第二十八話 運命の選択
ソウの画像ありです
爆音の耳鳴りと土煙がようやく収まって、俺は土壁から顔を出した。
そこにはあの闘技場で見たのと同じようなクレーターができており、他には何もなかった。
爆発で体が霧散したのか、それとも爆風で彼方へ吹き飛んだのかは分からないが、ともかくそこにドルマの姿はなかった。
辺りに隠れていないのを確認し、やっと俺は安堵の一息をつくことができたのである。
だが、休んでばかりもいられない。俺は気を失っているルナを抱え、アカデリアへと帰還するのだった。
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「ソウ!来てたのか!」
俺がアカデリアに戻ると、出迎えたのはケンタだった。とりあえずルナを救護へまわし、ケンタの話を聞く。
聞くところによると、こいつも一人主力を倒したらしい。だが、戦況は五分といったところだ。今、レイオスという男とワタヌキ副長が戦っているらしいが、そこの決着次第でどちらにも傾くのだとか。
俺は少し治癒魔法をかけて貰った後、また戦場へ赴くことにした。副長を手助けしたい気持ちは山々だが、足手まといになりかねないので、他のところの援護だ。
とりあえず副長の勝ちを祈ろう。
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「なんでお前まで来たんだよ」
イサナに一番戦況の悪い箇所を聞き、そこに向かっている途中、俺はついて来たケンタに声をかけた。
「んー?おいおい、俺たち運命共同体だろ?」
いつもの軽い調子で言ってくるケンタ。もしかして暗い戦争の雰囲気を消すために…いや、どちらにせよ気持ち悪いな、うん。
「まあ冗談はおいといて、一人で行かせるかよ。だって俺ソウくんのこと大好」
「はっ倒すぞ」
その後も無駄に高いテンションで絡んできたが俺が魔術を唱え始めると流石に黙った。
なにが冗談はおいといて、だ。こいつが冗談を言わなかったことがあっただろうか。…ないな。
「あ…この森抜けたら近道だ、こっち通るぞ」
目的地へ赴く道すがら、はぐれ兵を倒しながら進んでいると、覚えのある場所へ出た。
道は整備されていないがこの森を抜けると大きな時間短縮になる。
それを知っていた俺はそう声をかけたのだが、
「…あー…その、辞めとこうぜ。本当に抜けるかどうかわかんねえし…」
滅多に反対意見を言わないケンタがやんわりと反対してきた。
「は?…いや、俺一回抜けたことあるから。ほら行くぞ」
「…記憶違いかもしれねーだろ?」
「合ってるっつの。なんだよ、そんな信用できねーのかよ?なんか理由でもあんのか?」
「それは、その…」
なんとも歯切れの悪い言い方にいらいらした俺は我を通す事にした。
「あーもう、一刻を争うんだぞ?じゃあお前は普通にいけよ、俺は一人で抜けるから」
そう言って強引に行こうとすると、ケンタは文句を言いながらもついて来た。
そして。
「…どうなっても知らねーぞ?」
誰にも聞こえない声で、ケンタはそう呟いた。
俺たちが森を駆け抜けていると、不意に物音が聞こえた。
獣やはぐれ魔獣の可能性もあるので、慎重に近づいて声をかける。
「…誰だ?」
反応はない。しばらくして近づくと、俺の目に光が煌めく。
「危ねえっ!」
ケンタが俺を引き寄せると、さっきまでおれの頭があったところに短剣が突き刺さった。
「…敵か」
「中々の反応だね」
その声と共に姿を現したのは俺たちと同じ位の年の男だった。
薄暗い森の中なので顔はよく見えないが、殺気がビシビシと伝わってくる。
こいつ…強い。
「ケンタ、応援を呼んで来てくれ。あとできればイサナも頼む。俺が足止めしておくから、早く!」
「…わかった!」
ケンタは先刻アカデリアで俺とイサナがやりとりしているところにいた。イサナがふらふらせず先刻のところにいたなら、ケンタならどうにか連れてきてくれる筈だ。
ケンタが後ろへ消えてゆくのを確認すると、俺は男に声をかける。
「まさかこんな森の中にまで敵がいるなんてね」
「…逃がしてくれるなんて優しいんだな」
「…まあね」
言葉のやりとりはそれだけだった。時間を稼ごうという俺の目論見は見事に破られたわけだ。
そしてこの男、強い。
頑丈さではドルマの方が上だが、技量においてはドルマをはるかに凌駕していた。事実、俺は防御で手一杯だったのだ。今は防御にだけ魔術を回しているからなんとかしのげているが、攻撃しようものならすぐに隙を突かれやられてしまうだろうことは目に見えていた。
だが、俺の役目は援軍が来るまでの時間稼ぎ。こうして木に隠れて土魔法で撹乱するだけでしのぐことは可能なのだ。
「あー…めんどくさ…」
俺の撹乱に嫌気がさしたのか、急に立ち止まった男は指を噛み、少し血を流すと、その指を剣身へ滑らせた。するとその剣は一瞬だけ鈍く紅い光を放ったかと思うと、その刃は少しだけ紅みを帯びていた。
「…そこだね」
気づくと俺が隠れていた木が両断されていた。突然のことに俺はパニクり、かけ出した。急いで開けた場所に出ると周りがいやに静かに感じられた。
やばい。見失った。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい…っ!
「ソウ、右じゃっ!」
そんな声が聞こえた。咄嗟に右を向くと、飛び出して来た男が見える。無我夢中で杖を構え、男の剣を受け止める。勢いでローブが捲れた。
「ありがとな、イサナ」
「礼には及ばん」
俺は頭上を漂っている霊にお礼を言い、敵に注意を向けるが男はそれ以上何もしてこなかった。不審に思っているとついに男は口を開いた。
「ソウ…なのか…?」
「…は!?」




