第四十三話 少年の理由と少女の気持ち
新章です
少し文字数を増やそうかと
これも少し多めです
「どうしよう…」
ルナは悩んでいた。彼女の悩みの種、それは…
「蒼が旅に出るなんて…私も連れていって貰えるよう頼んでみようかしら」
好いた男の旅立ちである。旅立つまでに告白してもいいのだが、それだともしうまくいったとしても長期間離れ離れになるし、不安だ。そこでルナはついていくという選択肢を考慮にいれていたのである。
が、そもそも彼女がその思考にたどり着いたのにはわけがある。
ソウが旅立つことを決め、みんなに報告した翌日。ルナは目撃した。
「アクセルさん、ソウがいくなら僕も行きますからね!」
「そうだよー。ソウだけなんてずるいよー」
「ああもう…分かったから…勝手にしろ…」
げんなりした顔でアクセルが了承していたのだ。…一体校長はいかなる手段を使ったのだろうか。
それはともかく、ついていこうと思えばいけるということが分かってしまったのだった。
ちなみにロイはマギロデリアに残ると決めていた。足を引っ張るだろうというのと、まだマギロデリアでやりたいことがあるそうだ。
「よし、やっぱり頼んでみよ」
思い立ったが吉日、とばかりにルナは元来た道を引き返し始めた。晴天の下、賑やかな街道を歩く。ルナがいつも生活用品を買っている店の店主に軽く挨拶をしてふと前を見てみると、アクセルが道を横切って行くのが見えた。ルナは見失わないように後を追う。アクセルは迷いなく薄暗い路地裏へと入って行き、どんどん奥へ進んでいった。
どこに行くのか、とルナが訝しみ始めた時。彼は路地裏を抜けて開けた場所にある階段に腰をおろしていたのだった。
ルナは黙って後をつけ、こっそりとアクセルを物陰から見つめていた。早々に声をかければよかった、と数分前の自分を呪う結果となるのだとは知らずに。
ちなみにルナが声をかけなかったのは知的好奇心からである。アクセルの歩行速度が早すぎたとかそういうことでは断じてない。
「お待たせしました」
ルナが考え事をしていると、アクセルが声をかけられていた。その声の主は。
「おう、蒼か。俺を待たせるとはいい度胸してんな」
「え、いやあ…それほどでも」
「ボケはいらねえよ…本題はいるぞ」
ルナの思い人、蒼であった。
偶然にも、この二人は話があったようだ。自分の提案はこの話を盗み聞…傍聴してからでも遅くはないだろう。ルナはそう考えて物陰で腰を下ろしたのだった。
「折角の俺のボケを…それで、話とは?」
「お前がそうまでして旅に出る理由、強さを求める理由は何だ」
「…!」
その単刀直入に投げかけられた質問は、至極真っ当なものであった。同行を許す以上、責任は持つべきものとしての最低限のものだと。アクセル・ドラグニルはそう考えたのだ。それが、この質問に繋がったと言えよう。
変なところで真面目なのだ、この男は。
「そう…ですね。旅の理由は前も話した通り友達を取り戻すため、というのが大きいです。でもそのためには強さがいる。俺はこの腕輪に運命に抗うって誓ったんです。自分の人生だから。でも、抗えなかった。もし、もしもう少しでも俺に力があったなら、ケンタを…あいつを引き止めるくらいは出来たかもしれない、誰も傷つかずに済んだかもしれない。そう思うんです」
彼は、心の内を吐露する。
その口調に迷いはなかった。感じられるのは、己の目的を秘めた強い意志のみ。
「今回は運が良かったけど、俺は…自分の手の届く範囲位守れるようになりたい。ただ愚直に抗える強さが欲しい!」
「いい答えじゃねえか。…ま、雑用位はこなせよ?俺は恩に着せる男だからな」
「はぁ…そんな事だろうと思いましたよ。あ、あともう一つ目的はあるんですけど」
重苦しい話題は終わりだとばかりに話を茶化したアクセル。だが、ソウは言い忘れたように一つ付け加えた。
「紅の話にも出てきた女の子、いるじゃないですか。その子も見つけたい、というか探したい。俺たち三人仲良かったんですよ」
「なんだぁ?恋人かなんかか?」
アクセルが冗談交じりに聞いた一言で、ルナは心の奥が痛むのを感じる。そんな素振り今までなかった筈だったのに、と。
「まさか」
幸運にも、蒼は笑って否定する。ルナは短く安堵した。そして自分も行く事を告げようと足を踏み出しかけた。しかし、続けられた言葉でルナの踏み出しかけた足は動きを止めた。
「俺からの一方的な思いですよ」
「…っ…!」
気づくと、ルナは駆け出していた。逆方向へと。
「…」
アクセルはその姿を微妙な面持ちで見つめるのであった。
ーーーーー
「馬鹿みたい」
アカデリアに戻ったルナは泣きそうな顔でつぶやいた。焦がれて、浮かれて、逃げた。
どうして蒼の気持ちを考えなかったのだろうか。
どうして蒼に思い人がいないと勝手に決めつけていたのだろうか。
自嘲気味な思考で歩くルナ。その姿を捉えたのは良くか悪くかロイであった。
「おいルナ…ってどうした?」
泣きそうな顔をしているルナを見るや否や、あたふたと慌て出すロイ。
「大丈夫か?」
とりあえず落ち着かせようと自室まで付き添ったロイはそう言って懐からチョコレートを取り出す。
落ち着くには甘いものが一番だ、とロイは押し付けるようにそのチョコをルナの手に持たせた。
その優しさに、不安定だったルナの感情が涙となって溢れ出た。
ぼろぼろと涙をこぼすルナを見てギョッとし、再度あたふたとするロイ。
「うわあ…ぁぁん!うえぇ…ヒック…あたしじゃ、ダメだった…バカだった…の…ヒック…」
「何がだ?分かったから、落ち着け、な?」
懸命になだめようとするロイだが、ルナは止まらなかった。次々と思いを吐いていく。
その直後。どうしてそんな行動をとったのか、自分でも分からない。ルナはそんな行動を起こした。ロイに抱きつき、その肩で泣き始めたのだ。
「なっ!?…えっ…と…おい…?」
かつてないほど戸惑うロイは傍から見ればさぞかし面白かったであろうことはここでは言及すまい。
「僕の肩で良ければ、泣き止むまで貸そう」
そう小さく呟いて、ロイはまだ失っていない右腕でルナの頭を撫でるのだった。
ーーーーー
「っああああああ!!死にたいいいいい!」
勿論翌日ルナが絶叫したのは言うまでもない。前日の自分の行動を思い出すだけで顔から火が出そうなほど顔が真っ赤になる。そんなルナが最も会いたくない男に出くわした。
「その…昨日は大丈夫だったか…?」
心配するように聞いてくるロイは本当に困っているようだった。その優しい少年の顔を見ると、ルナが恥ずかしさをそこまで感じることはなかった。
「ばーか」
そう言ってルナはいたずらっぽく笑う。
この時ルナは自分の心に芽生えた一つの思いをどう位置付けるかわからないでいた。どうも蒼に抱いていた感情とは違うのだ。
それが憧れと好意の混ざった感情であるか、純粋な好意であるかの差に少女が気付くのは、まだ先の話である。
結局ここ二人に落ち着きました
あんぱいですね(^^;;




