第四十九話 探り合い
今俺たちはつい先日訪れたばかりの貴族街に来ていた。
勿論フィオの父親に会いに行くためだ。
結局あの後どうしたのかというとーー
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「大人しく話をしてくれれば何もしない」
あらかじめそう忠告して置いてからフィオに凍結をといてもらう。
フィオと紅にはまだ説明していない。
案があるとだけは言っておいた。
「一つ確かめたいんだが、さっきそっちからしかけてきたくせにって言ったか?」
黒蜥蜴の頭、ザナは首肯する。
常に腕を組んでおり、高圧的な態度を崩さない。
その胸元には首から下げられた楕円と十字架を組み合わせたようなペンダントが光っている。
お世辞にも清潔感があるとは言えない身なりのなかで少し異彩をはなっているように見える。
そのザナが訴えるように告げた。
「偉そうな貴族が初めに何もしてないあたしたちに汚いって理由で難癖つけてきたんだ」
「…はあ!?」
なんだそのめちゃくちゃな理由は。
完全にこっちが悪いじゃないか。
「で、武器とかで抵抗したら盗賊って分かったみたいでそのまま攻撃してきたのさ」
ザナは腹ただしそうに言うが、腹ただしいのは俺たちも同じだ。
だが、こいつらの先を決めなきゃ解決にならないな。
そこで俺はある時ガドルシアさんが「ううむ…裏方や事務の職員が足りてないな…」とつぶやいていたのを思い出した。
ここの人員はある程度戦闘力もあるしぴったりだろう。
その旨をザナに伝えると彼女は顔を輝かせ、承諾した。
「そこまでしてくれるのか!?」
「一応口添えはしておく。だが万一ダメだった時のことも考えておけよ。今後賊の活動をすればその時は義賊とはいえ『犯罪者』だ」
「…わかった」
腹は決まったようだ。
ここからは俺たちの仕事だろう。これからすぐにアカデリアに戻ってガドルシアさんに確認をとるとして、問題はその後だ。
ネルー・テオライズを納得させなければならない。
だが、こちらは実はもうあてがある。
二人には全て終わったら説明するとだけ言って一つの指示だけを与えておいた。
「親父さんにはまず説明して、それでも認められなかったら言いたいことだけ言ってさっさと縁をきろう。力ずくでもなんでも脱出すればいい。あとはこっちで何とかするから」
フィオは不安げにしていたが、俺の言葉を聞いて信じることに決めてくれたようだ。
その顔にはしっかりと信頼がみて取れる。
ありがたいな。
「じゃあ二人はアカデリアへ行ってガドルシアさんに説明しておいてくれ。俺は少し別行動をとる」
こちらの件は二人に任せることにして、俺は早速行動を開始した。
恩をきせる形になってしまうが、今回はあの人に頼る他ないだろう。
そう思いながら俺は最寄りの連絡用魔水晶へと急ぐのだった。
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「…という訳なんですが…お願いできますか?」
「勿論。これ位でよければいくらでも力を貸そう。使ってなんぼの権力だ」
「ありがとうございます。では」
ふう…
俺は若干震える手で水晶の接続を切り、緊張を振り払うようにため息をついた。
いい人だと頭では分かっていてもどうしても多少の緊張は拭えない。
結果から言えば答えは芳しいものだった。
これでフィオの件は解決だ。あとは決別を告げるだけ。
俺もガツンと言ってやりたいしな。
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ここで現状は冒頭へ遡る。
あの巨大な屋敷の重たい扉を開け、俺たちはまた長い長い廊下を歩いていた。
見覚えのある扉の前へたどり着き、フィオと頷き合うとノックした。
「入れ」
その返事は簡素なものだったが、その声には隠しきれない喜色が感じられた。
俺たちが自由になるなんてちっとも考えてないって感じだ。
「おお、早かったな!して、討伐できたのか?」
フィオが説明しようとするのをとどめる。
ここでありのまま告げてもどうとでもなるのだが、このまま奴の計画にわざわざ乗ってやるのも癪なので俺はカマをかけてみることにした。
「ええ、無事討伐しましたよ。約束通りーー」
「まさか…本当にやってしまったのか?」
奴は一瞬馬鹿な、という顔をしたが、すぐに取り繕いわざとらしい声をあげた。
「どうやら彼女たちは義賊で…今回も我々の方が先に手を出してしまったらしいのだよ。悪くなかった人々を討伐してしまうとは…私としては解放してやりたい気は山々なんだがね…多少問題が残るかもしれないな…」
芝居がかった仕草でネルーはそう続けた。
その口元は終始にやついている。
なるほど、そういう作戦か。カマをかけておいてよかった。
「ええ、存じております。そうですね…討伐とは語弊がありましたね。傷を負わせず無力化し、捕縛しておりますよ。ですから何も問題はないかと」
俺は作り笑いを貼り付けた笑顔でネルーに微笑む。
そのまあまあイケメンな顔が怒りにゆがんでいく。
ざまあみろ。
奴はしばらく何と言うか迷っていたのだが、思いついたように言った。
「ではその言葉が真か確かめる必要がある。しばらく滞在して頂こう」
ふむ、そうきたか。
冗談じゃないぞ。
どうせ滞在と称して拘束されるに決まっている。
どうしたものか。
「彼女たちはもう賊活動をしないと申しております。問題ないのでは?」
「そんなものが信用できるとでも?」
「はあ…それじゃあ交渉は決裂だ。俺たちは帰る」
ここまで引き下がるチャンスを与えても食い下がるネルーが面倒になり、俺は態度をころっと変える。
この執念には恐れいるが。
「黙って帰すわけがなかろう!」
そう言ったネルーの合図と共に複数人の近衛兵が俺たちを取り囲む。
中には先日の近衛兵より強そうな印象を受ける者もいる。
そして特筆すべきは一人の女。
明らかに雑兵とは違う気配を醸している。
だが、こちらにもただものでない者はいるのだ。
ランク10魔術師の力を改めて思い知らせてやって貰おう。
そうしておよそ戦闘とも呼べないような戦闘が開始されたのだった。
一話から改行などを校正していくつもりです
内容にほとんど変わりはないのであしからず(^^)




