第四十一話 晴れゆく記憶の霧
一話に入り切らなかったので分けました
ちょっと短いかもです
医務室のベッドの上で、俺は最悪の気分で目が覚めた。体はだるい上、意識を失う前の映像がフラッシュバックしてとてもじゃないが結果を喜ぶ気分にはなれなかったのだ。
しばらく何もせずにぼーっとしていると、唐突に声をかけられた。
「あ、ソウ起きたのね」
そこにはいくらか表情の柔らかいルナが立っていた。タオルを手に持っているところを見ると、どうやら看病をしてくれていたようだ。
「世話かけたみたいだな…ありがとう」
「私だけじゃないわよ、みんなでだからお礼ならみんなに。それにどっちかって言うとお礼を言うのは私の方だし…」
「…ん?」
「ほら、ソウが居なかったら多分私ここには居ないから」
「…ああ」
助けたことを言っているのだと理解するのに時間がかかった。いかんせんその後のことが濃密すぎたからな。もうずいぶん前のことのように感じられる。
「みんなも心配してるし、呼びにいかなきゃ!…ソウ、ひどい顔してるわよ?大丈夫?」
「…ちょっと、な」
ルナにはこのことは話したくないと思ったが、ケンタを知る彼女に話さないわけにはいかないだろう。そのことを考えるとまた気分が悪くなった。
「ロイとフィオとワタヌキ副長と校長、あとアクセルさんとコウ…多分聞けばわかるからコウを呼んできてくれるか?」
「ええと、校長まで?…わかったわ。あと、ケンタはなぜかどこにもいないんだけど…」
その名前を聞いて俺はまた顔を歪める。だが、逃げてばかりもいられない。
「そのことも含めて話がある。頼んだ…」
そのまま俺は体を寝かせ、天井を見つめた。ルナの出て行く音がして、静寂が空間を支配する。これからする話のことを考えると、ため息が出た。
ーーーーー
「…ウ…ソウ!」
「…ん?」
「人を呼びつけておいて寝てるとは、面の皮の厚い奴だな」
どれ位時間がたったのか。あまり時間はたってないはずだが、待っている内にいつの間にかうたた寝してしまっていたようだ。
「すみません、つい…」
俺のベッドを囲むように、校長、副長、アクセル、コウ、フィオ、ロイ、ルナが並んでいた。さらには俺の背後にイサナが浮遊していた。コウが気を利かせて連れてきてくれたようだ。
「みんなには話さなきゃいけないんです。ただ俺にも分からないことが多いので質問もすると思いますが、最後まで聞いてください」
各々が真剣な顔で頷く。…ただ一人を除いて。
「待て待て、なんで俺まで」
疑問を唱えたのはアクセルである。確かに俺と関係はないが、いてもらわなくてはならない。
「あの時その場にいた数少ない一人ですし、それに…他にも理由はありますから」
「あん?何だよ」
「いずれわかります」
俺のはっきりしない答えにアクセルはため息をつきつつ諦めてくれたようだ。
そして俺は話を始めた。
「まず端的に言うと、ケンタは俺を監視していたようで、俺とケンタの記憶も植え付けられたものだった。だからあいつはもう戻らない」
「まさか彼が…!」
それぞれが驚きの表情をしている中、ワタヌキ副長だけがしまった、という表情をした。やはりか。
「ワタヌキ副長、やはり何か知っているのですね?」
「まあ、一応ですが…」
だが詳しい話は彼の話の後だ。
俺と同じ境遇であり、俺よりも昔のことを覚えている人物。
コウ…いや、皇紅の話。
「紅、俺にはーーーいや、俺たちには、一体何があったんだ?」
「僕も詳しくは知らないんだけど…自分の身に起こったことだけは分かる。僕たちは…人体実験されていたんだ」
「「「「「「!!」」」」」」
その言葉に顔に驚きの表情が浮かぶ。先を促すと、紅は自信なさげに続けた。
「何の人体実験かは分からない。とにかくその施設にはたくさんの子供がいて、職員たちもみんな優しかったんだけど、ある日急に乱暴になった人たちに僕は隔離されて、ある女の子と二人部屋に閉じ込められていたんだ。その時に蒼とも離れ離れさ」
俺も知らない事実に、記憶が塗り替えられてゆく。こんな大きなことがあったのに、なぜ俺は覚えてないのだろうか。語る紅は少し辛そうだった。
「そんでもって、またある日、施設が襲撃されたんだ。原因も誰が起こしたのかも分からなかったけど、職員が殆ど誰もいなかったから僕たちは逃げ出したんだよ。…これが僕の知る全てだよ」
「では、ここからは私が語る番ですね」
綿貫副長はゆっくりと口を開いた。
次、2章最終話です…多分(




