第三十六話 絶望と希望
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戦いは、なし崩し的に始まった。ヴァルガンは隙のない動きですぐに襲いかかって来た。
コウの裏切りは完全にばれている。俺たちは不意をつくこともできず、一対二にも関わらず身を守るので精一杯だ。
流石は総隊長。その両手に持つ二振りの剣を華麗に舞わせ、俺たちを圧倒する。
「『凍土』!」
俺はヴァルガンの足元を凍らせ、体制を崩しにかかる。そしてコウはここぞとばかりにタイミングよく飛びかかる。
久しぶりに会ったとは思えないコンビネーションだと自分でも思う。
「なかなか…できますね」
だが、それもヴァルガンには通用しなかった。最善の策をとっているつもりだが、歯が立たない。
地面に張った氷を斬り砕き、猛然と俺へと迫ってくる。
首を刈り取らんとした刃を辛うじてかわすと、俺はそのまま距離をとる。
このままでは勝てない。
抗わなければ、死ぬ。
「『風歩』!」
何度も世話になった術だ。これで機動力では勝つまではいかないにしても劣らないだろう。
そしてそれに合わせるようにコウも自身の腕から血を流し、剣に吸わせる。これまでで一番の輝きを放つその紅い刃は、とても妖しく見えた。
反撃だ。
「おや?まだ楽しませてくれますか?」
全力で動く。上下左右、火水風雷土あらゆる手段で攻撃した。だが、その全てをやつは受けきって見せたのだ。その顔に笑みを貼り付けて。
だが俺は見逃さなかった。俺たちが同時に動いた時、一瞬ヴァルガンの顔から笑みが消えたのを。
だからこそ、諦めるわけにはいかない。
そして今、俺たちは狙い通りの位置どりになっていたのだ。
「『岩石弾』!」
俺の周囲に数個の拳大の岩の弾が浮遊する。そしてそれらは勢いよくヴァルガンへと飛んで行った。
「こんな手数だけで私を仕留めるのですか?こんなものかわすくらい造作もない」
そう言ってヴァルガンは一つ残らず岩石弾をかわしきった。
だが、ここまでは予想通り。
ヴァルガンを挟んで反対側にはコウが待機していた。これこそが、俺たちが狙っていた状態。
ヴァルガンに当たることのなかった弾は、コウへと一直線にとんでゆく。
「失敗したらどうしてくれんのさ…『紅桜・“柔”』!」
コウがその場で剣を振ると、全ての弾がコウによって弾き流されヴァルガンへと吸い込まれてゆく。背後からの奇襲である。
「なかなか…!」
ヴァルガンはとっさに振り向き岩石弾を弾く。しかし、その時にはもう俺は走り出していた。そして手に持っていた杖を思いっきり叩きつけるつもりでヴァルガンへと振るう。
だが、背後から連続で攻撃されたにも関わらず、ヴァルガンはそれも受け止めていた。
「信じてたぜ…これ位の攻撃なら反射で受け止めてくれるってな!」
「な…」
「『放電』ッ!」
そう、ここまでが計画だった。この作戦は相手が強者だからこその作戦である。今回は相手が強いという事実が功を奏したといえよう。
最後に俺は今回の作戦の仕上げとも言える雷魔法を遠慮なくぶっ放した。剣という導体を通して俺の魔術が伝導してゆく。
かわされてしまうなら、直接当ててしまえばいい。
「今から王の相手は厳しい。一旦退くぞ!」
「させませんよ」
「…嘘だろ…」
俺たちが絶望的な顔で声のした方をみると、そこにはやはり笑みを浮かべたヴァルガンが立っていた。多少傷が無いこともないが、ピンピンしている。確かに俺の魔術はくらったはずなのに、どうしてだ?
「あと少し闘気で手を覆うのが遅れていたら危ないところでしたね…」
闘気で覆った手のひらで雷撃を弾いていたらしい。ここで俺たちは思い知ったのだ。経験…踏み越えて来た場数の差を。
それでも、できることはある。
「雑兵たちに真実を伝えれば…まだ希望はある!」
「ただの一幹部で、ましてや敵兵である貴方で何を言ったところで私が否定すれば終わりですよ?」
ことごとく希望が潰えてゆく感覚はとにかく辛かった。抗ってはいる。それでも、どうしていいかわからない。
水を掴むかのような土台無理な話だったのか。そんな風にすら思えてくる。
「俺が証言すればいいんだろ?」
「お前は…!」
そんな時、希望はやってきた。
ついにあいつが現れた!




