第三十九話 とっておき
一体何なんだあの人は。適当すぎる。
だが、戦闘術や戦闘センスは本物だ。その証拠に、俺たちが手も足も出なかったヴァルガンが押されていた。
その戦闘の一部を見るとこんな具合だ。
まず動いたのはアクセル。一気に距離を詰め、手に持っていた斧槍を横薙ぎに大きく振る。その一撃は世界を斬らんとするばかりの勢いで、当たれば即死の一撃だった。
それをしゃがんでかわすヴァルガン。そこから反撃に転じようと剣を構え上を向いたヴァルガンの顔にはバズーカの砲口を突きつけられていた。ヴァルガンは剣の方向をとっさに変え、バズーカの向きを少しずらす。その砲撃はわずかに逸れ地面に着弾した。その衝撃で砂利が巻き上がる。
アクセルはそこで自身に軽く防御魔術をかけると風魔法ごと先程舞った砂利を自分もろともヴァルガンに叩きつける。更に自ら爆発を起こし爆風で距離をとると手榴弾を投げつけた。
致命傷とはいかずとも、多少なり傷を負っているヴァルガン。
と、このように自分に多少のダメージがいくのを厭わないのだ。そして、直前の攻撃から次の攻撃がスムーズに直結している。
つまり相手に反撃に移らせない。本来の力を出させずに勝つ。理想の戦い方と言えるだろう。
「てめぇら!ぼーっと見てねえで早いとこ王を仕留めろ!」
俺たちはその戦いをずっと傍観していたが、アクセルに怒鳴られて我に返る。なんとか体を起こして王の姿を探すと、同じように我に返ったのか出口へと急ぐ王の姿が見えた。
「逃がしてたまるか…『土壁』!」
奴に直接当てては無効化されてしまうので、俺は出口の前に大きな土の壁を出現させる。
だが、ここからどうすればいい?
剣なんかで天幕を引き裂かれて逃げられたらお終いだ。
俺の土壁にまごついて冷静じゃないうちに一気に仕留めてしまいたい。
だが、俺の魔術は通じない。
そして、コウもダリエラも動けない。
辛うじて動けるのが戦力にならない俺だけとはなんと皮肉なことだろうか。だが、幸運なことに今の俺には現状を打開する術がある。
見せてやるさ、奥の手ってやつを。
「王よ!腰の剣で天幕を裂きお逃げください!」
ヴァルガンがアクセルの攻撃を紙一重で避けながら叫ぶ。余計なことしてくれたもんだ。
だが、逃がしはしない。
なぜなら、今の俺には王を仕留める自分が想像できるからだ。
俺は杖を後ろに構え、体勢を整える。
「…ハハ…!辛うじて動けるのは魔術師だけ!私は生き延びーー」
「てめえ、もう黙れ。『爆発』」
俺は先刻のアクセルのように後ろに爆発を起こし、その推進力を使って王へ一直線に飛んだ。
王は一撃で倒すもしくは最低でも致命傷を与えなくてはならない。なぜなら、俺の体もそろそろ限界だからだ。まともにやりあうと流石に勝てないだろう。
だから、完全に軽視している俺の奇襲で一気に仕留める。
手には愛杖クリスタル。だが、杖で殴ったくらいでは倒すことなど到底出来ないだろう。
この杖が有能で本当に助かった。
そう思いながら俺は杖に埋め込まれた青い魔石に手を触れ、想像する。
俺はゼギさんに言われたことを思い出していた。
………………
「いいか、ソウ。この杖には一つ、とっておきのおまけ機能がある」
「おまけ機能、ですか?」
「ああ、それもてめえピッタリのな」
そう言ってゼギさんは杖を差し出す。そして先の方についている魔石を見えるように持ち直した。
「ここで重要なのはこの魔石だ。この魔石に触れながら魔力の枷を外すことでこの杖はある機能を発動させる」
「その…機能とは?」
「てめえは剣も扱うと言ったな。そんないわゆる魔法剣士であるてめえにぴったりな機能、それは…変形機能だ」
「まさか…」
ここでゼギさんはニヤッと口元を緩ませる。
「その通り。昔俺の元にふらっと寄ってきた旅人がいてな。そいつが教えてくれた秘密の技術なんだが…雷魔術の応用で金属の形を整える。そして杖は…」
………………
「剣へをその姿を変える!」
その時俺の手に握られていたのは杖ではなく黒い剣。その予想外の出来事に誰一人として対応することはできず、数々の障害をくぐり抜け、俺の刃は。
王の胸を貫いた。




