第三十話 嘘の記憶
やっと!30話!
ありがとです!
「お前…イサナが見えるのか?」
「え、その女の子のことなら見えるけど」
今まで誰も見えなかった霊をコウは当然のように認識していた。
「え?普通は見えないの!?」
「まあ、今までは俺しか見えてなかったな」
あせって聞いてくるコウに俺は事実を伝えた。一応信じているやつはいるが。
「…イサナ?」
「こればかりは妾にも分からん」
だ、そうだ。いずれわかるのだろうか。
だが、今はそんなことあまり気にしていられない。何度も言うようだが、戦争中だ。
そろそろこれからの具体的な行動を決めようとしたところで、あることに気づく。
「おかしい…どうして援軍がこないんだ?イサナがきてるってことは俺の状況は伝わっているはずなんだが…」
「まだ来てないだけじゃ?」
「いや、そんな時間がかかる距離じゃない」
「ふむ…妾にもよく分からんの…ただ妾は怪我人の状態なんかを見て回っておったらケンタとかいう小僧がソウのピンチじゃというのを叫んでおったから飛び出して来ただけじゃからの」
何か手違いでもあったのだろうか。ケンタに限って伝えてないなんてことはないだろうが…
まあ、今の俺としては好都合だ。説明等が面倒だからな。
「じゃあ、俺はとりあえず一回アカデリア戻って校長あたりに伝えてくる。お前は王の周辺の戦力と侵入経路を探っといてくれ」
「うん、分かった。それにしてもまさかソウがマギロデリアにいるとはね…」
何言ってるんだこいつ。俺はマギロデリア育ちなのにそんな意外でも何でもないぞ…出てったのはコウだろうに。
「いや、普通にお前みたいに出ていかなかっただけだよ」
「へ?いや、何言ってんの?ソウの故郷はマギロデリアじゃないでしょ」
「いやマギロデリアだよ、お前もだろ」
「…!?」
なぜか妙な食い違いが起きる。俺とコウは幼少時代同じところで過ごした。なのになんでこいつはこんな…
「まさかソウ…記憶を改ざんされてる!?ソウの故郷は…ヒノマルでしょ!?」
ヒノ…マル…?
どこか聞いたことある響きだ。
ああ、確かにそんな国があった気がする。でも、そこが俺の故郷?そんな馬鹿な。
そんな心当たりはな…
…いや、ある。
よくよく思い出してみれば、色々とおかしいところがある。
まず名前だ。
スメラギ・ソウなのにここではソウ・スメラギと名乗っているのは何故だ?
そして俺は…ルナに初めて会った時に彼女にどんな印象を抱いた?
そうだ。
大和撫子だ。
ここにそんな言葉はない。
そして極めつけは、お金だ。
俺は1アウドは約1円だと考えた。
…円とは何だ?
俺はその単位を、どこで知った?
まるでパズルのピースのように、出来事が繋がってゆく。
俺はマギロデリア生まれじゃ…ない。
じゃあ何故忘れていたのか。
「大丈夫?誰か身近で昔から仲いい『和名』の人は居ない?」
「そんな…まさか…」
俺の中で、一つの名前が浮かんだ。
ケンタ・ヒカクシ。
「さっきの子か…信じたくないだろうけど…多分その子が記憶を」
「なわけねえだろ!コウといえどもそれ以上あいつをけなしたら許さねえぞ!さっきだってすぐに助けを…」
ここでさらに。
俺の記憶は追い打ちをかける。
「イサナ…お前さっき…何て言った?」
「?ケンタが叫んでいたから飛びだした、かの?」
「違う、その前だ」
「怪我人の状態を見回って…」
そこだ。
それは、あり得ない。
イサナがその時怪我人を見ているなんてことは、あり得るはずがない。
「イサナはすぐにやって来た。お前が怪我人を見ていたなら…ケンタはどうやってお前に伝えたんだ?」
「じゃから叫んで…」
「ケンタはお前が見えないんだぞ?さっきの場所にいたならまだしも、怪我人のところはさっきの場所から遠い」
そう。もし手当たり次第叫んでいたとしても、到着が早すぎる。
「ケンタはイサナが…見えている?」
その上援軍は来ていない。
そして、ケンタは森に入る前俺を止めた。
コウと会って記憶が戻ると思ったのなら、止める理由としては十分だ。
辻褄は、合う。
考えれば考えるほど、ケンタの仕業に思えてくる。
疑いたくないのに、疑わざるを得ない。
ケンタに会いたい。
会って、確かめたい。
そしてそんな訳がないって、笑いあいたい。
だがこのあと俺が作戦のためにアカデリアに戻ると。
そこに、ケンタの姿は無かった。




