第四十七話 やはりバトルは避けられない
俺たちは草むらに紛れて奴ら…『黒蜥蜴』のアジトの様子を伺っていた。
見張りは二人。辺りに目を光らせており、姿を見せた瞬間に仲間を呼ばれそうだ。これは思いのほか難関かもしれない。
…なんていうのは嘘だ。いや、思ったのは本当だ。ただそれがフィオの手腕によって杞憂に終わったというだけの話で。
それには一分もかからなかった。
〜フィオ流、一分でできる!見張り撃退法〜
まず、風魔法で砂埃を巻き上げ、相手の視界を奪います。
次に、一気に姿を現し声のする方、もしくは覚えている位置に攻撃魔法(氷魔法が望ましい)をぶっ放します。
できあがり!
…とまあこんな具合だ。
氷魔法じゃないとだいたい爆音などのせいで敵に見つかるのだ。無力化するには氷が一番なのである。
俺は氷漬けになった見張りの無残な姿を見つめ、味方で良かったと心底思ったのだった。
そしてこのまま内部へ突入…かと思いきや、フィオは踏み出しかけた足を止め入り口で立ち尽くしていた。何か不具合でもあったのだろうか。
「…ねえ、僕らってこの盗賊団を全滅させればいいんだよね?」
訝しんでいると、唐突にこんなことを確認してきた。
「ああ…別に捕らえるとかでもいいと思うが…それがどうかしたか?」
思い立ったように聞いてきたのでどうしたのかと思って聞き返すと、フィオは数秒黙り込んだ後悪い笑顔で顔をあげた。というかフィオもこんな顔するんだな…
「いいこと思いついちゃったかも」
フィオにこんな言葉を使いたくはないのだが、まさにほくそ笑む、という表現がぴったりの笑顔だ。怖い。ぶっちゃけブレスレット取りに行くの忘れてたときのドルーさんの笑顔より怖い。
「ソウ、手伝って」
どうやら俺も参加しなくてはいけないらしい。俺たちはフィオの指示通りの位置につき、その“いいこと”とやらを待った。
「『ウッド』」
フィオが土魔術の上位である木魔法を唱えると、小さな木が次から次へと生え始めた。そしてそれらは奴らのアジトの周りを囲ってゆく。しばらくするとまるで組み木のような木は俺たちの身長程まで育った。
「よし!火魔法でいろんなところに着火ー」
フィオは言うが早いか手当たり次第に囲った木に火をつけ始めたのだ。どうやらまるでじゃなく本当に組み木だったようである。
「お、おう…」
その謎のテンションに戸惑いながらも俺も次々と着火してゆく。
見てみろ、あの紅ですら苦笑いしてんぞ。
というかいいのかこれ。
アジトに乗り込むっていうテンプレをこんなガンスルーしてもいいものなのだろうか。俺が微妙な顔をしているとフィオは、
「なんで?敵が一箇所に集まってるのに律儀に正面から攻略しなくても…」
だそうである。
作戦名、蒸し焼き大作戦。
一通り火をつけ終わり、待つこと数分。しばらくの間ただ火を見つめるという地味な時間が続いたが、ようやくアジト本体にも火がつき始め、更にその数分後上の方が騒がしくなってきた。ようやく異変に気づいたようだ。温度もあるが、おそらく煙のせいだろう。
もしかしてこのまま全滅でめでたしめでたしだろうか。俺がぼんやりとそんなことを考えていると、上から無視できない声が聞こえてきた。
「お頭!もうどこもかしこも火の手が回ってやがるぜ!」
「ちいっ!仕方ない、抜け道を使うよ!女子供は先に行きな!」
抜け道…?
一応ある程度の頭はあるみたいだな。なんだかんだで盗賊団というだけはある。
フィオと紅も気づいたようで、互いに目配せをするとアジト周辺に目を光らせ始めた。
もう建物からはほとんど人気を感じない。だが、視界の中で奴らが現れる気配はない。しくじったか?
そこで俺はフィオに火を消すよう言う。フィオも最初は疑問の顔をしたが、俺の狙いが分かったようで、水魔法を乱射し始めた。
数分後、そこには焼け焦げてほとんどが炭と化している建物の残骸が残った。俺たちは足元に気をつけながら慎重に中へ入る。しばらく探索すると、思ったとおり地下へと続く抜け穴があった。恐る恐る開けて見ると、まだ新しい人の通った形跡がある。ビンゴだ。
中は薄暗いが、等間隔に明かりが並んでいるため歩くことはできそうだ。じめじめした道がまっすぐに外へ向かって伸びており、先は見えない。とりあえず俺たちは道に沿って進んでいった。
しばらく歩くと、ようやく上へ登る階段に突き当たった。
俺たちは顔を見合わせると、ゆっくりと扉を上へ押し開けた。するとそこには森が広がっていたのだが、それだけではなく。
「やっべ…」
武装して俺たちを取り囲む、盗賊たちがいたのだった。
最初は黒蜥蜴は猛武団にする予定でした
モウブ…モブ…ていう感じで。
でも流石に一応そこそこ強い設定なのでだめかなあと
自分でも雑魚書いてる気にしかならなくてやめましたww




