第四十二話 過去と未来
第二章最終話です
詰め込んだので少し長め&会話多めです
「彼の話は概ね正しいので、私の話は先刻の話に補足してゆく形になります」
と、綿貫副長が前置きをしたところで紅が申し訳なさそうに声をあげた。
「あの…その声と綿貫って名前…なんとなく顔も若干…もしかしてなんですけど、『先生』だったりします?…例えば剣術の」
「…いえ、違いますよ。ですが…おそらくあなたが言っているであろう人物のことは知っています」
「紅、今はこっちの話をしてもいいか?お前にも関わることだぞ」
「ああうん、ごめんね」
紅の言う『先生』は俺も覚えている、というか多少なりと同じことを思ってはいたので気持ちは分かるが、今はこちらが先だ。
ちなみに、俺は人物や他にも幾つかの記憶は残っていた。操作された基準は何なのだろうか。
ここでようやく綿貫副長が話を始めた。
「まず、君たちに人体実験を施したのは『凪の団』と言う名のカルト集団です。彼らは身寄りのない孤児たちを引き取っては、人体実験のモルモットにしていたのです」
綿貫副長は話し続けた。彼が知りうる全てを。
『凪の団』は遥か昔から存在している集団らしい。彼らは東に存在する国ヒノマルーー俺たちの本当の故郷だーーを拠点にしており、そこで伊邪那岐を信仰している。
奴らの目的は神による統治、まあ簡単にいえば世界制服だ。まるで子供みたいだが。そのために奴らが目をつけたのはーー人の身に神を宿すこと。
召喚石による“憑依”は可能だが、それだと色々と制限がある。だから、幼少より身体検査と称して神の力を少しずつ注入していったのだ。成熟した時には神と同化している、というのを目標として。
「ですが、それは夢のまた夢。そんな実験は成功しなかったのです」
殆どが神の力に耐えきれずに即死。運良く生き残っても体や脳に障害を残した。
「そしてそれ以上被害が出ないようある時我々は攻撃を決心したのです」
「じゃあ…あの襲撃は!」
「そうです。我々は『凪の団』を潰すためにできた組織。私はそこの総括代理です」
ヒノマルで出来た対凪の団組織のNo.2だという。
そしてケンタ達こそ、『凪の団』の一員。逃げ出した俺たちが妙な行動をしないか監視にきていたのだろうということだ。
俺はここでふと疑問が生じた。
「待てよ、伊邪那岐の統治って…神はこの世の中に実在しているのか?」
『凪の団』の目的がそうなら、現世に神がいなくてはなし得ない。まさか神の使いとでも言ってる馬鹿がいるのか?
「恐らくそうでしょう。神は召喚石で人間と結託してしまえば消されない限り現世にとどまり続けますからね」
「そんな頻繁に神は現世に降りてくるのか?」
「いえ、降りてくること自体は稀です。神とは、神格を持つ精霊、魔獣を総称した呼び名ですから。基本的には精霊ですが。そもそも神が発生する可能性は基本的に二択です」
一つ目は、長い時を経た魔獣が神格化するという可能性。しかし、こっちは寿命などもあり絶対数がごくわずかだ。
そして二つ目は、現世での強い意志に引き寄せられて神格存在が降りてきたものだ。
「ですから、伊邪那岐はいると考えた方がいいでしょう」
「そうか…まあ、ケンタを取り戻しにいくのに代わりはないんですけど」
「!?」
え?
なんかまずいこと言ったかな?
元々その予定だったんだが。
俺があんなこと許すわけないだろう。あのケンタが、という思いはもちろんあったがその後段々腹が立ってきた。勝手にいなくなりやがって。
たとえ短い時間でも、俺は楽しかった。
しかもあいつ、気付いてないな。自分の癖に。嘘や冗談を言った時の笑顔と普通の笑顔が違うってことに。
分かるんだよ、嘘だって。
俺のことを本当は思ってくれてるんだって。そう信じることにした。取り戻して、確かめてやる。
まあそう決めたのはそれとして、まだ話さなきゃいけないことがある。
「オイ…話はよーく分かった。だが待て待て。今のどこに俺がいるべき要素があった!?」
「今からその話をしますから」
丁度良くアクセルがすごい勢いで抗議してきたので俺はこれからのことを話す。
「今回で俺は自分の無力さを思い知った。だから…この国を出ようと思う」
「え!?」
「その上で、アクセルさんにお願いがあります。これからこの国を出る時、俺も一緒に連れていってくれませんか?」
「はーん、だから俺にも話を聞かせたのか…なら答えは簡単だ。断る」
「ありがとうございま…え!?」
思わずお礼を言いそうになってしまった。完全にオッケーの流れだったろ今!
それでも俺は諦めるわけにはいかないので、理由を聞いてみた。
「めんどくせえから」
「チクショウ!」
そうだ、この人はこういう人だった。ようするにめんどくさくなかったらいいわけだ。
「あなたの戦いを見て、ついて行けば何かつかめると思ったんです。勝手に見て学びますから、お願いします」
「だから…」
「よしいいよ」
「なっ…ガドルシア!?」
そこでなおいい顔をしなかったアクセルを差し置いて口を開いたのは校長だった。そういえば、アクセルさんに俺たちのサポートを頼んでくれたのも校長だったらしいな。
「コウチョウメイレイ」
「てめぇ…」
「というわけだ。こっちは何とかしておくから準備しておきなさい」
俺はこのめちゃくちゃな校長にお礼を言い、周りを見渡す。すると皆苦笑しており、この人は場を和ませるのがうまいな、と再確認させられた。
そして今の今まで深刻な話で気がつかなかったが、外が戦争の終了にきづいたのか騒がしい。
確かに、何人もの人が亡くなった。それでも、戦争が終わるのがいいことであることに代わりはない。俺は役に立てたかどうかわからないけれど、喜んでもいいんだ。助かった人たちがいて、今こうして生きているのだから。
こうして、宴会となった戦争の終わりを喜ぶ人々の集まりに包まれてマギロデリアの夜はふけてゆく。
俺は決意も新たに寝床へつくのだった。




