第三十二話 遭遇
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俺はできる限り急いでさっきの場所へ戻っていた。勿論、風魔法を使って。
だが、俺がそこについたとき、そこには誰もいなかった。急ぎすぎたようだ。
「コウはまだか…待ってよう」
ひとりごちてその場に座り込む。まあ、少し待っていれば来るだろう。
ーーーーー
「…遅い」
あいつの性格を考えると色々可能性が出てくるが、事態が事態だ。
何かあったのではと心配になってきたその頃。
「ごめんソウ、待った?」
「ちっ」
そういうセリフは街中のデートとかで聞きたかったんだよ、こんにゃろ。俺は思いっきり苦々しげな顔で舌打ちをした。
「ちっ!?久々に会った家族が無事に戻ってきたのにちっ!?」
すぐさま突っ込んできた。うむ、反応は悪くない。
「いやあ、マギロデリア兵に捕まってて…」
「…肩に毛玉ついてんぞ」
「えっ!?さっきちゃんと…ハッ」
「嘘だよ」
やっぱりか。かまをかけといて良かった。
やれやれ、と俺はため息をつく。こいつは昔から動物が大好きで、ほっとおけないのだ。
おそらく途中にいた野良猫か何かとじゃれていたんだろう。
「てめえ時と場合を考えやがれ」
「おいっす」
だがまあ、一応やるべきことは全てやってきたようだ。それを聞いて、俺は何とか溜飲を下げた。
まず、コウの情報によると王の近くにいるある程度以上の実力者は四人。七幹部が三人に、総隊長が一人だ。この総隊長というのはかなりの強者らしく、できれば接触しないように向かうのがいいというのがコウの意見だ。その他にも召使あたりはいるらしいが、まあそれはおいといていいだろう。
誰とも接触せずに王の元へたどり着くのがベストだが、幹部の一人や二人にはどうしても接触してしまうかもしれない。慎重にいこう。
そして、森を迂回してゆけば王の天幕の背後を取れることが分かった。が、ここに一つ大きな問題がある。
確かに道は人が通れる道ではないレベルで荒れているが、そこはなんとかなるだろう。大したことではない。
たが途中に魔熊の縄張りを通らねばならない箇所があるらしい。
魔熊というのは、とても凶暴な熊型の魔獣だ。
そもそも魔獣というのは、滅多に人前に姿を現さない。ほとんどが人に害をなさないよう、共存して生きている。例外的に危険指定魔獣というものが存在するが、それ以外は目に触れることすら稀である。
そして、魔熊は危険指定魔獣ではない。
だが、たまに人里におりてしまう魔獣ーーはぐれ魔獣と呼ばれるーーもおり、それらは仕方なく討伐対象となる。その場合、王宮兵士などが討伐にあたる。
つまりそれゆえに、人から魔獣へ近づく者には容赦がない。
今回の場合は、ほとんど人の通ることのできない森の中のため、魔獣の住処に人が入ってゆくケースとなる。だから、非常に危険なのだ。
しかし、俺たちはそこを通らないわけにはいかない。正面から王を討ちとるのは流石に無謀すぎるだろう。
遭遇しないことを祈るしかない。
しかも俺たちには奥の手がある。おそらく大丈夫だろう。
こうして、俺たちは行動を開始した。
流石に剣士なだけあり、身体能力は俺よりコウの方が上だった。まあそれは先刻の戦闘でわかっていたが。
草や枝をかき分け道無き道を進み、ようやく件の縄張りに差し掛かるというところへ到達した。
ここで俺たちは予定通り奥の手を使うことにした。
その奥の手とは。
「じゃあイサナ、よろしく」
「!?」
そうだ、幽霊である彼女に索敵してもらえば、絶対に遭遇することなどあり得ない。
これぞ俺の奥の手であった。無論、本人ならぬ本霊は言葉にならないくらい驚いていたが。
ぶつくさいいながらもちゃんと索敵は行ってくれたようで、見る限りでは魔獣はいないようだった。
それを聞いて一安心した俺達は慎重に慎重を重ね、少し進むごとに前方の様子をイサナに探ってもらいながら進むという完全体制で歩を進めていった。
だが。俺たちは失念していたのだ。魔熊という魔獣の恐るべき索敵能力を。
その時は突然やってきた。慎重に進み、縄張りの中ほど辺りまで来た頃だろうか。
相変わらずイサナ頼りで一行は進んでいた。
しかし、頼っていたのは彼女の視覚。見えないところからの襲撃には備えられなかったのである。
熊というほどの大きさがあるという事実が、ソウ達から視認できないという可能性を完全に除外していたのだ。
「…なんか…熱い?」
「確かに…!?まずい…そういうことか!避けろコウ!」
そう言って俺はコウもろともその場を離れる。
するとそこからマグマが噴き出し、大きな熊の魔獣が現れたのだった。
野生の魔熊が現れた!




