第四十五話 最悪の再会
厄介ごとは嫌いだが、今回ばかりは仕方ない。フィオのために一肌脱ぐとしますか!
「二人には迷惑かけないよ。これは僕の問題だから、僕一人で対処させて欲しい」
「…」
出鼻を挫くんだね。オッケー、そういう感じね。分かった。
そもそも俺より強いんだから手伝うも何もないな、そういえば。
フィオに勝てないようなら俺らにも勝てないだろう、多分。剣士である紅ならまだ可能性はあるが。
「大人しくついてくるなら攻撃はしないが、どうする?」
「はあ?…フィオ、どうする?」
「問題外」
フィオが答えた直後に数人の近衛兵が動き出した。槍を構え、こちらに突撃してこようとする。だが、彼らがそれ以上俺たちに近づいてくることはなかった。なぜなら、動こうとしたものは全員凍りついていたからだ。
フィオの得意な属性は水属性。彼女は答えた直後に動いた近衛兵たちだけをコンマ一秒の反射で的確に氷魔法で撃ち抜いたのだ。
ちなみに、俺が氷魔法を使うことが多いのは多少フィオの影響だ。
そうして圧倒的な実力差を示した彼女は、まだ動くことのできないでいる近衛兵を一瞥し、告げた。
「今度友達を巻き込んだら国とか関係なく潰すからね。狙うなら僕一人を狙えばいい」
やべえ。どの口が一肌脱ぐとか言ってんだよ…
数分前の自分を呪いそうだ。
近衛兵を睨むフィオにいつもの柔らかでとぼけたような態度は微塵も感じられず、そこには強者の表情があるのみだった。
「こんな強いなんて聞いてないぞ…」
近衛兵はアカデリアNo.2の魔術師さえ知らないらしい。それとも一致してないだけか?まあ魔術師になったことを隠していたのなら頷けるか。
ともあれ邪魔者を一掃した俺たちは、意気揚々と自室へ帰る…なんてことはなく、フィオは睨みをきかせたまま続けた。
「ネルー・テオライズの元へ案内して。けじめをつけにいく」
ここで出て来たのはテオライズ家現当主の名。要するにフィオの実の父親だ。決着をつけると腹をくくったのだろう。その表情は固い意志を表していた。
それこそ俺たちが首を突っ込む話ではないだろう。親子水入らず、というのは状況的に間違っているが、似た様なものだ(※違います)。二人で腹を割って話したいこともたくさんあるだろう(※違います)。
俺はコウを引っ張ってその場を後にしようとしたのだが、それはフィオの声によって止められた。
「どこいくの?」
「いや、邪魔しちゃ悪いなと思って」
「…蒼たちもいてくれない?」
今日はことごとく予定が狂う日のようだ。
俺たちはため息をつきつつ…いや、俺はため息をつきつつ、紅はワクワクした顔でフィオの後ろについた。近衛兵に先導され、俺たちは普段は入ることも許されない貴族街へと足を踏みいれたのだった。
そこは俺たちが入るには場違いなところだった。
豪華絢爛な店が建ち並び、きらびやかな装飾の施された街灯などがそこら中に設置されている。商品の値段は桁の数が違うし、垣間見える店内の床に無造作に並べられたように見えるタイルは一つ一つが財産になりそうなほどだ。
その上歩いている人は皆しわ一つない衣服を身につけており、すれ違うたびに胡散臭そうな視線で俺たちを睨めつける。居心地は最悪だった。
「おい、フィオ!これ俺たち本当に来て良かったのかよ?」
毅然とした態度で歩き続けるフィオに俺は小声で囁く。ちなみに紅は紅で目を輝かせて落ち着きなく辺りを見回している。…こいつの精神力が今は少々羨ましい。
「気にしない、気にしない」
紅を見習えと言わんばかりにフィオは俺の心配をすげなく否定した。その顔には先程よりいくらか柔らかな表情が浮かんでいた。俺たちを巻き込んだことが余程頭にきていたと見える。いやはや、嬉しいね。
「ここだ」
先導していた近衛兵が目の前のある一つの建物に入ってゆく。その建物を一目見た感想は、でけえええ!だ。先刻の豪勢な店が可愛く見えるくらいには大きな建物が門を構えていた。
あまりの豪華さに目を奪われぼーっとしていると後ろの近衛兵に急かされたので、あわてて先へ進む。
それにしてもでかい。まるで廊下が街道みたいだ。
…
……
………
…長えよ!!
しばらく歩いても目的地につかない廊下に目が飽きてきた頃、ようやく近衛兵が一つの扉の前で足を止めた。遠慮がちに扉を叩く。
一回、二回。
程なくして中から声が聞こえた。
「誰だ?」
「はっ!フィオナ・テオライズ様を見つけて参りました、近衛兵団でございます!」
「ほお…入れ」
「失礼いたします!」
ハキハキとした声で近衛兵が答える。やはり有力貴族なのだろう。
部屋に入るとそこにはドルーさんを強面にしたような、風格のある男性が座っていた。その男はまずフィオみて笑い、俺たちの方を不審そうな顔で見た後、また笑った。おそらく最後のは嘲笑であろう。
そしてこの再会は。
父娘の再会で、親子喧嘩の再開である。
まだ旅には出られないのです。




