第三十四話 策
佳境ですね
俺たちは今独特な形をした天幕の前、もとい真後ろにいた。
天幕にも関わらず、部屋、更には廊下まで模してつくってあるという変わりようだ。
そして俺はその一番奥の空間である王の天幕の後ろに陣取ることに成功したのだ。
さあ、あとは目の前の天幕に最大の魔術をぶつければ事件解決☆…という訳にもいかない。そこに本当に王がいるかも分からないし、そんな派手なことをしたら誤解した兵士達に攻撃される恐れがある。
そこでコウに中の状況把握とともに王がちゃんといるかどうかを確認してきてもらうことにした。慎重に慎重を重ねて、だ。
ところで何故イサナで確認しなかったのかというと、王にもイサナが見えるという可能性が捨てきれないからだ。ぱっと中に入った時にもし見えたなら大騒ぎになること間違いなしだ。そんなリスクはおかせない。
「じゃあ、打ち合わせの通りに。行ってくるね」
「ああ、慎重にな」
そう言い合って俺たちはそれぞれの行動に移る。といっても、俺はその場で待機しておくだけだが。
そして待つこと約20分。
その時はやってきた。
ーーーーー
ソウと別れた僕は自分の天幕に来ていた。否、自分達の天幕に。
「あれ?あと3人の幹部は…」
そこいるはずの幹部達は一人もいなかった。
まずい。これで王の天幕にいたりしたら邪魔が増えて面倒だ。
慌てて外に出て確認する。でも何も聞こえない。
戸惑う僕をよそに、事態は進行していた。
幹部の不在に内心不安を覚えつつも、警戒は怠らずに王の天幕へ向かう。
もう逃げられない。
「王よ、今少々宜しいでしょうか」
「…誰だ?」
「コウです」
「コウか。入れ」
無事に許可が降り、僕は王の天幕内部に足を踏み入れる。
プレッシャーで背中に嫌な汗が流れて気持ち悪い。全くもって心臓に悪いものだ。
そうして僕は周りに目を走らせる。幹部達がいるかとも思ったのだが、杞憂だったようだ。王は今一人。チャンスだ。
「戦況は拮抗しております。ここからどうされますか?」
まずは当たり障りない話から話してタイミングを図る。
「ふむ。レイオスも封じられているとなると…ヴァルガンに出てもらうか…」
王が考え込む。今やるしかない。
そう考えると同時に僕は何かに気づいた振りをして駆け出す。ソウのいる方向へ。
「何者だ!?」
僕に切り払われた天幕がたなびく。そこにいた幼馴染は満足げに笑って、一言。
「やるじゃねえか」
そうしてそのまま構えられたソウの杖から、勢いよく魔術が放たれた。
ーーーーー
ぼんやりとコウの声が聞こえる。王も一人のようだ。
俺が身構えたその直後。
目の前の布が切り裂かれた。
俺は布の切れ目から顔をのぞかせた幼馴染に一言。
「やるじゃねえか」
そして俺は“蒼き光の奔流”を王へ向かって構え、間髪いれずに魔術を放出した。
「『雷槍』!!」
コウはいかにもしまった、という顔をして王の方を振り返った。…こいつの演技力も捨てたもんじゃないな。
俺の魔術は真っ直ぐに王へ向かって飛んでゆく。だが、それが標的を貫くことはなかった。
王の体に正に当たるというその瞬間、かき消えたのだ。まるで元々そこには何もなかったかのように。
「…は!?」
俺だけでなくコウまでもが信じられないという顔をしている。
「私が何の備えもしていないとでも思っていたのか?」
「…『氷結弾』」
試しに俺は他の魔術も使ってみたが、結果は変わらなかった。
たが、原因は分かった。
俺の目が捉えたのは、王の胸元に光る御守りが俺の魔術をかき消している所だ。
アクセサリーなどの魔具の一種だろう。抗魔の御守りの類だろう。
厄介なことになった…が、こちらにも策がない訳じゃあない。
プランBを実行しよう。




