第三十三話 幼馴染の実力
「あーあ、出会っちまった」
余裕を匂わせてみたものの、俺の額にはかなりの汗が浮かんでいる。
目の前には大型の熊の魔獣。
体長は三メートルはあろうかという巨体に、その体に見合う大きさの爪。そしてその爪はマグマが固まってできたものであり、高熱を帯びている。
今の一撃で仕留められなかったのがお気に召さなかったのか、怒気がこちらにまで伝わってくる。
油断していた。幽霊の索敵があるから出会うはずがないと。
まさか地中からだとは、思いもよらなかった。
恐らく、この魔熊という魔獣は基本的に地中にいるのだろう。熊が冬眠をするようなものだ。
そして縄張りに何者かの侵入を、どちらかは分からないが恐らく“音”もしくは“振動”で察知し、その真下へ位置どると同時に上へマグマを噴射する。
するとあっという間に獲物の丸焼きの完成だ。
補足するなら、おそらく縄張りというのは魔熊の探知が届く範囲だろう。
残念ながら遭遇してしまったものは仕方ない。対処を考えなければ。
「『氷結弾!』」
まず俺は魔熊の口を凍結させた。なぜならここで魔熊に吠えられでもしたら、最終目的であるヴェーリエの王や幹部達の注意を引いてしまうからだ。それだけは避けなくてはならない。
そして、俺の魔術に更に怒気を撒き散らしている魔熊にどう対処しようか悩んでいるとーー
「ここは、僕に任せてくれない?」
そういってコウが俺の前に立つ。
「ソウはドルマ倒したみたいだし、僕もいいとこ見せたいんだよ」
コウはさきほどの剣を抜き、ニヤッと笑った。
仕方ない、こいつの実力を見せてもらうことにしよう。
吠えられないイライラもあいまってか様子見をする様子などかけらもなく、突っ込んでいく魔熊。その巨大で強大な爪でコウへと襲いかかった。
くらえば一溜まりもないその一撃を、コウはその場に留まり受け止めた。俺なら避けるな、絶対。
「格好つけすぎじゃねえか?」
「そんな褒めないで…よッ!」
そんな軽口をたたく余裕位はあるらしく、コウはそのまま魔熊の懐に飛び込み剣を腹の中央に深々と突き立てた。
「あんまり派手に暴れられて気づかれでもしたら…困るんだよね」
魔熊は動けない。コウはそのまま剣を突き刺したまま上へ少し切り上げた。魔熊が痛みにうめき、体をよじって剣から逃げようとする。だがコウはそれを許さない。
「魔剣…“血染めの紅刃”」
その剣の名が呟ばれると同時に、魔熊の力が抜けた。
そしてコウは剣を引き抜く。僅かな時間ではあったが、今の行為が魔熊にかなりのダメージを与えたのは明白だった。それだけではない。逆にコウの剣は力を増したように感じる。
「契約者自身の血を吸わせるのと比べると効果は半分以下だけど…誰の血でも吸収できるよ」
その刃を染める紅色は気か、はたまた血か。
それを判別することはかなわないが、ともかくその紅色の煌めきは獲物へと牙を向いた。
魔熊は最後の抵抗とばかりに手の平にある穴からマグマを流しその爪に纏わせ振るった。並の相手であるならば、この赤熱した刃と化した爪は絶大な威力を発揮するであろう。だが、獲物の命を刈り取るかに思われたその腕がコウに襲いかかることはなかった。
なぜなら。
振り下ろされた腕の肘から先に何もなかったからだ。その時肘から先は中空を舞っていた。
「流石に自分の血じゃなきゃ硬いとこは斬れないけど、腕を両断する位ならわけないんだよ」
そして、何が起きたか分かっていないのか不思議そうに自分の腕を見つめている魔熊との距離を詰めーーそのまま通り過ぎた。
「『紅桜・“剛”』」
その直後、魔熊の腹がざっくりと裂ける。どうやら魔熊の脇を通りすぎるその一瞬で斬撃を叩き込んでいたようだ。
魔熊がゆっくりと大地に沈んだ。
血の飛沫は、桜の如く。その名の通りの技だった。
そして俺は何気なく上を見やり、あるものに気づく。
「ソウ、終わっ…」
「『風弾』」
コウの頭上を俺の風魔法が掠める。そして魔術が放たれた先にあるのは、俺の魔術に弾き飛ばされた魔熊の手の先だ。
先程斬って打ち上げられた手先が落下して来ていたようだった。
俺が気づかなければコウにぐさりでグロッキーだっただろう。
「ツメが甘えんだよ」
「別にあれ位自分でどうにアリガトウゴザイマス」
俺の視線に気づいて態度を覆すコウ。やはりこいつはこういう奴だ。
こうして俺たちは無事に危険領域を抜けたのであった。
もう、敵は目の前だ。
ルナ描き忘れてることに気づいた…
いずれ描きます…
あと魔熊はあれです
そんな強くないです




