第三十五話 先見の明
まさか魔術を無効化されるとは思わなかったな。
だが、策はまだある。俺は何もできないが。コウに任せるしかない。
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面倒なことになった。 あの御守りは実質ソウを無力化していると言って相違ない。つまり僕がとどめを刺さなきゃいけないってことだ。
今僕とソウは戦っている…ように見えるよう動いている。勿論、本気じゃあない。
しばらく互角の戦いを演じ、僕は行動に移る。
まるで守ろうとしているかのように王に近づき、声をかけた。
「王、大丈夫ですか?」
「うむ。世話をかけるな、コウ」
「ここは私がとどめておきますので、お逃げください」
僕が逃げるように促すと、王はあっさりと了承してくれた。
そして入り口に向かおうと僕に背を向けた瞬間、僕は駆け寄り背中から左胸を的確に貫きそのまま切り捨てる。
「がっ…は…?」
王が自分の左胸を見下ろし、力なく崩れ落ちる。
流石に直接切り捨てられたのを無効化する術は持っていなかったようだ。
こうして僕達の作戦は成功を収めたのだ。
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「よくやったな」
まずは一声。
そして問題なく作戦が成功したことに安堵する。
あとは真実を話して戦争を終わらせるだけだ。
「フハハ…良かったじゃないか、王が倒せて」
「お前…!?」
そこには召使いのような格好の男が立っていた。おそらく王の側近の一人だろう。何故今のこのことここに現れたのかは分からないが。
そう思ってコウの方を向くと、青ざめた表情をしていた。
その顔から読み取れるのは怯え、焦り。
何にせよよくないことが起きているようだ。
「コウ、こいつ誰だ?」
「…王…」
は?
俺が慌てて先刻のところに目をやると、そこにはやはり問題なく王が倒れていた。
「木を隠すなら森の中、という言葉を知っているか?」
その言葉でおれは全てを察した。
王は念には念を重ね、側近と入れ替わっていたのだ。
そして呆然としている俺たちを他所に、王は死んだ召使いの元へ行き、その首に御守りをかけた。
「しまっ…」
この男には全て分かっていたのだろうか。魔法で殺されそうになる事も、味方が裏切る事も、そして俺たちが驚きで動けなくなる事さえも。
やばい。撤退か?
「全く…残りの幹部達は何をしておるのだ…」
不幸中の幸いだが、王は一人だ。
一度退くくらいなら可能な筈である。
「コウ、退くぞ」
「仕方ない、ね」
俺たちはじりじりと距離を取りながらタイミングを図り、入り口へと疾走しようとした。
だが、それは叶わなかった。
なぜならある人物が俺たちの退路を断っていたから。
「…っ…!」
「ヴェーリエ全軍総隊長、ヴァルガン。王の敵を殲滅せし者です」
最悪だ。遅かったらしい。
絶対に避けなければならない相手にこの状況で出会ってしまった。
非常にまずい。
「コウ、交戦しつつ全力で退くぞ」
「御意」
俺たちは、覚悟を決めたのだった。
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ーーそして時を同じくしてとある一室ーー
「君達三人で居残ってる幹部は全部だよね?」
「やっと追い詰めたぞ、侵入者!」
薄緑髪の侵入者に詰め寄る三人の幹部。そしてそれを余裕そうに眺める侵入者。
「一応僕もランク10なんだよねー…遊んであげる」
「なめやがって…俺がいく」
「めんどくさいから同時にかかってきなよ」
余りに自分たちを見下した発言にいきり立つ幹部たち。これでも七幹部が一人。侵入者一人くらい倒せる、という自負はあったのである。
ここでも戦いが始まって、そして終わっていた。
その間凡そ十秒。
「固有魔法ーー」
次の瞬間そこは白銀の世界へと変貌していた。
「ソウ、大丈夫かな…」
独り言とともにため息がもれる。
だが心配そうな言葉とは裏腹に、その目には贔屓目なしでの確かな信頼が見て取れた。
そしてそんなことは露ほども知らず、ソウ、コウ対ヴァルガンの戦いが幕をあけたのである。
これソウがやらんでももっと強いやつがやれば良かったんじゃ…とかは禁句です(




