第三十七話 救世主
「お前は…!」
「何だよ、幽霊でも見たような顔しやがって」
実際に幽霊を見たときの方がマシな顔をしていたと思う。いや、現在進行形でしてるな。
何故なら、そこにいた男が死んだはずのダリエラだったからである。
俺は話で俺の魔術で瀕死の重傷を負い、逃げ帰った先で死んだと聞いていた。コウにも確認したから間違いないはずだ。
俺たちは全員驚いていたが、一番驚いていたのは紛れもなく王だっただろう。
「死んだ筈じゃ…」
「貴方…どうやって!?」
「俺は王の指示で殺されたんだが…得意の隠密で身代わりに成り代わっていたのさ」
どうやら真実は違っていたようだ。これは大きな証拠になるな。
見るからに王とヴァルガンは焦っているし。
「これを被害者である俺本人が証言すればどうなる?」
「確かに有効な手ですね。ですが…私がそれを黙って見逃すとでも?」
「ダリエラ…お前が頼りだ。仕方ない、敵の敵は味方っていうしな…手を組むぞ」
「任せた」
そう言って俺がヴァルガンの方へ向き直ったその時には、俺はヴァルガンの姿を捉えることはなかった。次に奴の姿を認識した時、俺は飛ばされ地面に叩きつけられ、喉元に剣を突きつけられていたのだ。同時にダリエラも死んではいないが斬られて倒れていた。
「なっ…」
「確かにあなたはそのレベルの魔術師の中ではできる方です。ですが、魔術で工夫するだけでは勝てない壁がある。絶対的な実力というものは厳然として存在するのですよ。貴方では私には…勝てない」
そうして剣が動きかけた時、俺の視界の端でコウが突っ込んでくるのが見えた。その動きに乗じて体をよじり脱出を試みたのだが、それはかなわない。コウがそのまま吹き飛ばされたのである。
「魔術を無効化する術を王はお持ちですから…やはり邪魔な裏切り者のコウ、貴方から殺して差し上げましょう」
標的をコウに変えたヴァルガンが、ゆっくりと倒れているコウヘ近づいてゆく。そしてコウのところへたどり着くと、迷いなく剣を振り上げた。
このままじゃ久しぶりに会えた幼馴染を、親友を、家族を、失ってしまう。そんなのは嫌だ。冗談じゃない。
俺は地面へ杖を向け、叫んだ。
「『隆起』!」
俺の言葉が発された瞬間、ヴァルガンの足下の地面が突如盛り上がった。
行き場を失った剣の刃は、コウの首を捉えることなく空を切る。
「次から次へと邪魔を…コウはもう動けなさそうですし…やはり貴方から殺して欲しいんですか?」
次の魔術を放とうとした時にはもう目の前にヴァルガンが剣を構えて立っていた。死がすぐそこまで迫っているのが分かる。
「自分の無力さを嘆きながら死になさい」
「ち…くしょおおおおお!まだ死ぬわけには…!」
気づけば涙が頬を伝っていた。
そしてその涙が地面に落ちるより早く、刃が俺に迫っていた。
「ッハ!死に際にそこまで吼えりゃ上出来だ」
突然俺の目の前を何かがよぎった。それと同時に金属のぶつかる音が響く。
気づけば今まさに俺の命を刈り取らんとしていた剣が受け止められていた。それを受け止めていたのは、白銀の長髪をオールバックでなびかせた男だった。鼻には眼鏡がのっており、着ている服の下の方には円の中心に点が打ってあるようなシンプルなマークがついている。そして襟元には件の三ッ星が煌めいていた。
「今度は何…貴方は!?」
「ほお、知ってるかい。礼儀として一応名乗るぞ。俺はアクセル・ドラグニル。アカデリアランク10、永久欠番のNo.1魔術師だ。まあ、今はしがない傭兵だがな」
「知らない訳がないでしょう…戦場を駆ける“一ッ目の鬼”である貴方を」
アクセル・ドラグニル。数々の伝説を学園に残した男だ。伝説といっても大型魔獣と素手で戦って勝っただとか、校長を殴っただとか、数日でランクを5上げただとか、眉唾ものの内容ばかりだが。
ともかく、そんな男がなぜか俺を助けてくれた。
「まあ知ってるかどうかはこの際どうでもいいさ。さあ、懺悔の時間だ」
この強力な助っ人はそう言ってこの空間にいる全員の精神を揺るがせたのであった。
タイトルはダリエラとアクセル両方を指してます




