第四話 お誘い
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視線を下げた俺たちの前を皇族が通り過ぎてゆく。
ギリギリまで立っていたので何か言われると思っていたのだが、皇族は酷く焦っていたようで気づかれなかった。
何もお咎めがなかったのでようやく俺は安堵の溜息をつく。
「なんとかなったか…」
「あれが皇族だったんだぁ…」
そいつは驚いた風に言う。
おいおい、知らなかったのか。
あれだな、俺の第一印象は間違ってなかったわけだ。
流石に胸のエンブレムを見れば一般教養として知っていると思うが…しかしあの皇族の動揺…何かあったのか?
そんな風に考えに耽っているとふと周りがざわついているので我に返った。
大方街中に不釣り合いな出来事に井戸端会議でもしているのだろう。
そう思いながら前に目をやると、目の前でさっきの女がぶんぶんと手を振っていた。
「おーい」
「あ、ああ。なんだ?」
「さっきはどうもありがとう。助かりましたー」
お礼を言っているのに語尾を伸ばしたことで全然感謝の念が伝わってこない。
そういうやつなのか?不思議なことに悪い気はしないが。
「巻き添えを食わないようにしただけだし、どうってことないさ」
「そうなの?何かお礼を…あ、そういえばキミ名前は?」
「ソウ。ソウ・スメラギだ。そっちは?」
「僕はフィオだよー。よろしくねー、ソウ」
唐突に名前を聞いてくるとは…こいつ、なかなかのコミュ力だな。
それはさておき。
そういえばフィオ…最近どこかで聞いたような気がする。
僕という一人称には突っ込まないようにして考えているとふとフィオの服装に気づいた。
長めのローブだ。
俺が着ているものと酷似している。
ということはアカデリアの生徒か?
だが、俺のは黒いがフィオのは白く、襟元にアカデリアの三ッ星マークが刺繍されている。
…まじか。
三ッ星って確かランク10…いやいや、まさかこんな奴が。
その時点で冷や汗をかいていた俺がおそるおそるフィオの胸元に目をやると、この国で身分証明となるバッジがあった。
それがとどめだ。
「なっ!?フィオって…フィオ・テオーリアか!?」
「あれ?僕のこと知ってるの?」
知ってるも何も…思い出した。
フィオ・テオーリア。
ランク10魔術師のアカデリア内実力ナンバー2だ。
ランク10にしか許されない三ッ星ーー勿論本物だーーをつけているところをみると本物らしい。
なんでこんな人が…
さっきまでの偏見を許してください。
「あ、ソウもアカデリアの生徒なんだあ〜…ランクは…え?4?」
「悪かったな、低くて」
俺は恥ずかしくなってあわててバッジを隠す。
人は見かけによらないなんてよく言ったものだ。
「あ、いやそうじゃなくてー。ソウから感じた魔力から察すると6、7位はいってると思ったんだけど…」
まじか…んん?
待て待て。
なんだって?
俺は耳を疑った。
なぜか?それは俺が伸び悩んでいる原因が魔力の少なさによるものだからだ。
しかし目の前の実力派魔術師は俺にランク6程度の魔力があるという。
一体どうなってるんだ。
もしかするともしかするぞ、これ。
「ちょっとそれ、詳しく聞かせてくれないか?」
「え?いいよー」
場合によっては強くなれるチャンスかもしれない。
これを逃す手はない。
「じゃあ、ここじゃなんだし僕の家に行こっか?」