと、俺にも分からない。いや、分からないんだよ本当。
フィオは家に着くや否や俺を座らせた。そして戸惑う俺を尻目にテキパキと何か作業をしていたかと思えば、急に対面に座ると目を閉じてブツブツ呟き始めた。何だ!?黒魔術か!?
…いや待て、魔術師が黒魔術か!?とか何言ってんだ俺。
ちょっと今日一人ツッコミが多いな、調子悪いのか?俺。…おそらくは女の家で二人きり、という状況のせいだろうな…
俺が馬鹿な考えにふけっていると、フィオはつぶやくのをやめ、力を抜いた。
「ふぅ…」
「何か分かったのか?」
「うん。ソウの魔力は頭、細かく言えば『脳』に集まってるんだ。だから他の人と同じように魔術を使おうとしてもうまくいかないんだよー」
…?
よく分からんが…
なんか思ったよりすごい事が分かった…のか?つまりどうしたらその脳に溜まった魔力を使えるんだ?たとえ事実が分かったとして、それを解決できなければ意味がない。
だが、解決するにしても考えるにしても分からない事が多すぎる。だがこれはいい傾向だ。前とは違い、成長のために悩むことができるのだから。
どうしようか悩んでいると、俺はふといい事を思いついた。だが、大きな賭けだ。恐らくは無理だろうが、言ってみる価値はある。ノーリスクハイリターンだ。やらない手はない。
「フィオ、さっき何かお礼をとか言ってたよな?図々しいとは思うが一つ頼みがあるんだけど」
「なあに?」
「俺を弟子にしてくれないか?俺に魔術を教えてくれ」
おい誰だ今俺が不純なお願いをするとか考えた奴は。出て来い。
「うんいいよー」
俺が馬鹿な事を考えている間にフィオはそう言った。その間、一秒弱。
まあそうだろうな。普通会ったばかりのランク4魔術師なんかに教えな…
「って…いいのか!?」
「え?うん」
ノリツッコミである。びっくりしすぎて我ながらベタすぎる事をしてしまった。後悔はしていない。ていうかランク10だぞ?いいのか?
「えっと、じゃあよろしくお願いします」
「うんよろしくー」
軽いわ。
フィオはまるで「そこの醤油とって」「いいよ」のやりとりをするように請け負ってくれた。…不安だ。
天才は変わってるやつ多いからな…天才と馬鹿は紙一重ってのは本当だったのか…
「じゃあ早速始めようか?」
「え、いいのか?」
「勿論!僕ちょっと憧れてたんだよね〜」
そう言ったフィオはとてもイキイキしていた。人は見かけによらないものである。その目が眠そうなのには変わりないが、心なしか目が輝いている気がする。
期待に答えられるだろうか…?
そのせいでしごき回されたらという一抹の不安が残るがこのチャンスを無駄にするわけにはいかない。精一杯あがくとしよう。
「でも俺みたいな特殊なケースの指導もできるのか?」
「うん、むしろそっちの方ができるよ。僕位にしかできないだろうけど」
フィオはいたずらっぽく笑ってこう続けた。
その言葉は俺を揺るがすには十分すぎる程の言葉だったのだが。
「僕も特殊なケースだから」