第四十四話 フィオの過去
「…で、ついてくるのは蒼、紅、フィオの三人でいいんだな?」
「そうですね」
アクセルは確認を済ませると自分の滞在場所へ戻って行く…のだが、一つ言い忘れていたことにきづいたのか、こちらを振り返った。
「あ、そういえば俺は別にヒノマルへ向かうわけじゃねーから」
「はああああああ!?ちょ、え?話聞いてたよね!?昨日の!」
「ああ、いずれは行くつもりだ。ただ最短ルートでは行かねえぞって話だ。どうせ強くなんなきゃいけないんだしよ」
余りの衝撃に崩れた口調で叫んでしまった俺は思ったよりちゃんとした理由で安堵する。いつも適当だから真意を掴みかねるのだ、あの男は。
ちなみにルナとロイは残るらしいということを聞いた。まあそれは当然だろうと思う。こんなことにまで二人を巻き込むわけにはいかないからな(全ての原因は自身であることにコイツは全く気づいてません)。
「あ、あともう一つ」
まだ何かあるのか、と三人は声のした方を振り向く。
「めんどくせえし堅苦しいから敬語は使うな!俺のことは師匠と呼べ」
「はいはい分かったよ師匠」
「てめえらそこは戸惑えよ…」
肩を落として去るアクセルを全員で見送る俺たち。流石に少し可哀想だった(笑)
「ところで…紅は分かるけどフィオ、お前まで来なくても良かったんじゃ…何でだ?」
「え…強いていうなら何となく?」
とぼけた顔で言うフィオ。
一応そろそろマギロデリアを出てみたい、という思いはあったそうだ。
「それじゃ、いくつか買い物行くか?」
ーーーーー
おいおい、どうしてこうなった?俺たちはただ買い物を楽しんでいただけだったのに…
周りには、近衛兵が数人。俺たちが関わる筈のない奴らだ。
「一旦逃げるよ、二人とも!」
フィオの提案に頷き、俺たちは全力でーー勿論風歩も使ってーー逃げた。
何とかまくことに成功し、俺たちは戦争の跡の残る、森の手前で一息ついていた。
そういえば、ヴェーリエからは賠償請求出来たらしいな。ちょっとで勘弁してあげたらしいけど。
あと、新しい王を決めるらしい。今度は絶対王政を廃止して。これで正しい方向へと国が進んでくれれば良いのだが…
話が逸れたな。本題に戻ろう。
俺たちが立っているところはじりじりと太陽が照りつけ、より一層暑く感じる。滴る汗を拭きながら息を整えると、俺はまず感想を漏らした。
「近衛兵って何だよ…」
一部始終をご覧いただこう。
まず、俺たち三人は生活需品などを買いに街へ繰り出していた。ワーイ、ショッピングだー!的な状態だ。
すると、よく分からんまあまあ年のいったおっさんが、急に話しかけて来た。いや、俺にじゃない。あの時の感じだと、どう見てもフィオだった。で、俺たちがスルーして立ち去ろうとするとおっさんがどっかに連絡をつけて近衛兵が出てきて囲まれた。訳分からん。ってか、近衛兵呼べるってことはあの人多分貴族だったんだな。
…じゃなくて。
「フィオ、どう考えてもお前だろ。フィオナって呼ばれてたけど…」
「う…」
「帰って来なさい、とも言われてたな。…説明してくれるか?」
「うう…分かったよ」
暑かったので木陰に入った後、フィオは諦めたようにポツリポツリと話し始めた。吹き抜けるそよ風は、先を促しているようだった。
……………
有力貴族、テオライズ家。
力をつけているこの貴族にも、悩みがあった。それは、跡継ぎがいないこと。二人の女児は生まれたのだが、男児が生まれなかった。一応、いるにはいるが、それは分家の者であった。
実権を本家の自分たちの元で持ち続けることを望む傲慢な考え方の結果、思いついた策は婿養子である。他の貴族の男児を婿として迎え入れるという手段をとったのだ。
だが当時既に上の娘は他の貴族と結婚しており、その策を実行することはできない。下の娘、フィオナ・テオライズに目が向くのは当然のことであった。
だが、人は道具ではない。初めはいうことを聞いていたフィオナが徐々に反抗するようになっていったのは、当然のことであろう。
そしてとうとう我慢できなくなった彼女は、家を飛び出し自分のやりたいことのために生きてゆくことを決意する。
まず初めに彼女が向かったのは、叔父の宝石店。当時から唯一フィオナを理解してくれていた男のところに相談をしに行った。
そこで話をした結果、当面の生活費をもらった彼女はひっそりと住む場所などを用意。その後、アカデリアに入学することとなる。
フィオ・テオーリアと名を変えて。
そして、フィオナ・テオライズは貴族の世界から姿を消したのだ。
そして彼女は血の滲むような努力により、アカデリアランク10魔術師にまで上り詰めたのである。
こうして、貴族やルールを嫌い自由を好む“白銀の魔術師”が誕生したのだ。
……………
「それ以来、貴族と関わるのは避けてたんだけど…」
「今日見つかっちゃった訳だね…」
紅がしみじみと相槌を打つ。…そういえばこいつ初対面から日が浅いのに普通に喋ってんな…そんなことは今どうでもいいが。仲良くなるのは良いことだ、うん。
「だからあんな宝石とか一杯あったんだな」
俺は召喚石をもらった時の事を思い出しながら言う。あの時は本当助かったなあ…
で、ドルーさんがその叔父ってわけだな。大体分かった。
「話してくれてありがとな」
「…え?離れて行ったりしないの?」
「…?なんで?」
「だって騙してたんだよ!?」
おっとりとした彼女には珍しく半ばまくしたてるような口調だ。それほど必死だということだろうか。
「全部含めてフィオはフィオだろーが」
「…!!」
当然の事だ。フィオは泣きそうな顔でお礼を言っていた。
まあそんな大したことじゃなさそうだな。
そういえばイサナを見てないな。どこかで見てないか紅にーーー
「…オイオイ…しつけえなあ…」
その時、俺たちは先程の倍の数の近衛兵に包囲されていた。あの後追って来ていたらしい。
これは、イサナの居場所の確認なんて当分出来そうもない。
もしかすると先一週間更新ペースが落ちるかもです(^^;;




